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草彅剛が独裁者を演じ、JBを歌い踊る! ヒトラーをギャングに置き換えた舞台「アルトゥロ・ウイの興隆」上演中

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ライター:#石津文子
草彅剛が独裁者を演じ、JBを歌い踊る! ヒトラーをギャングに置き換えた舞台「アルトゥロ・ウイの興隆」上演中
「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:田中亜紀

草彅剛がJBを歌い踊る

草彅剛の主演舞台「アルトゥロ・ウイの興隆」が、2021年11月14日から横浜市のKAAT(神奈川芸術劇場)で上演中だ。熱狂と興奮の中に、戦慄を覚える2020年の舞台の待望の再演で、ヒトラーの分身といえるギャングを演じる草彅が、縦横無尽に踊り、歌いながら、観衆を支配していく。

「アルトゥロ・ウイの興隆」

「アルトゥロ・ウイの興隆」は、ヒトラーが独裁者として台頭していく過程を、シカゴのギャングに置き換えて描いたドイツ演劇の巨匠ベルトルト・ブレヒトの問題作。これを演出の白井晃は、ジェームス・ブラウンを中心としたファンク・ミュージックを散りばめた、ショー仕立ての音楽劇として現代に甦らせた。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:石津文子

ギャング団のボス、アルトゥロ・ウイを草彅が演じ、神保悟志、渡部豪太、松尾諭、小林勝也らが初演から続投。さらに榎木孝明、七瀬なつみが加わり、いずれも強烈な個性を発揮している。劇中の音楽はファンクバンド、オーサカ=モノレールによる生演奏。ボーカルの中田亮はMCとして、草彅とともに群衆を煽っていく。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:田中亜紀

ナチスドイツをシカゴのギャングに置換

物語の舞台は不況に喘ぐシカゴ。チンピラのアルトゥロ・ウイ(草彅剛)は、政治家ドッグズバロー(榎木孝明)の不正を知る。これをネタに権力を手にしたウイは、さらに放火、恐喝、殺人とあらゆる手段を使って街を支配していく。

きっかけは、どこの街にもある業界団体と政治家の癒着だ。しかしそれを甘くみたことで、人々はウイ率いるギャング団に牛耳られ、さらに彼らの勢力は隣街へと拡大していく――。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:石津文子

劇中、字幕が要所、要所で投影され、舞台上の事件と史実がどう呼応しているか、わかりやすく掲示される。ウイ率いるシカゴのギャング団は、アドルフ・ヒトラー率いるドイツのナチ党の暗喩であり、ドッグズバローはヒトラーを首相に任命したヒンデンブルグ大統領、ウイの右腕で武闘派のローマ(松尾諭)は突撃隊を率いたエルンスト・レーム、口のうまいジヴォラ(渡部豪太)は宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッペルスだ。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:田中亜紀

字幕が追いきれない方には、パンフレットに詳細が書かれているので、こちらをすすめたい。またアルトゥロ・ウイは『アンタッチャブル』(1987年)で知られるギャング、アル・カポネを模してもいる。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:田中亜紀

草彅の魔性、熱狂が生む戦慄

ウイは大衆を味方につけるため、シェイクスピア役者(小林勝也)を招き、演説の仕方、歩き方などを指導してもらう。この時、ウイがヒトラーのような口髭をつけるのだが、その姿はヒトラーにも、チャップリンのようにも見える。それまで狂気と冷酷さを見せていたウイに、滑稽さと寂寥感が垣間見える、役者・草彅剛の真骨頂だ。哀れなユダヤ人理髪師が独裁者と入れ替わる『チャップリンの独裁者』(1940年)にも重なる。しかし、ここからウイこと草彅剛はさらなる魔性を発揮していく。このあたりのコントラストは初演よりくっきりした。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:石津文子

