『孤狼』のキーマン、獅童&滝藤
東映実録路線の匂いを継いだ前作『孤狼の血』(2018年)から引き続き、中村獅童と滝藤賢一が『孤狼の血 LEVEL2』で主要キャラクターを演じる。
呉原市に進出した広島の暴力団・五十子会系加古村組と地場の尾谷組の抗争を封じた呉原東署刑事二課の日岡秀一(松坂桃李)。日岡はこの一件で、清濁をわが身に飲み込み抗争を抑えてきた師でもあった相棒・大上章吾を失う。――あれから3年。大上に代わって暴力団を封じ込めてきた日岡の前に新たなる抗争の火種が起きる。その先鋒は出所してきたばかりの五十子会若中・上林成浩(鈴木亮平)。
ともにその火種に関与し、大きな影響を日岡に与える、中村の演じるどこにも忖度しないアウトサイダーな地元紙の記者・高坂(こうさか)、滝藤の演じる暴力団組織との癒着を日岡に押さえられている県警本部捜査一課の管理官・嵯峨。
物語を導く役割を負うお二人に、演じた役の魅力、本作の現代における意味、映画の果たす役割などについてうかがった。
「本当はクールにいきたかったのに皆さんの熱量に引っ張られた。ちくしょー! (笑)」
―まずはこのシリーズのオファーを受けようと思われた理由、惹かれたポイントについてお聞かせください。
中村獅童:僕はこの前に『日本で一番悪い奴ら』(2016年)でも白石和彌監督とご一緒しています。歳が近いこともあって観てきたものや夢中になったものが結構似ていて、リアルタイムではありませんが、『仁義なき戦い』(1973年ほか)なんかの東映映画が放つ匂いにも夢中になった。そんな作品をいま撮れる監督は? というと白石さんだと。その白石監督の作品なら、役者としてはぜひ参加したいと思いました。僕にとって東映は、叔父の(中村)錦之助(萬屋錦之介)のいた場所でもありましたしね。
滝藤賢一:僕もきっかけは白石監督です。白石作品に出たかった。この『LEVEL2』は、続編ができるほど『孤狼の血』が多くの方に愛されたという結果だと思う。そういう作品に参加できたのは俳優としてとても嬉しいです。
―中村さんは新聞記者として、滝藤さんは県警幹部を目指す人として、前編、本作通して、立場をより堅強なものにしながら物語を大きく動かしていきます。どんなふうに演じようとされていたのでしょう。
中村:どんな人物に見えるようにするかクランクイン前は熟考しましたが、演じているときは計算せず、むしろその役でいることを心がけていました。いや、演じているときはそれすら考えていなかったかもしれません。
―その世界に生きていた、という感じでしょうか?
中村:そうかもしれません。役者の仕事は、脚本に書かれていないキャラクターをどう構築していくか考えることだと思いますが、現場に行けば相手の役あっての芝居なので、独りよがりにならないように気をつけています。
滝藤:僕も獅童さんと一緒です。もちろん、ある程度は事前に考えますが、相手役とのセッションで生まれてきたものを信じるというか、それに乗っかります。なので本当はもう少しクールにいきたかったのに、完全に皆さんの熱量に引っ張られた。ちくしょー! って思っています(笑)。
―本当に! 俳優部は皆さん、前作より熱量高めでしたね。
滝藤:すごかったですよ(笑)。
滝藤「僕を悪者みたいに言いますね(笑)」 獅童「あいつ、そんな悪いやつじゃないですよ(笑)」
―そんな滝藤さんの演じられた嵯峨は、前作では広島県警の監察官でしたが、『LEVEL2』では本部捜査一課の管理官。少し昇進しています。そんな嵯峨というキャラクターを、脚本の池上純哉さんはとても気に入ってらっしゃるのだと白石監督にうかがいました。『LEVEL2』のスタートアップ時のキャラクター会議になかった嵯峨の名前が、池上さんのあげたプロットにはシレッと入っていたと。
