2017年に山田孝之、阿部進之介、映画プロデューサーの伊藤主税によって発足した「mirroRliar(ミラーライアー)」。俳優や映画監督といった表現者を目指す人々を応援する同サービスによる、短編映画制作プロジェクト<MIRRORLIAR FILMS>が立ち上がった。4シーズンに分けて、36人の監督による短編を劇場公開する企画だ。
その第一弾『MIRRORLIAR FILMS Season1』が、2021年9月17日(金)に劇場公開。安藤政信、三吉彩花、漫画家の花田陵といった面々が監督作を発表するほか、枝優花監督、武正晴監督、山下敦弘監督も参加。さらに、一般公募から選ばれた3人の作品を合わせた9本で構成されている。
その一本『さくら、』は、安藤政信が監督・出演した濃密な作品。安藤と山田孝之、森川葵の3人が、原色の世界観の中で死と生と性がぶつかり合う愛憎劇を繰り広げる。今回は安藤に単独インタビューを実施。制作の舞台裏や作品に込めた想いを、赤裸々に語ってもらった。
「山田孝之を撮る」と決めていた
―安藤さんは山田孝之さん・阿部進之介さん・伊藤主税さんといったmirroRliarメンバーとも多数お仕事をされていますが、どのような経緯で深くかかわることになったのでしょう?
(山田)孝之とは前に所属していた事務所が一緒だったのですが、その時は接点がなく、自分が辞めてしばらくしてから『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(2016年)で共演しました。その後、孝之から連絡が来て「僕がプロデュースをする映画があるのですが、良かったら出てくれませんか」と誘ってくれたのが、『デイアンドナイト』(2019年)です。孝之はもともと素晴らしい俳優だと思っていましたが、俳優仲間が何かをやろうとしているときに力になりたいと思っていたので、嬉しかったですね。伊藤さん・阿部さんとはそこでお会いしました。
今回の『MIRRORLIAR FILMS』は、渋谷のアップリンクで『デイアンドナイト』の特別上映とトークショーがあって、その後に4人で飲んだときに「短編を撮らないか」という話から始まりました。
―安藤さんのインタビュー記事を拝読すると「若い頃は一人が好きだった」とよく話されていますが、いまお話に上がった皆さんは“仲間”という感じがします。
一人が好きなのはいまも変わらなくて、ただ誰かとものを作ることは嫌じゃないんです。たとえば自分が写真や映像を撮るときなど、色々な人と一緒にひとつのものを作るのは面白いと感じますね。自分の頭の中にあるイメージをイメージだけで終わらせるんじゃなく、ちゃんと形にしたいと思い始めたのは3年くらい前。ちょうど孝之が声をかけてくれた時期です。
―その山田さんを主演に迎え、『さくら、』は撮影されました。
孝之から「映画を撮らないか」って言われたときにもう、彼を撮ると決めていました。最初は肉体と肉体がぶつかり合うイメージで15分セックスし合う話を考えていたんだけど、色々と試行錯誤していくなかで「どういう風な表現で、人と人が絡み合うか」を考え抜いた結果、あの形に落ち着きました。
―「セックス」であったり「血」などのイメージは、以前から安藤さんの中にあったのでしょうか。
そう。昔から自分の中にあるんですよね。だから今回の話が決まって考え出したというより、前々から撮りたいテーマでした。
「わからない」を認めたことで、現場が動き出した
―『さくら、』は、スタッフも非常に豪華ですよね。撮影は写真家の田島一成さん、美術は『46億年の恋』(2005年)『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(2007年)などの佐々木尚さん、スタイリストは蜷川実花さんとのコラボレーションで知られる長瀬哲朗さん。
みんな友だちだったから頼みやすかったんです(笑)。逆に、友だち以外に「この映画を一緒に作ってください」といえるコネクションがなかったんですよね。音楽のbrodinski & modulawも、友だちから紹介してもらったし。
―それでこのメンバーが揃うのが凄いです。
自分は良く取材で「友だちがいない」って言ってたけど、『さくら、』のエンドロールを観たら「俺、こんなにいっぱい友だちいるんだ!」って思いました(笑)。今回一緒にやってくれた人たち以外にもまだいっぱいいるから、友だち、いましたね(笑)。
俺は今回、「みんなを世界に連れていく」って誘ったんですよ。それでみんなが集まってくれたんだけど、ロケハン初日に「どこから撮る?」とか「これぐらいのスペースで撮影するならこれくらいの距離感が必要」とか色々聞かれたときに、俺は「わかりません……」ってなっちゃって(苦笑)。友だちに集まってもらったら、周りがみんなプロフェッショナル中のプロフェッショナルになってしまっていた(笑)。
2日目もそんな感じで、「俺なんか……」ってふてくされちゃって。次のロケ地に行く道中にみんなが昼飯を食べに行くって言うから「俺はお腹空いてない」って言って一人で車に残って、運転手をしてくれた地元のおじいちゃんとずっとしゃべっていたんです(笑)。そういう経験があって、めちゃくちゃ反省しましたね。自分のために来てくれたのに態度悪くなっちゃって、すごく申し訳ないと思って、プロデューサーにも「監督としてどう言ったらいいのかが本当にわからなくて、ごめんなさい」って謝って。そこから軌道修正を図りました。
―具体的には、どのように変えたのでしょう?
