もちろん今回もネタバレ厳禁!
映画ファンであれば毎回、この人の作品に期待するものは、「意外な展開」や「どんでん返しの結末」。いい意味でも、別の意味でも、呆気にとられることは確かで、だからM・ナイト・シャマランの新作は誰もが気になってしまう。
この『オールド』も、もちろんネタバレ厳禁。とはいえ、シャマラン作品の魅力は終盤から結末に限定されるわけではなく、その「設定」にある。出世作の『シックス・センス』(1999年)は死者が見える少年、続く『アンブレイカブル』(2000年)は大事故でも死なない男、『サイン』(2002年)は宇宙人が襲来したような形跡……と、物語の基本設定だけでソソられる。
近作の『スプリット』(2016年)と『ミスター・ガラス』(2019年)も、多重人格の主人公という点が観客を強く惹き込んだ。とくに結末の意外性に期待しなくてもいいのだが、シャマラン自身もどんでん返しを楽しんでいるようでもあり、そこが成功したり、時に失敗したりするところが、これまた愛おしいのである。
そんなシャマラン作品の中でも、『オールド』の設定はインパクトが絶大。バカンスで訪れたビーチでは、そこだけ時間の流れが速くなり、人々が急速に老化し始める。子供たちも、あっという間に大人になる。いったい何が起こっているのか? どのように映像で表現されるのか? それだけで観たくなるのは確実。これまでのシャマラン作品以上に、基本設定からの展開を「体験」する面白さを備えているので、ネタバレ部分を回避して、シャマラン監督と、主演を務めたガエル・ガルシア・ベルナルにインタビューを試みた。
「たしかに現実世界とリンクしてしまうよね」
『オールド』には原作が存在し、それはフランス人作家のグラフィックノベル「SANDCASTLE(砂の城)」だ。これは、父の日に娘たちから贈られたプレゼントだったというシャマラン。
娘たちは僕がコミックが大好きだと知っているから、フィラデルフィアのコミックショップで、「これならパパも知らないだろう」というレアな一冊を探してくれたみたいだ。まさか彼女たちは、これが新作のネタになるとは予想していなかっただろう。でも僕は最初のページを読んだだけで、一気に夢中になってしまい、この設定と謎を自作で広げたくなったんだ。
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急速に時間が進むビーチで、そこから脱出できないという『オールド』の設定は、コロナ禍で外出が不自由になり、何もできずに時間だけが過ぎていく状況とも重ねたくもなる。なにやら予言的な作品だ。撮影自体もコロナのパンデミックの中で行われた。この点について、シャマランは次のように説明する。
もちろん脚本はパンデミックの前に書いていた。『オールド』の登場人物たちは、「いま生きる」ことだけに必死になるので、たしかに現実世界とリンクしてしまうよね。撮影は当時、感染が抑えられていたドミニカ共和国で行い、最小限のスタッフとキャストで、ホテルとビーチを行き来するだけだったので、むしろ安心感があった。一人でも陽性者が出たら撮影を止める予定だったが、幸運にも問題なく進んだ。ただ1日中、太陽の下で撮影するのは肉体的にハード。それでも大自然と一体となり、僕自身、別の人間に生まれ変わった気分になったよ(笑)。
シャマランは基本的に地元のフィラデルフィアで撮影を行うので、この『オールド』は彼にとってもかつてなく大きなチャレンジになったのだ。
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「『アンブレイカブル』は雷に打たれたような衝撃を受けた」
では、キャストたちは、どんな思いで撮影に参加したのか? 主人公一家の父親を演じたガエル・ガルシア・ベルナルは、このように振り返る。
撮影が行われた2020年の夏から秋にかけては、世界中が混乱し、何もかもが不確定だった。そのような状況で、勇気をもって撮影を開始した映画のひとつが『オールド』だった。だから僕は、ナイト(シャマラン)がどんな演出をするのか、妙に期待を高めたよ。撮影場所のビーチは高い岩壁に囲まれており、僕ら俳優は空っぽの円形劇場に立たされている気分になった。コロナ禍ということで、僕らの結束力も強くなり、それが演技に表れた部分もたくさんある。そういう意味で忘れがたい撮影になったね。
俳優として人気のガエルだが、監督としてこれまで何本も映画を撮っている。そんな彼にとって、シャマラン作品のお気に入りを聞くと……。
じつは『シックス・センス』の前に、最初に観たのが『アンブレイカブル』だったんだけど、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。どこにでもあるような環境の中で、スーパーヒーローの経験が描かれ、映画としてのリズムも完璧。それ以来、ナイトの大ファンになった。2番目は『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006年)の幻想的なおとぎ話のスタイルで、3番目が『ヴィレッジ』(2004年)の、あまりに大胆なアイデアかな。
「この物語に人生が詰まっているように感じ、愛する人を大切にしたくなるはず」
撮影前にシャマランが、ガエルらキャストやスタッフに参考のために観せた映画が、ニコラス・ローグ監督の『美しき冒険旅行』(1971年)と、ピーター・ウィアー監督の『ピクニック at ハンギング・ロック』(1975年)だったという。この2作のストーリーを知っている人は、『オールド』の展開を多少、予想できるかもしれない。
また、シャマラン自身が演出の際に影響を受けたという作品が、新藤兼人監督の『藪の中の黒猫』(1968年)と、ルイス・ブニュエル監督の『皆殺しの天使』(1962年)であると告白。前者からは音楽の使い方を、後者からは知的に刺激される部分をヒントにしたそうだ。
そして毎回、話題になるエンディングについて、シャマラン自身、今回の『オールド』はどのように創造したのだろうか。
原作の「SANDCASTLE」は、寓話的で宗教的な物語になり、プロット自体がだんだん消えていく。だから僕は、原作の最初の方で示されたエピソードをあれこれリンクさせ、膨らませ、自分なりの挑発的な結末を導いていった感じだ。だから“原作にインスパイアされたエンディング”と言っていいんじゃないかな。
ガエル・ガルシア・ベルナルは『オールド』での演技体験を得て、改めて強く感じたことがあるという。
僕らも演じて実感したように、『オールド』を観た人は、この物語に人生全部が詰まっているように感じ、愛する人を大切にしたくなるはずだよ。その意味では、実生活に取り入れるヒントが見つかる作品かもしれない。
登場人物たちの急速な老化という極端なシチュエーションがどのように映像化され、エンディングにどの程度、衝撃を受けるのか。シャマラン作品らしい期待感を高めつつ、ガエルが話すように、「人生を濃縮して描く映画」という側面もある『オールド』。意外や意外、エモーショナルな部分でツボに入る人も多いのではないか?
取材・文:斉藤博昭
『オールド』は2021年8月27日(金)より全国公開
『オールド』
休暇で人里離れた美しいビーチを訪れた複数の家族。楽しいひと時を過ごしていた矢先、ひとりの母親が突然姿を消した息子を探している――
「私の息子を見かけませんでしたか?」
「ママ、僕はここにいるよ!」
母親が息子の姿に気付かないのも無理はなかった。なんと6歳だった息子は、少し目を離した隙に少年から青年へと急成長を遂げていたのだ。一体このビーチで何が起こっているのか?
海岸に打ち上げられた女性の死体、次々に意識を失う人々、砂浜に残された謎のメッセージ――
不可思議な出来事に直面する彼らは、やがて自らが急速に年老いていく事に気付く……。果たして、極限状態に追い込まれた彼らの運命は?
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年8月27日(金)より全国公開