グレタ・ガーウィグ×シアーシャ・ローナン
『レディ・バード』は2018年に日本公開されたアメリカの青春映画。舞台は2002年、カリフォルニアの郊外都市サクラメント。お堅いカトリック系ハイスクールに通う主人公のクリスティンは自身の名前が気に入ってなくて、自ら「レディ・バード」と名乗って日々過ごしている。
しっくりきていないのは名前だけじゃない。学校生活、友人関係、家庭環境、恋愛、性愛などなど自分を取り巻く全てが思うようにいってない。ま、青春ってそういうもん。
そんな彼女にも夢がある。「この街を出る」ことだ。大学進学を機にニューヨークへ行く! と決意を固めるレディ・バード。しかし、やはり万国共通、彼女は母親とがっつりぶつかることになる。監督はグレタ・ガーウィグ、主演はシアーシャ・ローナン。
誰にでも分かりやすいテーマだし、上映時間も94分と長くないから気軽に観られる。一人で観て「久しぶりに母ちゃんに電話でもすっか……」って気持ちになるのもいいし、友達とワイワイ観るのもいい。私は函館でのパーティー翌日、その日の晩も飲むに飲んで疲れ果てた末、オーガナイズしてくれた友人とその友人が女手一人で育てる3人の子供たちをみんなで家まで送り届けたものの、着いた瞬間に全員それ以上動く気力を失い、再び酒を開け、適当に子供の相手をしながらしっぽり『レディ・バード』を観る、という経験をした。いい時間だった。
『レディ・バード』と併せて観たい3作品
この『レディ・バード』とセットで観ることをオススメしたい作品が3つある。その3つの映画の登場人物と、本作の主人公レディ・バードを同一人物として見る、という遊びをここで提案したい。正しい観方とは言わないけれど、監督であるグレタ・ガーウィグが映画の世界に関わることで何を表現しようとしているのかが立体的に見えてくるんじゃないかと思うし、おそらく多くの映画ファンが僕と似たような見方をしているんじゃないかと勝手に思ってる。その3作とは、『20センチュリー・ウーマン』(2016年)、『フランシス・ハ』(2012年)、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)。
『20センチュリー・ウーマン』は『レディ・バード』と同じくA24配給作品で、マイク・ミルズが脚本・監督。グレタは役者として髪を赤くした写真家アビーを演じています。
https://www.instagram.com/p/BVE4dG4ALnt/
彼女は、シングルマザーの友人と彼女の息子をサポートしたり、クラスメイトの妊娠の相談にのってあげたりと、「誰かをどこかへ導くキャラクター」として劇中で非常に重要な役割を果たします。自身も悩みを抱えつつ、冷静に周囲へのケアをサボらない。その姿がなんとなく、レディ・バードって大人になったらこうなるんじゃないかなあって思える。逆に言うと、『レディ・バード』って若い女の子のガチャガチャした青春を描く映画だけど、時期的にガチャガチャの方が目立ってるだけであって、彼女の心の奥にはあったかい思いやりが眠ってるんだってことを随所に見せてくれる映画です。
さて次、『フランシス・ハ』。グレタは共同脚本を務めながら主役のフランシスを演じています。彼女はニューヨークでプロのダンサーを目指す若者で、故郷はサクラメントという設定。モロです。『レディ・バード』でも印象的な景色として映されるサクラメントのとある橋が、この『フランシス・ハ』にも重要なシーンとして出てきます。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は監督グレタ・ガーウィグ、主演シアーシャ・ローナンという、『レディ・バード』の布陣です。原作となった小説「若草物語」の著者ルイーザ・メイ・オルコットは、主人公である小説家志望のおてんば娘ジョーに自身を強く投影したとよく言われますが、そのジョーの役を、グレタが自身を投影していそうなシアーシャ・ローナンが演じている、というところが面白い。
レディ・バード、アビー、フランシス、ジョー。この4人の女性は、グレタが物語によって姿形を変えて現れているだけなんじゃないか、という思考実験。彼女は映画というメディアを使って色々な時代、色々な環境へ身を投じ、懸命に生きる姿を人々に見せている、なんてことが言えるかもしれない。お気づきでしょうか、これって手塚治虫「火の鳥」スタイルです。レディ・バードはただの変な女の子ではなくて、不死鳥なのかも。
文:夏目知幸
『レディ・バード』
2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感溢れる片田舎のカトリック系高校から、大都会NYへの大学進学を夢見るクリスティン(自称“レディ・バード”)。高校生活最後の1年、友達や彼氏、家族について、そして自分の将来について悩める彼女が出した答えとは……?
制作年: | 2017 |
---|---|
監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年9月放送