『ダンボ』の実写化はティム・バートンが適任!
1941年にウォルト・ディズニーが送り出した『ダンボ』といえば、耳の大きな子ゾウの物語。離れ離れになってしまった親子の絆、というシンプルかつ普遍的なストーリーながらも、異形として生まれた者に対する迫害を徹底的に描き、その上ピンク色のゾウが踊り狂ったりするドラッギーなアニメーションがてんこもり! というディズニーの中でも特異な作品だ。
そんな不朽の名作が、この度、堂々実写化された。監督は『シザーハンズ』(1990年)や『バットマン リターンズ』(1992年)などで「異形の哀しみ」を繰り返し描いてきたティム・バートン。バートンといえば、若かりし日にアニメーターとして入ったディズニーからクビにされちゃったツラい過去があるが、耳の大きな子ゾウという異形の存在を描くことに関してはバートン監督以外考えられないほどの適任だ。
ダンボの愛くるしさ爆発! 殺人級のかわいらしさに要注意
今回の実写化にあたり、ストーリー上のアレンジは多数。第一次世界大戦終結直後の1919年を舞台に、アメリカ各地を巡業するメディチ(ダニー・デヴィート)率いるサーカス団を主軸にし、元のアニメにはほとんどなかった人間たちのドラマパートを増量している。
物語はサーカス団の元スターであるホルト(コリン・ファレル)が戦争からサーカス団キャンプに帰ってくるところからスタート。しかし、迎えにきたホルトの子ども二人は愕然。彼は戦争で片腕を失っていたのだった。いっぽうホルトはホルトで、サーカス団キャンプのくたびれ具合に愕然。留守中に同じくサーカスのメンバーだった妻は亡くなっていて、サーカス仲間も何人か他界してしまっていた。インフルエンザが蔓延したのだ(ちなみに1918年から1919年にかけて世界的にインフルエンザ・パンデミックが起きたことは事実)。
というように、オープニングからなにやら悲壮感いっぱい。しかし、下り気味になるテンションを一気にマックスまで高めるのがダンボの誕生! さすがにアニメ版のようにコウノトリが運んでくることはなくすんなり生まれるが、まぁとにかくダンボが信じられないほどカワイイ! 今回のダンボはフルCGで描かれるわけだが、バートンらしさがある絶妙な奇妙さを持っている造形は愛くるしさ爆発。よちよちと歩きながらお母さんのジャンボに擦り寄るところなんか可愛すぎて死ぬかと思った。
そんな殺人級の可愛さを誇るダンボは、アニメ版では終盤になってようやく大きな耳を生かした飛行をかますが、今回は生まれて早々に飛翔。飛ぶことをことさらに「奇跡」として描くことはせず、持って生まれた耳の大きさの「結果」として描いていることに今日性を感じる。
とはいえ、飛んだら飛んだでアニメ版と同じくサーカスの見世物として利用されるダンボ。そしてダンボで金儲けを企むちょいワル興行師ヴァンデヴァー(マイケル・キートン)も登場し、ダンボは母親と離れ離れにされ、ヴァンデヴァーのテーマパークにメディチらサーカス団は吸収合併されてしまう……。
大人にこそオススメ!『バットマン リターンズ』ファン垂涎のキャストにも注目
前述の通り、アニメ版のようにダンボにだけスポットを当てたわけではなく、ダンボという特異な存在に関わった人々も描かれるのが本作。『バットマン リターンズ』以来となるバートン作品出演のマイケル・キートン、そして『リターンズ』のペンギン役はもちろん、『マーズ・アタック!』(1996年)『ビッグ・フィッシュ』(2003年)などでバートン作品に出てきたダニー・デヴィートの共演は、長年バートン作品を観てきたファンにはたまらないものだろう。
おまけに『ダーク・シャドウ』(2012年)、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2016年)などの近年のバートン作品でミューズとして輝きまくっているエヴァ・グリーンは、妖艶きわまりない空中曲芸師役! バートンさん、エヴァ・グリーンのためにサーカス団の話を盛り込んだんじゃないですか? と思うほどエヴァ・グリーンが素晴らしいのは言うまでもない……。
というわけで、人間もダンボも等しく魅力ほとばしる本作は、そこかしこにバートンらしさが溢れる作品となっている。『ダンボ』というと一見子ども向け作品として見なしてしまいがちだが、むしろ『バットマン リターンズ』ファンの大人にこそオススメしたい。
文:市川力夫
『ダンボ』は2019年3月29日(金)より全国公開
https://www.youtube.com/watch?v=K7dVOZUvHIA