園子温×ニコラス・ケイジ
『新宿スワン』(2014年)などコミック原作映画を確実にヒットさせ、『ANTIPORNO アンチポルノ』(2016年)『愛なき森で叫べ』(2019年)とオリジナル脚本映画も芸術作として高く評価される園子温監督が2021年、ついにハリウッドデビューを果たした。しかも主演はニコラス・ケイジだ。
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は銀行強盗に失敗した主人公が、サムライタウンの権力者ガバナーの養女バーニスをゴーストランドから連れ戻す……という世紀末SF風アクション。本作の撮影の背景を園監督に聞いた。
日本での撮影は“ニコラス・ケイジのひと言”で決定
―本作は時代劇と西部劇と世紀末SFがミックスされた娯楽作ですけれども、現実と呼応する場面も多くて、たとえば日本人としては、時計が止まったゴーストランドはどうしても福島を連想してしまいますし、ガバナーを囲む女子の掛け声も「これはオリンピックだな」と思ってしまったんです。
(笑)そこまでオリンピックは考えてなかったですけど、ありがとうございます。
―作品に込めた想いをうかがいたいのですけれども。
いまおっしゃった時計の文字盤の時間ですが、それは広島に原爆が落ちる1分前で止まってるんです。綱を曳いて時計の針を止めている連中は、まあちょっと狂ってるけど、この針がもう1分進んだらまた原爆が落ちてくるぞっていう、その恐怖感の中でやってるんです。それは全然、台詞にはないんですけどね。そもそも元のオリジナルスクリプトに、ゴーストランドは原発が爆発してほとんど棄民が住むような街になってしまっている、とあったんです。
そもそも最初はメキシコで撮る予定でした。日本で撮ることになった理由は、僕が心筋梗塞をやって倒れたときにニコラス・ケイジがすごく心配してくれて、「なにもメキシコに行くことはない、日本で撮ればいいじゃないか」って、ニコラスがめちゃくちゃなことを言ったんで、最初は「いや、それはないな」って抵抗したんです。でもアメリカ映画をメキシコで撮るのは当たり前だけど、アメリカ映画だからこそ日本で撮ったほうが斬新じゃないかって、向こうの立場で考えてみたんですよね。そしたら、それはそれで納得がいったので、シナリオもかなり書き変えて“サムライアクション映画”にしたわけです。だからマカロニウェスタンとサムライアクションがミックスされているのはそういう経緯があって、両方とも混ぜちゃえ、ということだったんです。
ロケ地が日本になったからには、オリジナルスクリプトの原発の放射能のシーンはもう間違いなく福島を想起させるし、広島の原爆も思い起こさせたいなと思ったので、時計塔の文字盤も広島の時間帯にして、塔の形も広島ドームであり、爆発後の福島第一原発みたいにも見えるようにしたんですよ。そうしたらニコラス・ケイジがその話にすごく感銘を受けて、彼はわざわざ広島まで行って原爆ドームや平和記念資料館も全部見て、いろいろ資料も調べて、それでこの映画にそれらを取り入れるのはすごくうれしいって言ってくれて。ニコラスがすごく僕をバックアップしてくれたおかげで、いろんな局面で良かったですね。
「いつか時代劇に出てカタナでアクションをやってみたいと思ってたんだ!」(ニコラス・ケイジ)
―制作が決まった段階で、出演者との顔合わせがあったんですか?
顔合わせというか、さすがに日本とアメリカなので「みんな集まれ」というわけにはいかず。ただ、撮影の1年ぐらい前にニコラス・ケイジの出演が決まったとき、ニコラスから「撮影前に東京で会おう」ということになって。彼はプライベートで東京に来ていて、彼は僕の『アンチポルノ』が「素晴らしかった」と言い、「あの映画で僕は泣いた。すごく君を信頼している。ぜひ一緒にクレイジーな映画を作ろう」と言ってくれたんです。
彼はボディガードとかも一切つけないので、新宿のゴールデン街とかに一緒に飲みに行ったりして。それで非常に意気投合して「これは面白い映画を作れるぞ」って。なので彼とだけ顔合わせしたというか。
https://www.facebook.com/barliumin/photos/a.983095791720346/2937094716320434/?type=3
―ニコラス・ケイジが奥様(芝田璃子/Riko Shibata)と知り合ったのも、この映画だそうですね。
ニコラス・ケイジが、ソフィア・ブテラ扮するバーニスっていう女の子を探しに来るシーンで、みんなマネキンにされちゃってるんだけど、そのマネキンを剥がしてみて「違う」、もう一人「これも違う」ってやって、その中の一人が「助けて」ってつぶやく。本番では「ああ、違った」ってマネキンを戻すんだけど、そのときもうときめいてたのかな、オフではマネキンを剥がして、その女性を連れて帰った。そのシーンに出演している女性と結婚して、今もずっと一緒に暮らしてるという感じで。
The duo got married on 16 February in a small ceremony, a date chosen to honour the birthday of #NicholasCage's late father. | #RikoShibatahttps://t.co/QxeyXZwZQ7
