不滅の輝きを放つ名作!裏窓を通して人生を知る
裏窓とは、建物の正面(ファサード)に対して、裏(リア)にある窓という意味。ファサードが表通りに面しているのに対し、裏窓は建物の裏、たいてい中庭がある側に面している。映画の舞台は真夏のニューヨークなので、今なら建物の壁はエアコンの室外機でいっぱいで、そこから排出される熱気と騒音で、とても窓など開けられない状態だろうが、映画が描いている50年代は、まだエアコンが一般家庭に普及していない頃で、中庭には住民が作った花壇があって、今とは比べものにならないくらい生活にゆとりがある。
主人公はプロのカメラマン、ジェフ(ジェームズ・スチュワート)。自動車レースの迫力あるクラッシュ場面をカメラに収めようとして事故に巻き込まれ、骨折してグリニッジ・ヴィレッジのアパートで車椅子生活を送っている。真夏のニューヨークは35℃の熱気。誰もが窓を開け放しているので、商売道具のカメラの望遠レンズで隣人たちの私生活を覗き見るのがジェフの楽しみになっている。ジェフは部屋を訪れる美しい恋人のリザ(グレース・ケリー)と訪問看護師のステラ(セルマ・リッター)を相手に、隣人の噂話をしては暇つぶしをしていたのだが、ある雨の夜を境に、向かいのセールスマンの妻の姿が消え、もしや夫が妻を殺したのではないかと疑いがわき起こる。友人のドイル警部補(ウェンデル・コーリー)に捜査を持ちかけるも一笑に付されてしまい、しかし、セールスマンの怪しい振る舞いに不審はつのり、ついには真相を確かめるため、歩けないジェフに代わって、リザが向かいの部屋に忍び込むことになるのだが…。
溜息がでるほど美しいグレイス・ケリー
原作はミステリー作家コーネル・ウーリッチ(筆名ウィリアム・アイリッシュ)の短編だが、映画化にあたってヒッチコックは、結婚をめぐる男女の恋の駆け引きというロマンスの風味を映画にプラスした。そして意外なことに、けれどもヒッチコック映画としては当然の成り行きで、この駆け引きは、女性のリザが攻撃、男性のジェフが守勢に立つ。リザを演じるグレース・ケリーは、今ではエルメスのケリーバッグに名を残していることで知られているくらいだが、気品のある美しさと演技力で注目された美人女優で、55年に『喝采』でアカデミー主演女優賞を受賞した翌年、モナコ公国レーニエ大公と結婚、27歳の若さで芸能界を引退し、世界中の話題になった。ヒッチコック好みのクール・ビューティで、『ダイヤルMを廻せ!』、『裏窓』、『泥棒成金』の3本の映画に出演しているが、特に『裏窓』のグレース・ケリーは、ヒッチコックが腕によりをかけて(イーディス・ヘッドの衣装もすべてヒッチコックの指示で作られた)溜息がでるほど美しく撮っている。こんな女性から攻撃されたら、どんな男性もひとたまりもなく陥落してしまうだろう。もちろん、ジェームズ・スチュワートは立派に健闘してはいるけれど。
人間の真の姿を知るには、裏窓から見るに限る
『裏窓』が単なるサスペンス映画では終わらない、不滅の輝きを放つ名作になったのは、ジェフとリザのラブロマンスの部分もさることながら、ジェフが裏窓を通して人生を知るという大きなテーマにある。妻の浮気を疑い、ついには殺害してしまうセールスマンの夫はもちろんのこと、男たちを手玉にとるように見えて、実は純情だったことが最後に分かる踊り子、失恋の末に自殺しようとして、隣家の窓から流れてきた美しいピアノ曲に救われる孤独なオールド・ミス。いつまでも冒険を追い求め、自分の人生を築くことから逃げているジェフに、人生とは何か、自分にとって大切な人は誰かを教えるライフレッスンになっているのだ。そして、人間の真の姿を知るには、表側からではなく、裏窓から見るに限る、と。
文:齋藤敦子
『裏窓』
コーネル・ウールリッチの短編小説を大幅に脚色し、巨匠ヒッチコックが技巧の極みを尽くした傑作サスペンス。足をケガしたジェフは退屈しのぎに望遠レンズで近所を覗いていたが、思わぬ光景を目撃する・・・。
制作年: | 1954 |
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