それぞれのパートにプロフェッショナルがいるわけで、まず分からないことがあったら聞いてから、どんどん調整していこうと決めて。まずは案を出してもらって、それを見て自分がチョイスするように変えたら、みるみる良くなっていきましたね。
「面白くない」と思っている業界人を嫉妬させたい
―そうしたご苦労やその先にあった発見も、初めての経験ならではですね。
そうですね。ずっと映像を作りたい気持ちはあったけど、これまでは実現できていなかったんです。それはきっと、役者が演じること以外をやることへの批判と向き合う勇気が、自分の中にはなかったから。だけど孝之が声をかけてくれたことで、やってみようと思えたんですよね。だから今度は1回のイベントで終わらせたくない。早く次を撮りたいと思っているし、絶対に長編を撮りたいです。そのために『さくら、』をちゃんとプレゼンできる状況に持っていき、ブランディングを進めたい。
いままではカメラマンとしての営業は結構やっていて、色々な雑誌に売り込んでいたんだけど、最近は映像作家としての営業も始めました。「演じる」も「写真にする」も「撮る」も、特に「撮る」はここからスタートするから、その流れを止めたくないんです。だから、本当に500万が欲しい!
―『MIRRORLIAR FILMS』36作品のうち、最優秀作品に贈られる500万円の賞金ですね。
いやぁ、絶対に獲りたいですね。みんなの前でもずっと言ってます。クルーに分配したいけどライカも欲しいから、とにかく500万円が欲しい!
―そういった競争の中でクオリティが高まっていくのは、良いことですよね。
そうですね。楽しいです。
あと、これは俺の気持ちの中での核でもあるんだけど、孝之が始めたことで役者仲間を失敗させたくないんです。たぶん孝之は、俺を監督として呼んでくれたことで失敗させたくないと思ってくれているし、俺もそう。この『MIRRORLIAR FILMS』は4シーズンにわたって続いていくし、自分はトップバッターでもあるからこそ、最初でちゃんと結果を残したいんですよね。
正直、連ドラをやりながら『さくら、』の脚本会議をしたり諸々の準備をするのは本当に大変だったんだけど、乗り越えられたのはそういう気持ちがあったから。「孝之の壮大な遊びに付き合ってやろう」じゃないけど、俳優がプロデュースをして監督もして、こういうものを作れるんだ、ということを業界内に見せていくのも絶対に大事なことだと思います。全シーズンをちゃんとやり抜いて、ひとつのパッケージとして「こういうことができる」と提示した結果、何かが少しでも変わるかもしれない。だから本当に成功させたいですね。
―日本国内における映画業界の動きが、変わる可能性も秘めていますよね。
正直「面白くないな」って感じてる業界の人もいると思うから、嫉妬させたい気持ちもあります。「それ見たことか」って笑わせるんじゃなくて、悔しがらせたい。それはすごく良いことだと思っていて、お互いにバイブレーションを与え合いながら、クリエイティブが活気づいていけばいいなと思っています。みんな絶対に、ものづくりは好きなはずですからね。
取材・文:SYO
撮影:落合由夏
ヘアメイク:田中美葉
スタイリスト:川谷太一
撮影協力:Fogg Inc.
シャツ¥46200- パンツ¥50600- ベルト¥22000-
YOHJI YAMAMOTO/ヨウジヤマモト
お問い合わせ先:ヨウジヤマモト プレスルーム
TEL:03-5463-1500
シューズ¥35200-
ASICS RUNWALK
お問い合わせ先:アシックスジャパン株式会社 お客様相談室
TEL: 0120-068-806
『MIRRORLIAR FILMS Season1』は2021年9月17日(金)より全国順次公開