— Firstpost (@firstpost) March 6, 2021
その女性は僕の映画によくエキストラで参加してくれてたので、今回はちょっと役をあげたいなと思っていて。彦根で撮影してたんだけど、彼女が京都に住んでいて、偶然、家も近かったんですよ。だから暇なときは見物に来てたし、その役を撮り終えたあともよく現場に来てたんです。そのへんでニコラスと愛を深めるチャンスはいくらでもあったんだろうな。だからいろんなラッキーがつながって、彼女的にはすごく良かったと思いますよ。
―ニコラス・ケイジやビル・モーズリイはホラーやカルト映画、日本のカルチャーにも精通している方ですが、現場で映画の話で盛り上がったりしたことはありますか。
とくに映画談義はしなかったかな。でも、ニコラスをチャールズ・ブロンソンみたいな感じで撮ろうと思ってたんだけど、日本でやるからにはチャンバラで刀で戦うよってニコラスに伝えたら「それこそ僕がずっと願っていたことで、いつか時代劇に出てカタナでアクションをやってみたいって、ずっと思ってたんだ」と言っていて、そういった話はしました。
僕の長年の友人である坂口拓(TAK∴)くん、本当に刀とアクションといえば彼しかいないと思ったので、アクション監督兼ラスボスというか“宿命の対決”の男といった役で出てもらって。もう彼に全部お任せにしたんだけど、僕なりには色んな……五社英雄監督の時代劇で『人斬り』(1969年)っていう映画があって勝新太郎が出てるんですけど、その中のあるシーンを丸々オマージュしてみたり。そういう自分なりのアクションの演出もしてます。だからこの映画は本当に、たくさんの映画の断片が意識的にも無意識的にも色々入ってます。
―ハリウッドで改めて坂口拓さんに期待したいことは?
坂口拓は、僕が日本でいちばん尊敬している俳優なので、彼をハリウッドに連れて行きたいっていう、余計なお世話かもしれないけど、そういう気持ちがあったので「今回ぜひ参加してほしい」って。アメリカでこの映画が公開されたときに、みんなに「あれは誰なんだ!?」って言ってほしいなっていうか、自分なりのそういう気持ちがありまして。拓ちゃんは、スケール的に日本は違うんじゃないかなと。彼には中国かアメリカのどちらかが合ってるんじゃないかってずっと思ってたので、期待してます。拓はハリウッドに行くべきだとね。
日本式の長時間撮影にも対応してくれたニコラス&ソフィア
―ガンアクションも素晴らしかったです。
それはありがとうございます。
―ソフィアは戦ったほうが全然よかったですよね!
キレがあるんです。彼女は素晴らしいダンサーでもあったので。拓がちょっと振付したら驚くほどすぐにいいアクションになって、もう軽々とやってました。脚も上がるんですよ。
―ソフィアが戦うところが見られてよかったです。
もう時間との戦いですけどね、早くしないとソフィアのアクションシーンが撮れないってなって。毎日深夜までやって、日本システムの撮影ですよ、もうこうなったら。時間がないから夜中までずっとやってるわけだけど、日本的な夜中までの撮影に対して、ソフィアもニコラスもみんなすごく頑張ってくれて。それもあってアクションシーンが夜になったんです。プロデューサーとか、みんな「昼にしろ」って言って、当初の設定も昼だったんだけど、それじゃあ日が暮れたらどうしてくれるんだと。夜は長いから、ずっと撮影できてリスクが少ないということで夜のシーンにしたんです。
【インタビュー後編は10月7日公開】
取材・文:遠藤京子
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は2021年10月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』
悪名高き銀行強盗ヒーローは、ある日、相棒のサイコとともにサムライタウンの銀行を襲撃するが、少年が差し出したガムボールをきっかけに捕まってしまう。投獄され、フンドシ一丁で手錠を掛けられるヒーロー。
サムライタウンではこの世界のすべてを牛耳る悪徳ガバナーがいつも女を侍らせていた。傍らにはいつも用心棒のヤスジロウと少女のようなスージーをおいてご満悦だ。
ある日、ステラ、ナンシーとともにガバナーの魔手から逃げたガバナーお気に入りのバーニスを連れ戻すことを条件にヒーローは自由を手に入れる。ただし、5日以内にバーニスを連れ戻さねば、爆弾を仕掛けられたボディスーツが爆発してしまう。
バーニスが消息を絶った不思議な街ゴーストランドへヒーローもまた足を踏みいれる。ゴーストランドとは、入ったら最後、二度と出られない街。そこには、動かなくなった車を修理し続けるラットマン、人間をマネキンに閉じ込めるキュリ、すべてを見つめる男ナベたちがいた。ゴーストランドの住人達は言う。「ガバナーがいる限り、我々は時計を止めねばならない。そうしないと世界は爆発する」と。
果たして、ヒーローはバーニスを見つけられるのか。ゴーストランドを脱出することはできるのか。そして、サムライタウンはガバナーの手に落ちたままなのか。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年10月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開