シリーズ初のアジア系アメリカ人監督
ダニエル・クレイグの5作目にして最後のボンド映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の監督に抜擢されたキャリー・ジョージ・フクナガ。英国のアイコンである『007』シリーズは、『007/ドクター・ノオ』(1962年)のテレンス・ヤング以来、ずっと英国または英国連邦出身者が監督を務めてきた。例外は『007/慰めの報酬』(2008年)のマーク・フォスターで、彼はドイツ出身。
しかし、25作目にして大きな変革が起きた。フクナガは日系アメリカ人であり、アメリカ人として初めてボンド映画の指揮をとる。『ビースト・オブ・ノーネーション』(2015年)や『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(2014年)が絶賛されたフクナガは現在42歳。俳優もびっくりのハンサムで、かなりのシネフィルでもあり、日本映画にも詳しい彼がボンド映画にもたらした革命とは?
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「オファーされたときは完全にショック状態だったよ(笑)」
―『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』では日本の能面をラミ・マレック演じるサフィンが被っていますが、あれはどんな意味があるんでしょうか?
日本の能面にしたのは、見方によって表情が変わるのが、とてもミステリアスだから。物にはそれを見る人間の心が投影される、ということを意味している。仮面は何も変わっていないのに、違って見えるのは、見る側が変化しているということなんだ。
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―これがダニエル・クレイグの最後のボンド映画というのは、やはり意識しましたか?
とても責任を感じたよ。彼のボンド最終章として、エキサイティングなだけでなく、エモーショナルなストーリーにできるよう努めたつもりだ。ダニエルは長い間、ジェームズ・ボンドとして、とても大きな責任を背負い、同時に尊敬を集めてきた。彼はボンドを演じることに全身全霊を捧げてきたので、そこに報いる映画を作らなければと思ったんだ。
―記念すべき25本目のボンドを監督してほしい、とオファーされたとき、どう感じましたか?
完全にショック状態だったよ(笑)。てっきり友達が仕掛けた冗談だと思ったんだ。でもバーバラ・ブロッコリ(プロデューサー)から本当に連絡があって、1週間後にはバーバラとマイケル・G・ウィルソンと一緒に、彼女のニューヨークの家で会うことになった。実は4年前にも一度、バーバラとコーヒーを飲みながら、『007』について話をしたことがあったんだ。
その時点では、ダニエルがボンドを辞める予定だから、バーバラは次なるシリーズに向けて新しいボンド像を作りたいのだろう、と僕は思っていた。でもやっぱりバーバラはダニエルがあきらめきれず、もう1本彼とやることになった。そして僕も他の作品に入ってしまったので、その話はそれきりになってしまったんだ。でも『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の監督からダニー・ボイルが降板することになり、僕がやることになったというわけ。
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―ラミ・マレックを今回の悪役であるサフィンに起用した理由は?
ラミはスクリーンでの存在感が抜群だ。彼はあの目で、観客に訴えかけることができる。『007』の悪役はとてもパワフルでないといけないし、言葉以外でさまざまなことを表現する。彼にはそれができるんだ。
「日本には今村昌平、是枝裕和をはじめ、小津や黒澤など沢山の素晴らしい監督がいる」
―監督をするにあたり、すべてのボンド映画を観ましたか?
ほとんど観たけれど、実は全部は観ていない。この話が来たときダニエル版ボンドは全部見直したし、イアン・フレミングの原作も出来る限り読みまくったよ。
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―あなたが初めて観たボンド映画は何ですか?
ロジャー・ムーアがボンドだった『007/美しき獲物たち』(1985年)だね。
―デュラン・デュランの主題歌が大ヒットしましたよね!
そうそう。あの映画はサンフランシスコが舞台で、僕もゴールデンゲート・ブリッジを渡った反対側に住んでいたんだ。いわゆるベイエリア。だから地元映画なんだよ、それがすごく嬉しくて映画を観に行ったんだ。スクリーンにゴールデンゲート・ブリッジが映ったときは、とても興奮したよ。
―あなたは日本映画にもとても詳しくて、今村昌平監督と是枝裕和監督が特に好きだそうですね。
日本映画にはとても影響を受けているよ。今村昌平、是枝裕和をはじめ、小津、黒澤、ほかにも沢山の素晴らしい監督がいる。僕が初めての長編映画を撮ろうとしていたとき、ブルックリンで今村昌平レトロスペクティブ(回顧展)をやっていたんだ。そこで今村の映画を一気に観たんだけど、特にカメラワークに圧倒された。今観ても斬新なショットがあって、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』にも、実はちょっと似たようなショットを取りいれているんだ。そのままではないけれども。日本の観客はもしかしたら、気づくかもしれないね。
―ボンド映画を撮るにあたって、何をゴールにしていましたか?
できるだけエモーショナルな映画にしたいと思った。僕はダニエル・クレイグの『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)が大好きで、あの作品ではヴェスパーとボンドの出会いが、徐々に破滅へと向かっていく。今回は、マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)がその役割を担うことになる。他にも、僕が愛する映画のエッセンスをいろいろ盛り込んでいるよ。今村昌平の『赤い殺意』(1964年)の影響もある。エモーショナルなストーリーであるからこそ、激しいアクションも意味をなすんだ。
―最後に日本の観客へ一言お願いします。
日系アメリカ人として、そしてアジア系アメリカ人として初めてボンド映画を撮ることができて、とても誇りに思っているよ。初めてのアメリカ人でもあるんだ。(日本語で)おつかれさまでした!
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取材・文:石津文子
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日(金)より全国公開
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年10月1日(金)より全国公開