「アルトゥロ・ウイの興隆」はドイツからアメリカに亡命したブレヒトが1941年に書いた戯曲だが、戦後、彼はアメリカを追われる。チャップリンも同様だ。二人とも民主主義を弾圧するヒトラーを糾弾していたのに、それが共産主義的だとみなされてしまったのだ。世の中の恐ろしさは、こんなところにも見え隠れする。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:石津文子

ちなみにドイツ語での原題は「アルトゥロ・ウイの抑えられた興隆」だ。ウイが、ヒトラーが、ファシズムが台頭していくことは抑えられたはずなのに、そこに呑み込まれていく人々。それは自分かもしれない、と草彅剛とオーサカ=モノレールのパフォーマンスに熱狂すればするほど、観る者は戦慄する仕掛けだ。参加型演劇であり、それこそが白井晃の演出の狙いだろう。ファシズムは、すぐそこに潜んでいる。シカゴ、ニューヨーク、ベルリン、大阪、東京……。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:石津文子

ブレヒトのメッセージ、白井晃の見事な演出、草彅のカリスマ性

草彅は赤いスーツに身を包み、「セックス・マシーン」「スーパー・バッド」などキング・オブ・ソウルことジェームス・ブラウンの歌を激しく歌い踊る。KAATの真っ赤な座席と、ステージ上の真っ赤なギャング団たちが一体化する空間は、観る側をどこかトランス状態に導いていく。その中心にいる草彅のカリスマ性は、恐ろしく感じるほどだ。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:田中亜紀

1999年の舞台「蒲田行進曲」で大部屋役者ヤスに潜む魔性を表現しきった草彅剛を、つかこうへいは大天才と称した。映画『ミッドナイト・スワン』(2020年)、大河ドラマ「青天を衝け」(2021年)でもその憑依型の才能は発揮されていたが、やはり草彅の爆発的な演技の力は生の舞台でこそ最も発揮される。「アルトゥロ・ウイの興隆」は2022年1月まで、横浜・京都・東京で上演。

“滑稽なものは戦慄を伴わなければならない”というブレヒトの序文を踏襲した白井晃の見事な演出、そして、草彅剛の天才役者ぶりを見逃してはならない。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:石津文子

草彅剛:コメント
ギャング団のボス、アルトゥロ ・ウイはとにかく野心に溢れた人物。ウイの気持ちを受け止めて演じること、そして歌に踊りに、心身ともに大変な舞台ですが、自分の積み上げてきた全てを出せる集大成となる舞台だと思っています。今回は横浜・京都・東京と3都市で上演できることも楽しみにしています。まだまだ気をつけなくてはいけない日々が続きますが、舞台からエネルギーを伝えられるよう、2022年までカンパニー全員で突っ走ります!!

白井晃:コメント
初演から2年弱の間に世界は大きく変わりました。あの時、問題にした政治的状況も一見変化したようで、実は益々深刻になっています。それだけにこの作品の必要性が増しているように思います。リハーサルの中で、草彅さん演じるウイも益々鋭角的に研ぎ澄まされてきています。全神経をこの作品に注ぐ姿は清々しくもあります。キャスト・スタッフともに更にパワーアップされて、世界を突き抜く作品がお見せできそうです。この瞬間を是非とも目撃ください。

「アルトゥロ・ウイの興隆」撮影:田中亜紀

文:石津文子

「アルトゥロ・ウイの興隆」
横浜公演:2021年11月14日(日)~12月3日(金)@KAAT神奈川芸術劇場 ホール
京都公演:2021年12月18日(土)~12月26日(日)@ロームシアター京都 メインホール
東京公演:2022年1月9日(日)~1月16日(日)@豊洲PIT

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「アルトゥロ・ウイの興隆」

シカゴギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家ドッグズバローと野菜トラストとの不正取引に関する情報をつかんだ。それにつけこみ強請るウイ。それをきっかけに勢力を拡大し、次第に人々が恐れる存在へとのし上がる。見る見るうちに勢いを増していくウイを、はたして抑えることができるのだろうか……?

制作年: 2021
出演: