WEB小説からNetflix映画へ
小説家・燃え殻が2016年に連載を開始し大きな反響を読んだWEB小説が、Netflixオリジナル映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』として2021年11月5日(金)より、全世界配信と同時に劇場公開される。
自身の実体験をベースに90年代日本特有のサブカルチャーをふんだんに盛り込みながら、あらゆる世代に刺さる“エモい”恋愛小説としてベストセラーとなった本作。待望の実写映画化に抜擢されたのはドラマ『恋のツキ』(2018年)などを手がけ、これが長編映画デビューとなる森義仁。
SNSでの私的な独白から、自伝的WEB小説の連載、書籍出版、そしてNetflix映画化へ……メディアをまたいで常に話題を生み出してきた『ボクたちはみんな大人になれなかった』について、燃え殻と森義仁に話を聞いた。
「自分より“上手い人たち”を見た瞬間に夢が5分で破れる」
―お二人は10代後半~30代前半くらいまで、いわゆる「何者かになりたい」という欲求はありましたか?
燃え殻:どこかにそこはかとなくあったんでしょうけど、それを上からパコーンと引っ叩かれるくらい、「お前はそんなことを望んではいけないんだ」っていう場所にずっといたので……改めて聞かれると多分、あったんです。でも、それはみんなありますよね、きっと。
―明確に“これ”というものがあったわけではなく……。
燃え殻:いつも「“なにか”やりたいよね」みたいなことは思ってたけど、それが何なのかとか、自分に何ができるとかは、自分のことすら信用してなかったかもしれないです。
森:僕はわりと映画監督になりたくて東京に出てきていて、入り口はそこなので……。
―夢、完全に叶えてらっしゃいますね。
燃え殻:おそろしいね……。
森:美しくはないですけどね、そんなに(笑)。でもそうですね、映画監督になりたくて東京に出てきて、ただ燃え殻さんと同じように、僕の時代ってまだ“ボロ雑巾扱い”されていた時代なので、形は違うけれど、そういう意味では(原作に)共感できました。
―ネットが普及していなかった時代に青春を送ると“何者かになりたい”というところに辿り着くことすらハードルが高いというか、そもそもそこに自覚的になれる人も少なかったのかなと。でも、ネット世代の人たちは少し検索すれば無数に選択肢が出てくるわけですよね。
燃え殻:でも自分が書く立場になって、僕なんかnoteとかを見てると「辞めようかな」と思いますよ、みんな上手いから。年下の人ばっかりだけど、そういう“上手い人たち”を見た瞬間に夢が5分で破れる、みたいな。
昔、僕の友達でサッカー部だった奴が、あるとき急に「俺さぁ、ロマーリオ(※)よりドリブルは上手いんだよね。決定力はないけど」って言い出したんです(笑)。それに対して「何調べ?」って突っ込むこともなく、みんな「へぇ〜」って聞いてて。そいつ、いま不動産の営業やってますけど、当時は「ロマーリオよりドリブル上手い」で1年くらいは騙せたんですよ(笑)。でも、いまそんなことYouTubeとかで言った瞬間に、ロマーリオの動画を貼られるわけじゃないですか。そう考えたら、どっちの時代が良かったのかは分からないですね(笑)。
(※90年代にFCバルセロナ等で活躍したブラジル出身のサッカー選手)
「これ映画化、すっげぇ難しくない?」
―森監督は本作で長編デビューとなりますが、オファーはどういった経緯で?
