通算9作目にして“すべて”が一新
1990~2000年代に台頭した猟奇系サスペンス/スリラー/ホラー映画の中でも異彩を放つ、『ソウ』シリーズ。2004年に第1作が世に放たれると各国で人気を博し、その後シリーズ化。2010年には、ギネス世界記録における「最も成功したホラー映画シリーズ」に認定された。
https://www.instagram.com/p/CHikylxM_ly/
猟奇殺人犯ジグソウや、その遺志を継ぐ者のデスゲームに強制参加させられた人々の恐怖は回を追うごとにエスカレートし、2010年公開の第7作『ソウ ザ・ファイナル 3D』をもってシリーズは完結。その7年後に続編『ジグソウ:ソウ・レガシー』が公開。そして……2021年9月10日に、通算9作目にして“すべて”が一新された新章『スパイラル:ソウ オールリセット』が日本公開を迎える。
9作目と聞くと、これまでの作品を全網羅しなければついていけないのかと不安も抱くかと思うが、本作は「オールリセット」と邦題にある通り、時系列的にはジグソウが死亡したのちの物語となっているが、物語も切り口もゼロベースから入れる内容となっている。これまでのファンに目配せする仕掛けは施しつつも、新たなアプローチに挑戦し、観る者に“出がらし感”を抱かせない。
シリーズ復活の歓喜とジグソウ模倣犯の恐怖をダブルで感じる
本作の“新しさ”は、設定や構造面から見ても明らか。今回は、ジグソウの模倣犯が起こす連続殺人事件を描く物語。ここだけ聞くと目新しさは感じられないが、従来のような“被害者目線”ではない。ジグソウの模倣犯を追う刑事をメインにしており、犯人の標的も「全員、警察官」。これまで以上に捜査モノとしてのカラーが強く、「犯人の目的は?」「犯人の正体は?」「次の標的は?」といった次々に生まれる謎、意味深に張られた伏線が、ストーリーを牽引。そこに、警察署内の腐敗に切り込むサスペンスや、親子の確執が絡み、制作陣の「新たな『ソウ』を創り出す」という気概を感じさせる。
とはいえ、新風を吹き込みすぎて「『ソウ』らしさ」が雲散霧消したわけではない。『ソウ』といえば「とにかく痛い、攻めすぎ描写」「究極の2択を迫られる極限状況」「救いようがない悪夢展開」などが挙げられるが、冒頭から盛大にカマしてくる。第1の犠牲者は、ひったくり犯を追いかけている最中に何者かに捕まってしまい、気づくと地下鉄の線路上に宙づりにされ、舌を金具で挟まれ、腕は鉄条網で縛られていた。このシーンを観たときに、『ソウ』ファンならば「来た来た」と思うはずだ。
https://www.instagram.com/p/COYG3jel6NQ/
そして、足元に転がるテレビから映像が流れ始める。フードをかぶり、不気味なマスクをつけた人物が「ゲームをしよう」と告げ、「舌を引き抜いて生きるか、宙づりにされたまま電車に轢かれて死ぬか」の選択を迫る。その際のノイズ系のBGMに高速で揺れるカメラワークなど、まさに「これぞ『ソウ』」な演出も加わり、観る者を一気にあの世界に引きずり込むだろう。その後も、水槽に閉じ込められ「●●を引きちぎって生きるか、●●死するか」等々、想像を絶するグロいゲームが連続。第1作を彷彿とさせるノコギリも登場し、突き詰めたゴア描写ともども、シリーズ復活の歓喜とジグソウ模倣犯の恐怖をダブルで感じるはずだ。
警察を挑発し、凶行を繰り返す犯人と主人公のスリリングな追跡劇は、例えるなら『ソウ』meets『セブン』、或いは『ミュージアム』といえるかもしれない。追えば追うほどに、犯人の術中にはまっていき、気づけば毒牙がぶすりと突き刺さっている、という攻守が逆転する展開も、刑事×サイコスリラーモノの人気作を継承しており、『ソウ』の新たな可能性を感じさせる。
クリス・ロック「トラップの情報は僕に教えないで。セットで初めて観たいから」
『スパイラル:ソウ オールリセット』はいわば、伝統と革新のハイブリッドといえるのだが、キャスト・スタッフにもその流れが組み込まれている。監督は『ソウ』2~4作目を手掛けたダーレン・リン・バウズマン、脚本は『ジグソウ:ソウ・レガシー』のジョシュ・ストールバーグとピーター・ゴールドフィンガーのコンビ、製作総指揮にはジェームズ・ワンとリー・ワネルが名を連ね、新旧『ソウ』メンバーが集結しているのだ。
さらに、主演のクリス・ロックは自ら配給会社の重役にアタックし、製作総指揮を買って出るほどの『ソウ』フリーク。刑事を主人公にするというアイデアは彼が持ち込んだもので、作品内には随所に過去作への愛と「まだまだこっちに振ることもできるぞ」という可能性の示唆があふれている。つまり、新旧『ソウ』メンバーに、『ソウ』のフォロワーが加わった状態。クリエイターとファンが共闘するわけで、斬新なプロジェクトになるのは当然ともいえる。
ちなみに、ロックは『ソウ』を好きすぎて「トラップの情報は一切、僕に教えないでほしい。セットで初めて観たいから」とプロデューサーに頼んでいたのだとか。この辺りもファン心理がだだ洩れており、ほほ笑ましい限り。「自分は刑事側のストーリーのアイデアを出す。グロ描写の部分はいちばん“わかっている”制作陣にお願いしたい」という趣旨のコメントも、クリエイターとファンの適切なコラボレーションを示すものといえるのではないか。
さらに、大きなサプライズとしてあのサミュエル・L・ジャクソンが登場するのも、シリーズの新潮流を感じさせる。彼が演じるのは、ロック扮する主人公の父親。親子刑事コンビが、ストーリーにどのようなスパイスを加えるのか。ぜひ本編で楽しんでいただきたい。サミュエルといえば! な、おなじみのセリフもしっかり組み込まれているのが心憎い限り。
時代によって翻案され、次世代の手で新たな形へと進化し、世界観を拡張し続ける人気シリーズは、映画史の中でも重要な位置を占めるものばかり。『ソウ』シリーズは、『スパイラル:ソウ オールリセット』でその仲間入りを果たしたといえるかもしれない。
文:SYO
『スパイラル:ソウ オールリセット』は2021年9月10日(金)より全国公開
Presented by アスミック・エース
『スパイラル:ソウ オールリセット』
地下鉄の線路上。舌を固定され、宙吊りの男。舌を引き抜いて生きるか、ぶらさがったまま死ぬか? 猛スピードの電車が轟音を立てて迫り、やがて無残にも男の体は四散する。それはジグソウを凌駕する猟奇犯が仕掛けた、新たなゲームの始まりだった――。
ターゲットは《全て警察官》。
不気味な渦巻模様と青い箱が、捜査にあたるジークと相棒ウィリアムを挑発する。やがて、伝説的刑事でありジークの父・マーカスまでもが姿を消し、追い詰められていくジーク。ゲームは追うほどに過激さを増し、戦慄のクライマックスが待ち受ける。
制作年: | 2021 |
---|---|
監督: | |
出演: |
2021年9月10日(金)より全国公開