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トリビア超解説!『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』をもっと楽しむ過去作オマージュ&愛ゆえのこじつけ

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トリビア超解説!『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』をもっと楽しむ過去作オマージュ&愛ゆえのこじつけ
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

ネタバレ御免!『007/NTTD』オマージュ解説

映画ファンの皆さんは、2021年10月1日より大ヒット上映中の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を鑑賞済みだろうか。衝撃の展開に言葉を失った熱心な『007』ファンの方は是非もう一度ご覧頂きたい、ということは前回お伝えした通り。

本作は勿論、単独の作品としても十分楽しめるアクション満載のラブストーリーだが、ダニエル・クレイグが主演した過去4作、特に前作『007 スペクター』(2015年)を見てから鑑賞することをオススメする。もしくは同作の内容を忘れてしまった方は、もう一度見直すと最新作とのリンクがよく理解できるはずだ。

さて、『007』シリーズは節目となる作品で過去作品のオマージュと思われるシーンやアイテムを登場させて、我々ファンを楽しませてくれる。シリーズ第10作『007/私を愛したスパイ』(1977年)では、シリーズ第2作『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)のオリエント急行内の迫力ある格闘シーンに負けないアクションを披露した。

記念すべきシリーズ第20作『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)では、シリーズ第1作『007/ドクター・ノオ』(1962年)のウルスラ・アンドレスが海辺からビキニ姿で現れる、映画史に残る有名なシーンをハル・ベリーが見事に再現してファンを喜ばせたものだ。

今回、ダニエル・クレイグが有終の美を飾るシリーズ第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、ファンに向けたサービスが満載だ。『007』シリーズを欠かさず見てきたファンならば当然に気づく基本的なシーンもあれば、言われてなるほど! と膝を叩きたくなるトリビアまで。半分こじつけと言えなくもないが、製作者の「気づく人は気づいてね」というメッセージを密かに発見した時ほど嬉しいものはない。こうして我々ファンは新作を何度も見て、友人に話したくなるネタを探すために繰り返し『007』シリーズを見るのだ。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

※以下、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の内容に触れています。ご注意ください。

『女王陛下の007』へのオマージュで名誉回復

まず第一に見て欲しい作品は、シリーズ第6作『女王陛下の007』(1969年)だ。この作品でボンドはユニオン・コルスの首領ドラコの一人娘トレイシーと本気の恋に落ちて、最後には英国秘密情報部(最近はMI6という呼び名が定着したが)を退職。同僚に祝福されながら結婚式を挙げる。しかし、幸せなひとときも続かず、ハネムーンの途中でブロフェルドとその仲間によって新妻が射殺されてしまう。『007』シリーズでこれほど悲しいエンディングはない。この時、最後にボンドがトレイシーの亡骸に顔をうずめ涙を流しながら語りかけた言葉が「急ぐ必要はない。時間はいくらでもあるから」だった。

これはサッチモことルイ・アームストロングによる劇中挿入歌のタイトル「We Have All the Time in the World(邦題:愛はすべてを越えて)」である。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の冒頭にその美しいメロディが流れ、エンディングで彼の歌声が聞こえたとき、一気に涙腺が崩壊したファンも多かったはずだ。同作は公開当時、演技経験のなかった二代目ボンドのジョージ・レーゼンビーの評判が芳しくなく、ボンドはやっぱりコネリーじゃなくちゃ、と言われたのは彼にとって不運であった。しかし近年、その美しいラブ・ストーリーとキレ味抜群のアクションが見直され、今ではファンが最も愛する作品の一つである。

レーゼンビーは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を実際に見たそうだが、『女王陛下の007』(1969年)の物語をなぞるように、トレイシー役のダイアナ・リグが2020年9月に他界したのは残念だった。彼女は天国で本作を見てくれただろうか。今回『NTTD』でのオマージュをもって、同作の名誉は完全に回復したといえるだろう。

『007/リビング・デイライツ』とV8ヴァンテージ

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』には冒頭、ガトリング・ガンでアクション映画ファンの度肝を抜いたDB5を筆頭に、美しいアストン・マーティンのクルマが4台登場する。

ノーミのDBSスーパーレッジェーラやQのラボでMの後方に見えたヴァルハラは顔見せ程度だったが、ジャマイカからロンドンに戻った時にボンドの私用車として登場するV8ヴァンテージもファンを喜ばせた。シリーズ第15作『007/リビング・デイライツ』で四代目ボンドのティモシー・ダルトンが颯爽と乗りこなしたボンドカーである。残念ながら『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のV8は側面ドアの下から飛び出すアウトリガー(スキー)やミサイルなどの秘密兵器を装備していないが、もしかしたら? と思わせるだけでも楽しい。

健気なカーラとボンドとの一途なラブ・ストーリーが印象に残る『007/リビング・デイライツ』もファンの間で評価が高く、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』とのリンクは当然とも言える。尚、マドレーヌの家がノルウェーにあることは同作の主題歌を歌った同国出身のa-haにも通じるし、氷結した湖でのアクションも『007/リビング・デイライツ』を彷彿とさせる。

エンディングでV8はボンドから引き継いだマドレーヌとマチルドが乗っているが、V8は『女王陛下の007』のボンドカーだったDBSの後継モデルでもあり、ここでも両作との深いつながりを感じるはずだ。

小説版「007は二度死ぬ」からの印象的な引用

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の悪役サフィンは、日本とロシアの紛争地域の島にある毒の庭(ポイズン・ガーデン)を、ミスター・ホワイトに暗殺された父親から引き継いだという設定だ。こちらはイアン・フレミング原作の小説版「007は二度死ぬ」に登場するシャッターハント博士(のちにブロフェルドと判明)を彷彿させる。

日系アメリカ人のキャリー・ジョージ・フクナガ監督はサフィンに能面をつけさせ、クライマックスに登場する京都の石庭のような日本庭園や畳の娯楽室セットをパインウッドスタジオに作るなど、日本テイストを全面に押し出していた。一時期、本作のタイトルが「シャッターハント」になるのでは、との噂が流れた。結果的にはガセネタだったが、実際に候補の一つであったのかもしれない。

極めつけは、ブロフェルドをベルマーシュ刑務所で尋問するときに、我を失ったボンドが「死ね、ブロフェルド、死ね!」と言って首を絞めあげ、結果的にこれでブロフェルドを殺してしまう。これは小説版『007は二度死ぬ』のボンドとブロフェルドの決闘シーンに、そっくりそのまま登場する。また、最後のMI6メンバーがボンドを追悼して集まった時にMが読み上げる一節は、小説版「007は二度死ぬ」で死亡したと思われたボンドに対して追悼文を寄せた00課の秘書、メアリー・グッドナイトの言葉そのものだ(これは米国の小説家ジャック・ロンドンの言葉をフレミングが引用している)。

小説版「007は二度死ぬ」のボンドはブロフェルドとの死闘のあと記憶を失い、彼を匿っていたキッシー鈴木はボンドの子供を身ごもる。ボンドが父親になるという展開も小説版にならったものだ。シリーズのベテラン脚本家ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド、監督就任にあたり原作小説を熟読したというフクナガ監督のフレミング愛は相当なもので、『007』ファンとして拍手を送りたい。

文:村井慎一(ボンド命)

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、2021年10月1日(金)より全国公開中

 

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『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。

制作年: 2020
監督:
出演: