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低予算残酷映画の衝撃!『食人雪男』が白銀の世界を血に染める ~いま「SoV映画」を劇場公開する意義を考える~

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低予算残酷映画の衝撃!『食人雪男』が白銀の世界を血に染める ~いま「SoV映画」を劇場公開する意義を考える~
『食人雪男』©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK’D ENTERTAINMENT

低予算ホラー映画の血脈

『食人雪男』はタイトルから連想できる通り、低予算のUMA映画で安物感は否めない。しかし本作は“低予算ホラー沼”の入り口ともなりえる、実に味わい深い映画なのである。その経緯を理解するため、少々長くなるが昔話をさせて欲しい。

『食人雪男』©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK’D ENTERTAINMENT

ビデオバブル花盛りの80年代に次々と量産された低予算ホラー映画。これらの中には、元から劇場公開する気などさらさらなく、ビデオスルーを想定した映画(というのもおこがましい作品も含め)が存在した。いわゆるSoV(Shot on Video)と呼ばれる作品だ。ロクなストーリーを持たず、殺人鬼やモンスター、オカルト現象が次々と人間を血祭りにあげていくのみ……悪名高い悪霊屋敷の血祭り映画『ボーディングハウス』(1982年)、名作本格和製スプラッターモンスター映画『GUZOO 神に見捨てられしもの』(1986年)あたりが有名だ。

これらは当時のスプラッターブームも相まって、レンタルビデオに出せばそこそこ儲かった。ビデオカメラの普及により安価で制作が可能になり、金はないがホラー映画を撮りたいオタク監督にも、そしてホラー映画に飢えている好事家たちにも“美味しい”市場だった。

このWin-Winなホラー映画エコサイクルは、ビデオからDVD/Blu-ray、サブスクと媒体の移り変わりと共に進化し、現在も十分機能している。進化の過程で面白いのは主役となるキャラの変遷だ。昔は殺人鬼が主流だったが、ここ数年、殺人鬼に代わり市場を席巻しているのは“サメ”だ。もちろんきっかけは『シャークネード』(2013年)。サメが竜巻に乗って襲ってくる荒唐無稽なプロットと、俳優陣のバカな芝居は世界で大ウケ。「サメvsバカ」というプロットは大いに使いまわされることとなった。しかし、このサメ映画ブーム、SoVの唯一いいところだった“安くても生真面目な作品をつくる姿勢”を奪い取り、SoV全体の雰囲気を“馬鹿馬鹿しくてもウケればいい”というシロモノに低下させてしまった。

しかし! そんなサメ映画に隠れて、日本人の気が付かないところでひっそりと生真面目なSoV専属キャラが成長していた。それが“殺人雪男”モノである。

雪男も残酷描写も出し惜しみ一切なし!

昔から“雪男映画”は存在したが――その歴史は元祖名作サメ映画『ジョーズ』(1975年)よりはるか前、古く1956年の『Abominable Snowman(原題)』まで遡る――今世紀に入り、国内で初めて観測された作品は『ケイヴ・フィアー CAVE FEAR』(2006年。原題は『食人雪男』と同じ『Abominable』[※「忌まわしい」の意味。雪男を指す]だ!)。足の不自由な男が山荘にリハビリにやってきたところ、雪男に襲われるといったもの。着ぐるみの雪男が大暴れしてバンバン人をブチ殺す、本格ゴアモンスタームービーだ。

着ぐるみが笑えるかもしれないが、演者は至って真面目。80年代っぽさが爆裂した佳作であった。その後も日本未公開ながら、いくつもの”殺人雪男”が作られ続けた。

https://www.youtube.com/watch?v=cX9141gbEl8

そして今回の『食人雪男』である。あらゆる病を治すといわれる伝説の薬草を求め、ヒマラヤ山脈に足を踏み入れた探検隊。苦難の末、ようやく薬草を発見するが、そこには守り神……いや、薬草を持ち帰ろうとする者を容赦なく食い散らかす「爆食魔獣」雪男が潜んでいた!! そんな中、薬草を巡って仲間割れを始める探検隊。雪男と仲間の裏切り、二重の恐怖に白銀が血に染まるッ!

『食人雪男』©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK’D ENTERTAINMENT

なんとも魅惑的なストーリーではないか。だが、開始数分で伝説の薬草が“雪男草”と呼ばれることに軽い眩暈を覚え、「ああ、サメ的アホ映画を引いてしまったのかもしれない」と思った。

しかし、それは杞憂に終わった。役者の芝居は下手だし、演出もかなり拙い。雄大なヒマラヤ雪山が舞台なのだが、スキー場近くの森で撮ったような感覚は否めない。しかし! この映画はダメな映画ではない。それどころか、これからの“殺人雪男”映画の……いや、SoV市場の将来を担う作品であることを確信した。

『食人雪男』©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK’D ENTERTAINMENT

とにかく“生真面目な残酷描写”で押し切っているのだ。まず雪男の出し惜しみをしないことに好感を覚える。多くの作品が雪男を出し惜しみする中、本作では最初から出ずっぱりである。『猿の惑星』(1968年)に登場する猿を怒り顔で固定したような雪男は少し安っぽいが、これまで安っぽくなかった雪男などいなかった。つまり雪男映画で雪男が恐ろしく見えたなら“それは間違っている”ということだ。それに真っ白な雪景色に顎を引き裂き、顔面を剥ぎ取る深紅のゴア描写! 映えまくりである。日本版予告編では「爆食魔獣」と謳っているが、よく言ったもんだと思う。さらに72分の短い上映時間は、我々を退屈させることがない。

『食人雪男』©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK’D ENTERTAINMENT

『食人雪男』の“生真面目な残酷描写”は、たとえストーリーや演技に難があったとしても(もしあなたが好き者であれば)、それを補って余りある作品なのだ。これは本作を劇場で公開する十分な意義と言えるだろう。本作を機に、再びSoV市場に真面目な残酷映画が戻ってくることを祈る。

『食人雪男』©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK’D ENTERTAINMENT

文:氏家譲寿(ナマニク)

『食人雪男』は2021年9月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷
池袋シネマ・ロサ、新宿武蔵野館ほか全国公開

https://www.youtube.com/watch?v=6RJw7I2GTvQ&feature=emb_title

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『食人雪男』

雪深い山奥に自生し、すべての病を治すといわれる奇跡の薬草を捜し求める探索隊を襲った地獄の悪夢。 その山には、植物を盗み出そうとする者に凄惨な天誅を下す、残虐な守り神がいた……。 白銀の雪山を鮮血に染め、欲深い人間どもを肉片に変える人体破壊王、それは伝説の雪男イエティだった! 一人、また一人、非力な人間たちはなすすべもなくイエティの餌食となっていく。 さらに欲に目がくらんだ人間たちは、非常事態の中で仲間割れを始め、殺し合うのだった……。

制作年: 2020
監督:
出演: