『芳華-Youth-』文化大革命と共に、若者たちの青春があった

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ライター:#大倉眞一郎
『芳華-Youth-』文化大革命と共に、若者たちの青春があった
『芳華-Youth-』© 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved

日本で文化大革命

『芳華-Youth-』© 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved

私は「東方紅」と「下定决心」をそらで歌える。
なんのことだか、と思っていらっしゃる方が恐らく90%以上だわね。
文化大革命で盛んに歌われた毛沢東賛歌であり、「勝利をもぎ取るまでは」みたいな革命賛歌でございます。

私が育った山口県下関市は安倍首相の選挙区で極めて保守的なところだけど、なんせ極端に走る人間が多いので逆に左の連中も結構いた。
私の両親は日本共産党を除名された方々が作った日本共産党左派のシンパで、私が小学生の頃からその組織の議長だった福田さんがよく自宅に来ていたから、穏やかじゃないでしょ。
彼らは親中派だったので私も感化され、日本で当時唯一中国製品の輸入を行っていた下関の紅石という貿易会社で高校生の頃から夏冬の長期休暇にアルバイトをし、楽器を買うための小銭を稼いでおりました。
毎朝、毛沢東語録を皆で声を合わせて読み上げていたんだから普通じゃない。「アメリカ帝国主義は張子の虎である」が一番人気。
人民帽かぶってバンドやってたんだから、かなりパンクだわ。
上海歌劇団が下関に来たときには、手伝いに動員されて、同世代の可愛い女の子と筆談で盛り上がったりしたっけか。

歌が歌えるのは大学に入って中国語の授業の担当教授から一度聞かされて以来耳にこびりついてしまい、それから40年以上の年月を経てもビシッと覚えているからです。
中国出張の夜、カラオケキャバクラみたいなところへ行って歌ってみても若いお姉さんたちはポカーンとしていて、何の歌だかわからない。
「うちのおじいちゃんが歌ってた」って娘がいたな。

で、1976年に毛沢東が死去し、側近であった四人組が逮捕され、あっけなく文化大革命の幕は降ろされてしまった。
1981年には中国共産党が文革批判を行う。そこから次々に文革の実態が明らかになり、私も深い幻滅を味わい、罪悪感さえ覚えることになった。
あ〜あ。

紅衛兵はどこへ行った

『芳華-Youth-』© 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved

この作品は文革時期の文工団(軍を慰問する歌舞音曲団)で青春時代を送った若者たちの群像劇。

文革の実態を知った私は、紅衛兵が片っ端からインテリ、年寄りにおかしな帽子をかぶせ、街を引きずり回している光景にうんざりし、あの連中はみんな同じ顔をしているけど、笑ったり、悲しんだりしなかったんだろうか、と常々疑問に思っておりました。

文工団は飛び抜けたスタイル、器量、実力を持っている若者だけが選抜された組織だけど、人民解放軍の一部だったのだから、紅衛兵と同格、あるいはその上の位置づけ。
一糸乱れず銃を片手に拳を振り上げる踊りからは、それぞれの若者の「個性」を感じることはできない。
しかし、10代、20代の若者が頭を空にして、国のため、軍のためだけに生きていられるはずがない。
嫉妬、いじめ、友情、恋心、なんでもある。
それがなんだかとても愛しい。
ミャオ・ミャオのあまりにも儚げで透明感さえ感じる美しさが、私を惑わせていることは間違いないが、あの同じ顔にしか見えなかった若者たちが、この作品の中では喜怒哀楽を爆発させ、キラキラと顔を輝やかせている。
青春万歳。

文化大革命を題材にした映画は中国でこれまでも何本も撮られていて、迫害された側から声を上げたものがほとんどだった。『芳華-Youth-』は直接的な権力闘争とは無関係ではあるが、文革を支えた若者たちを主人公に据えたものとしては初めてではなかろうか。

1979年の中越戦争を「自衛的反撃戦」と作品中で説明していることで、ある限界を感じたりもしたが、それでもこの青春映画はギリギリまで頑張った。若者たちの感情、振る舞い、決断を細やかなディテールと心遣いで描いている。
私とほぼ同じ歳の製作・監督のフォン・シャオガン(男性)は20歳の時に文工団に入り、美術を担当、原作・脚本のゲリン・ヤン(女性)は12歳で文工団入りし、バレエを踊っていた。二人が当時の自分の記憶を重ねているからである。

『芳華-Youth-』© 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved

試写の時に渡されたパンフレットを眺めながらこの原稿を書いているが、ピックアップされたカットポジの画角の美しさは中国映画ならではで、いつものことながら息を飲むほど。
文革が終わり、その後、若者たちはどのような生活を強いられたのか、人生の選択をしたのか、皆さん一緒に体験されてはいかがでしょう。

習近平政権がどこへ向かおうとしているのか定かではないが、未だに毛沢東を讃えざるをえないことが中国という国の舵取りの難しさを象徴している。
昨今、瞬く間に中国を変えた市場経済の波に乗れなかった人、格差社会に疑問を持ち始めた人が毛沢東を再び評価し始めているらしい。
毛沢東の生家は観光客でごった返している。
彼らが再評価をしているのかどうかはかなり怪しいが。

文:大倉眞一郎

『芳華-Youth-』はAmazon Prime Videoで配信中

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『芳華-Youth-』

激動の嵐に包まれた70年代、中国。時代に翻弄された若者たちの、美しく切ない青春ラブストーリー。

制作年: 2017
監督:
出演: