ハリウッド大作が“日本原作”と公言する時代になった
現在公開中の『アリータ:バトル・エンジェル』の、目が異常に大きい少女のCG キャラを見た時「気色悪っ!」と思ったと同時に、頭の中に浮かんだ顔がある。
アン・ハサウェイ、アマンダ・サイフリッド、エマ・ストーン。昨今ハリウッドで流行の「目ん玉飛び出し女優」たちの顔だ。アン・ハサウェイのブレイクを嚆矢に、これら宇宙人のような顔をした女優たちが続々と登場した。それは言わば「トレンドの顔」だ。奥歯にモノが挟まったような物言いをしてしまいそうだから、ずばり訊いちゃおう。これって、目頭だか目尻だかの切開手術の成果なの? 昔はいなかった顔だよなあと思う。だからと言って別にどうでもいいのですが、ただ訊いてみたかっただけ…。
この『アリータ』、日本の漫画の「銃夢」が原作である。今でこそ「攻殻機動隊」や「All You Need Is Kill」など、日本の作品が原作のハリウッド大作は珍しくないが、少し前のことを考えると、今の状況とは隔世の感がある。
1994 年に公開されたディズニー映画『ライオン・キング』が手塚治虫の「ジャングル大帝」にプロット、キャラクター、シーンが酷似しているとアメリカ内で指摘された。さらに、日本からは里中満智子がライオン・キングの配給元に質問状を送り、漫画家82 人をふくむ計488 人が賛同の署名を添える騒動があった。結局、手塚プロダクションが「もし手塚本人が生きていたら、自分の作品がディズニーに影響をあたえたというなら光栄だ、と語っただろう」という声明を出して、騒動は沈静化した。盗作問題の真相など証明しようもないが、25 年前はまだそういう時代だったのだ。
これって日本の漫画と似すぎじゃない?
私の中にも「これって日本の漫画からパクったよね?」と長年思っている、ハリウッド作品が二つある。いや「パクった」は言い過ぎだ。どちらの作品も設定やプロットが、その漫画とはまったく異なっている。しかし、作品の最も重要なアイディアが同じなのである。
1996 年に公開された『インデペンデンス・デイ』がその一つ目だ。この映画は1982 年に第1巻が発売された小山ゆうの漫画「愛がゆく」から、アイディアを拝借しているはずだ。
と、いってもそのアイディアとは、空をも覆うほどの超巨大飛行物体が、地球の都市の上に突然現れ、人類を支配するという部分だけである。しかし、その画のインパクトがこの映画の全てあり、シーンのイメージは酷似している。『インデペンス・デイ』は宇宙人の侵略者であるが、「愛がゆく」は、未来人が現代人を支配するために襲来する話だ。未来の政策を決定する“ブレイン”と呼ばれる人工頭脳が、極東に人類を滅ぼす“悪魔の子”が生まれると予見する。それを知った、“悪魔の子”の母親がその子を過去に逃がす。この母子は、時の壁をも越えられる、人類最強の全能の超能力者である。その子を抹殺するために、未来人が現代にやって来る。って、なんだかこれって、『アリータ』の製作を務め、日本の漫画のファンだと公言する、ジェームズ・キャメロンの出世作『ターミネーター』(1984年)にも思えてきたけど…。
エスターと赤んぼ少女・タマミに共通する、大人の女として認められない嫉妬心
2009 年公開のホラー映画『エスター』の元ネタは、楳図かずおの1967 年(!)の作品「赤んぼ少女」だと睨んでいる。
『エスター』のあらすじは、3人目の子を流産した妻がその心の傷を癒すため、孤児院からエスターという名の9歳の少女を養子に迎える。しかし、9 歳だと思っていた少女は「ホルモンの病気でずっと少女まま」の33 歳の女だった。女は「非常に凶暴な性格」で、養子先で次々と殺人を犯しては、姿を消していた。最後の養子先となるこの家でも、巧妙な心理戦を仕掛け、夫婦家族を仲違いさせ分断する。そして、夫を味方につけたと思い込むと、ドレスを着て化粧をし、色仕掛けで誘惑する。それを拒否されると突如凶暴な本性を現す。
「赤んぼ少女」のタマミも「なぜか赤ちゃんのまま成長しない」が実は思春期の年齢になる少女である。タマミは父親により施設に預けられていたが、母親がこっそりと屋根裏で育てている(ひどい!)。そこに、行方不明だったこの家の実の娘である葉子という美しい少女が現れる。葉子を排除するためにタマミは凶暴化する。最後は、葉子と彼女のいとこの美男子・高也に激しい嫉妬を燃やす。
両作品は成長が止まる病、状況は逆だが家族に新しい一員が加わるプロット、性的に女として認められない者の狂気化した嫉妬心というテーマが一致する。また、『エスター』の作品中で家族が使用する車は日本車のレクサスで、子供部屋の壁にはキティちゃんの絵が飾られ、主役のエスターが楳図かずお漫画趣味のゴスロリファッションを頑固に好む設定などは、制作側のエクスキューズのようにも私には見える。
エスターで妻役を演じたヴェラ・ファーミガは、ヒッチコックの『サイコ』(1960年)の前日譚を描いたテレビドラマ「ベイツ・モーテル」(2013年~)で、サイコキラーの息子・ノーマンの母親役を担当している。つくづく子育てに苦労する女優である。『サイコ』の前日譚ということは、最後には息子に剥製にされてしまうのだから。
コラムの内容上、ほとんどネタバレになってしまったが、『エスター』はホラー映画らしく、エンターテイメントに徹して作られており、非常におもしろい。何よりエスターが家族を心理的に追い込んで行く脚本が素晴らしいし、エスター役の当時12 歳だったイザベル・ファーマンの演技は圧巻であり、難聴の妹役を務める当時8 歳のアリアーナ・エンジニアの演技も素晴らしい。
蛇足であるが、「赤んぼ少女」のタマミは、なぜか牙が生えているその凄まじいルックス、最後の最後、命が尽きる直前「タマミはわるい子でした」などと突然豹変するラストシーンなど、楳図ファンに「タマミ」と言うだけで、きっと笑い出すであろう、悶絶キャラなので是非チェックして欲しい。
文:椎名基樹