森:ずっとCMやミュージックビデオを中心にやっていたんですが、2018年にテレビ東京の深夜ドラマ『恋のツキ』を監督したんです。それは、専門学校の同級生だった山本(晃久)プロデューサーと久々にご飯を食べる機会があって、そこで「本当は映画とかドラマもやりたい」という話をしていて、その1年後くらいに電話で「深夜ドラマやる?」みたいな感じで話をもらって。その結果『恋のツキ』はがんばって良いものできたと思うんですけど、その1ヶ月後くらいにまた電話がかかってきて、「エモいの好き?」って言われて。なんとなく仕事の話かなと思ったので、「嫌いじゃないですよ」くらいで返したんです(笑)。そしたら「じゃあ、この原作読んでみて」って言われて。
その時点で燃え殻さんと山本さんが既に知り合っていて、「森監督がいいと思う」という形で紹介してもらって。その後、原作を読ませていただいたんですが、もちろん僕は初期の小沢健二さんのことは知らないけれど、登場人物に関しても「俺の中にもスーはいたし、かおりもいたよな……」とか、意外と自分の中で変換して読むことができて。でも正直、「これ映画化、すっげぇ難しくない?」「どう構成したら、うまくいくんだろう?」って、すごく悩んで。そういうことも色々と考えつつ、燃え殻さんと山本プロデューサーと初めて3人でお会いして。山本さんから「原作者の燃え殻さんです、監督の森さんです。今回、お二人がすごく合うと思って」とか言ってから、「ちょっと僕、行かなきゃいけないんで、じゃ」って、10分か15分くらいでロケハンか何かで帰っちゃったんです。
燃え殻:それで2人きりにさせられたんです。もう破談ですよ(笑)。
森:僕は「原作者の先生……」って単純にビビってた部分もあったんですけど、そこで意外と腹を割って話せたんですよね。
燃え殻:腹割るか帰るかしかないもんね(笑)。
森:そうなんですよ。
燃え殻:俺だって普段、映画監督の人と話さないじゃないですか。
森:まだ映画監督でもなかったですしね(笑)。
燃え殻:森監督と会う前に、山本さん「『恋のツキ』観ましたか? 観てください」って、それしか言わなかったんですよ。で、すぐ観て、会った。
「あぁ、90年代って、こうだったよな」
―ドラマ作品の監督経験は『恋のツキ』が初ですよね?
森:そうですね、30分くらいの短編的なCMは2、3本撮ってたんですけど。
―森監督は「3秒クッキング 爆速エビフライ」などのCMでも有名ですが、そういった過去作品が映画制作に活きた部分はありましたか? それとも完全に別物?
森:全部別物でもあるし、むしろ全部一緒という言い方をしたいかもしれないですね、映画だから/CMだからというより。特に『恋のツキ』はCMをやっていたからこそ発想できた部分が大きかったので。当時から映画の助監督をやっていたり、割とオールラウンダーだったんですが、あえて業界のダメなところを見るようにしていたんです。
―映像業界における、いろんな部分を客観視してきた?
森:客観視してきたし、そうしたい希望があったというか。映画にもCMにもダメなところがあって、もちろん良いところもある。でも自分が映画を作るんだったら、良いところだけ集まるようにしたい。だから初監督というプレッシャーより、「原作が好きなんだけど、これをどうしたらいいのだろうか?」というのが悩みだったというか、それが一番のポイントでした。人気原作ということもあるし、いろんな方が手を挙げているということもうっすら聞いていたし……。本当は「みんな、どういう感じにしたいの?」って聞きたかったけど、自分が原作を読んで感じた“コア”をどう映画化するか、それが一番最初に考えたことですね。
―そんな映画化作品を観て、燃え殻さんが改めてハッとしたシーンや、新鮮に感じられたキャラクターは?
燃え殻:僕は90年代を遅れてきた青春みたいな感じで生きてきたんですけど、当時のラフォーレの前とかを歩いている人たちに対して、「あ、いたな」って。小説を書いている時はそこまで気づかなかったんですけど、「ああ、ヒステリックグラマーね」とか、僕はそこまで作り込まずに小説を書いたので、それらが小道具を含めて映像になっていた。
僕の小説はよく「固有名詞がたくさん出てくる」とか言われるんですが、(映画は)それどころじゃないじゃないですか。全てがクリアな解像度で出てくる。そうなったときに、「あぁ、こういう人たち、いたわ」「こういう街並みだったよね」って。あの時の空気みたいなのがうわっときて、「映画、おもしれー。っていうか、こういう風になるのか」「90年代って、こうだったよな」と。
―確かに、意外と小説には“サブカルワード”的な固有名詞はそれほど出てこないですよね。ただ映像化となると、そういった要素が一つのシーンにギュッと詰め込まれる。原宿ラフォーレや渋谷のむげん堂前なんかは、どこまでがセットでどこまでがロケなのか、観ていて気になりました。
森:100%ロケです。もちろん飾ったりはしてますけど。ラフォーレでいうと当時は大きな木が生えてたんですよ。それはCGで起こしたりしたんですけど、基本はロケーションベースです。いわゆる“セット”を組んだのはラブホテルだけですね。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』は2021年11月5日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&Netflix全世界配信開始
『ボクたちはみんな大人になれなかった』
1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。初めて出来た彼女の言葉に支えられがむしゃらに働いた日々。
1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった――。
志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行った。そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年11月5日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&Netflix全世界配信開始