殺しのライセンスを持つ女性エージェント
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、00ナンバー=殺しのライセンスを持つエージェント、ノーミを演じるラシャーナ・リンチ。公式には初の女性00エージェントであり、007をボンドから引き継いだという噂もあり、彼女の出演が発表された時から大きな話題を呼んだ。
MI6のエージェントに復帰したジェームズ・ボンドと衝突しながらも、時にはボンドをリードしていくノーミは新しい時代のスパイ。演じるラシャーナはロンドン出身。シェイクスピア劇から『キャプテン・マーベル』(2019年)まで、幅広く活躍している彼女に話を聞いた。
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「女性たちはもう誰かに承認されるのを待ったりはしない」
―ノーミ役に決まったときは、どんな気持ちがしましたか?
最高にワクワクしたわ! でも、すぐに「準備をはじめなくちゃ」とも思った。お祝いをする時間もなかったわね。まず私が最初に考えたのは、いつトレーニングを開始したらいいのか、1日中かかるのかな、ということだった。
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―ボンドに対抗する00エージェントを演じるのは、どんなお気持ちですか?
信じられないほどクールでエキサイティング。私が00エージェントとして登場したことは、現在の映画のあり方を変えていくと思う。ノーミのようなキャラクターは、作り手がかなり意識的でオープンでないと生まれないでしょうから。私が子供の頃には、ボンド映画のエージェントになれるなんて、まったく想像もつかなかった。だから『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は画期的。私は今まで見たこともないほど、強い女性を演じているのだから。
ノーミは誰に対しても問答無用だし、肌の色はダークで、髪は短く、背が高く、曲線美を誇っている。いわゆるイギリスの典型的な秘密諜報エージェントではない。新しい時代の女性エージェントを演じることができて幸運だし、とても名誉なことだし感謝しています。
―ボンド映画はかつては男の世界でしたが、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、あなたはボンドと同様に00ナンバーを持ち、ボンドガールではなくボンドウーマンになりましたね。
女性がどんどん声をあげ、女性の立場を向上させ、より良い世界にしていく。私もずっとそうなってほしいと願ってきたし、映画もそうした声を反映させる時が来たと思う。女性たちはもう誰かに承認されるのを待ったりはしない。徐々にではあるけれど、女性がさまざまな場所でトップになってきているし、責任ある立場や、男性にしかできないと思われてきた仕事にも就くようになった。だから女性の00エージェント、それも黒人の女性00エージェントとして任務に就き、やり遂げたことに私自身、とても興奮しているわ。
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―『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』には、フェミニストの視点があるのでしょうか?
今の時代は、ほとんどの映画にフェミニストの視点があるのでは? それは女性の視点に限らない。男性にだってフェミニストはいるし、フェミニスト的な視点を持っている男性もいる。そういう視点を持つ男性が増えてほしいし、男性たちがフェミニストにならないといけないとも思う。
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―あなたが女優になると決めたのはいつ頃でしたか?
多分、小学校で「ピノキオ」を演じたとき。
―ピノキオ役だったんですか?
そう、私がピノキオだったの!(笑)。そのときに、女性である私が人形であり少年であるピノキオを演じられたんだから、他に演じられない役なんてない、って思った。「壁なんてない」と。その考えがずっと頭に残っていて、その後も女性が演じないような役であっても、何も気にせずいろいろと挑戦した。あの時の先生がとてもオープンマインドで、なおかつ私を甘やかしてくれたおかげで(笑)、私は演劇の道に進んだというわけ。7、8歳の頃だったと思う。
「私を“ニンジャ”にしてくれる?」
―あなたはとても運動神経が良いと思うのですが、激しいアクションをこなすにあたり、どんな準備をしましたか?
どうもありがとう。運動は得意なの。でも全部のスタントを自分でこなすことはできないから、チームに助けてもらった。最初に「私をニンジャにしてくれる?」って冗談で聞いたら、「もちろん」って言ってくれて。まず怪我をしないよう、自分の身を守る術を教わった。一つのシーンを撮るために何度も同じアクションをしなくてはならず、とてもハード。怪我をしないことが重要で、そのためのトレーニングをしたの。
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―ジェームズ・ボンドとあなたが演じるノーミは同僚でありながら、かなり衝突もするみたいですね。
確かに最初はぶつかり合う。まったく接点のない二人が、一緒に行動しないとならないわけだから。最先端を行く現役バリバリのノーミからすれば、しばらくスパイから引退していたボンドのやり方は、アップデートされてないように感じる。ボンドもMI6に復帰するには、現役のノーミの最新のやり方に合わせないとならない。
というわけで最初は衝突もするけれど、お互いを尊敬するようになり、学び合い、ちゃんと助け合って任務を遂行する。特にノーミはとてもハイテクに強くて、そこはジェームズ・ボンドの弱いところだから、彼女を尊重するようになるんです。
―それは楽しみですね。
でしょう? とても面白いストーリーになっていますよ。
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―ダニエル・クレイグと共演した感想を教えてください。
私がボンド映画を好きになったきっかけは、ダニエルなんです。『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)で、すっかり彼の演技に圧倒された。現場でのダニエルは演技に集中しつつも、周囲に対してはとても奉仕的で、素晴らしいリーダーでもある。彼はものすごく仕事熱心で、休むことを知らない人。そしてダニエルも私も舞台出身だから、演技への取り組み方も共通しているので、とてもやりやすかった。
―監督のキャリー・ジョージ・フクナガの特徴はなんだと思いますか?
彼の『闇の列車、光の旅』(2009年)と『ビースト・オブ・ノーネーション』(2015年)を観たんだけど、とても独自のスタイルを持っていると思う。同時に毎回、新しいことを楽しんでいるようでもある。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はちょっと昔の映画風なところもあって、ストーリーをとても重要視しているの。独立映画出身のキャリーが、長い歴史をもつボンド映画に加わって、とても成功したと思う。かつてのボンド映画のことを愛していて、オマージュを捧げているのよ。
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取材・文:石津文子
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日(金)より全国公開
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年10月1日(金)より全国公開