ボンドを破滅へと誘う敵、サフィン
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でジェームズ・ボンドを破滅へと誘うサフィンを演じる、ラミ・マレック。『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)でイギリスのバンド、クイーンのフレディ・マーキュリーを熱演しオスカーに輝いたラミは、どうやらイギリスに縁があるようだ。
「僕が観た中で、もっとも冷酷な悪役演技は……」
―フレディ・マーキュリーに続いて『007』映画の悪役を演じるとは、エリザベス女王と同じくらい、まさにイギリスの顔ですね。
女王陛下よりイギリス的なわけがないよ(笑)。でも、とても光栄に思う。この3年ほど、ずっとイギリスにいるんだ。ドラマシリーズの『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』(2015~2019年)に始まり、ずっとイギリスで撮影しているから、もう2番目の故郷のように感じている。
ロンドンは僕にとって特別な場所になった。『ボヘミアン・ラプソディ』も『ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、パインウッド・スタジオやロンドンで主に撮っていたから。まさに夢が詰まった場所なんだ。
―オスカー受賞直後に『007』映画の悪役を演じるのはどんな気分ですか?
ハビエル・バルデムみたいな気分かな(笑)。僕はハビエルが大好きで、現代を代表するのみならず、歴史に残る偉大な俳優の一人だと思っている。ハビエルが『007 スカイフォール』(2012年)で演じた悪役(ラウル・シルヴァ)も印象的だけれど、なんと言っても『ノー・カントリー』(2007年)でのアントン・シガー役が恐ろしかった。僕が観た中で、もっとも冷酷な演技はあれなんだ。俳優とは、ある意味、いろんな人から盗んでいるんだよ(笑)。
僕も様々な俳優の悪役演技に影響を受けていると思うけど、特にハビエルのアントン・シガーと、アンソニー・ホプキンスのレクター博士(『羊たちの沈黙』[1991年])には心を掴まれた。僕もそんなレガシーの中に入れることが出来たら、嬉しいと思うよ。
「サフィンが史上最悪に酷いことをするのは、全く疑いの余地がない(笑)」
―『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でサフィンは日本の能面を被っています。あのお面は重要な意味があるのでしょうか?
とても重要。他にもこの作品では、細部に至るまでとても考え抜かれている。画面に映るすべてのものに意味があり、監督のキャリー・フクナガはすべてのものがストーリーに貢献すべきと考えているんだ。伏線や仕掛けが緊張と衝突を生み出し、最大の衝撃と恐怖を生む。だから日本の面を被ったということは、そこに何らか意味があるということだよ。それ以上は言えないけれど。
NO TIME TO DIE Costume Designer Suttirat Anne Larlarb on the inspiration behind villain Safin’s mask. pic.twitter.com/k42RtcOlRY
— James Bond (@007) August 16, 2021
―キャリー・フクナガが監督として特別な点は何だと思いますか?
彼が特別なのは、どの場所にいても、まるで彼は生まれた時からそこで暮らしているかのようなところ。とても知的な人なんだ。人間としても、映画作りにおいてもとてもインテリジェンスがあり、素晴らしくレベルが高い。最初にロンドンで会って話し、それ以来、電話やメールで何度もやりとりをした。キャリーはいつでも連絡がつくようにしてくれて、僕もできるだけ具体的な話をするよう努めた。おかげで、撮影に入ったときにはサフィンという人物の、内も外もしっかり理解できていた。最高のコラボレーションになったと思うし、それはキャリーが俳優に対し本当に真摯に向き合ってくれたからこその結果なんだ。
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―サフィンは究極の悪役だそうですが、宗教的なテロリストにはしたくなかったそうですね。
サフィンが史上最悪に酷いことをするのは、全く疑いの余地がない(笑)。でも僕の考えとしては、そこには宗教が絡んでほしくないし、意味がないと思う。歴史を振り返ってみても、究極の悪とは、宗教から派生したものではないと思うんだ。
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「ダニエルと『007』のセットに立つのは、まるで劇場の最前列にいるみたいだった」
―アクの強い役が続いていますが、役柄からすぐに抜け出せますか?
ちょっと時間はかかるけど、大丈夫。僕らがやっているのは、フィクション上のリアリティだから。でも、すごく自分を投資しているから、一瞬にして抜ける、というわけにはいかない。でも「カット!」の声がかかって、家に帰ったら自分に戻れるんだ。ステージやセットに、その人物を置いてくることができる。たまには住み着いちゃうこともあるけど、今回のサフィンがそうでないことを祈るよ(笑)。
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―初めて観た『007』映画はなんでしたか?
確か『007/ドクター・ノオ』(1962年)か、『007/ゴールド・フィンガー』(1964年)のどちらか。どっちも僕のお気に入りのボンド映画なんだ。ダニエルの『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)も好き。あと『スカイフォール』の、列車に突っ込んできてカフスを直すシーンも最高だよね。
僕の父親がボンド映画の大ファンで、いつも家族みんなで観ていたんだ。映画館でポップコーンを食べているところへ、あのテーマ曲が流れてくるとワクワクする。これこそ最高のスリルライドだよ。もっとも『ドクター・ノオ』はVHSで観たんだけど(笑)。『007』は世界の誰もが知る存在であり、それを象徴するダニエルと共演できたことは、本当に嬉しかった。彼は肉体の上でも、精神的にもとてもできる人であり、俳優としても人間としても素晴らしい。そんな彼と『007』のセットに立っているというのは、「わお、いつもスクリーンで観ている彼と一緒にいるなんて!」と不思議な感じだったよ。まるで劇場の最前列にいるみたいだった。
今回はダニエルの最後の『007』であり、アジア系の監督が初めて撮る『007』映画でもある。全員がベストを尽くしたし、想像を遥かに超えた傑作になっていると思うよ。
取材・文:石津文子
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日(金)より全国公開
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年10月1日(金)より全国公開