滝藤:えっ! そうなんですか!? 消えてなくなりそうだったんですね。そのしぶとさも嵯峨っぽい。
―日岡(松坂)も、嵯峨を好きですよね。前作の仕打ちに懲りず、またも嵯峨に近づきます。
滝藤:僕を悪者みたいに言いますね(笑)。
―いやいや(苦笑)。なぜ日岡は嵯峨に持っていかれるのかなと。
滝藤:嵯峨は、日岡のやることなすこと全て気に入らないんでしょうね。存在自体、生理的に受け付けない。広島を掌握するために手段を選ばない。反社会的勢力よりたちが悪いですよ。でも、彼は自分のやっていることは正義だと信じて疑ってないと思います。
―嵯峨だけに、どこまで本気でおっしゃっているのか分かりませんが(笑)、もしそうだとしたら『LEVEL2』まで続く嵯峨のその野心はすごいということですね。
滝藤:この3年、日岡への復讐ばかりを考えて過ごしましたよ。
―一方、中村さんの演じられた新聞記者・高坂は、裏の世界を探るうちに闇に嵌まったかに見える強面です。
中村:あいつ、そんな悪いやつじゃないですよ(笑)。
―そうですよね(笑)。本当に現代にはなかなかお見掛けしない一匹狼のジャーナリスト。一種、憧れさえ感じさせるキャラクターです。
中村:最初の衣装合わせで白石監督に、どっちがヤクザか分からない感じの人でいてもらいたいと言われました。ヤクザっぽさを特に意識したわけではありませんが、その一言はずっと頭の片隅にありました。
―衣装にも意見を出されたんですか?
中村:いや、すべて監督です。衣装にはあまり意見を言わないようにしています。カッコつけたくなっちゃうから(笑)。いや、自分をよく見せたいというより、むしろ僕という存在をゼロにしたいから。たとえオーバーサイズでも狙いなら何も言いません。さすがに狙いじゃないのにサイズ感が違うときは言いますけどね(笑)。実はあのスーツとシャツ、相当こだわっていて全部オーダーメイドなんです。
―それはすごいこだわりですね。
中村:あんな昭和感のある服、そうそう手に入りませんからね。オーダーメイドの衣装は、僕だけじゃないと思います。衣装を作ってくれた方がツイッターに「獅童さんと〇〇さんが、うちの作ったシャツを着てくれています」って上げてらっしゃったので。
―白石監督は、演出家として結構こだわられる方ですか?
中村:衣装はある時代を描くのに重要なので、こだわったんでしょうね。『日本で一番悪い奴ら』のときもパンタロンみたいなパンツとか、70年代の話でしたので凝ってました。どれも売ってなさそうなものばかり。
「いまエンターテインメント業界は、僕らが役者になって最大の危機」
―高坂も、嵯峨も、生き死に紙一重なところに生きている人物。高坂はいつ消されてもおかしくないほど深い取材を敢行しますし、嵯峨ももしかしたら大きな組織の中で……と観客をドキドキさせます。彼らはどうしてこんなに命がけで仕事をするのでしょうか?
中村:僕は大したことをしていませんが、役者だってそう変わらないんじゃないでしょうか。お話をいただけるからこうやって演じていますが、いつゼロになるか分からない。コロナ禍のいまはさらに。そんな危機感の中でみんな生きている。この状況では舞台は観るほうも命がけですが、演じるほうも命がけ。それでもやるのは、懸けているからでしょうね、役者という仕事に。いずれにしても高坂のサバイバル力はすごいと思います。
―嵯峨はどうですか?
滝藤:あの人は死なないですよ、ずるいから(笑)。手段を選ばなければ、いつでも日岡を切れるでしょうし、なんとしてでも生き延びると思います。自分がやられることは絶対にないという確証があるんでしょうね。僕はあの映画の中で嵯峨が死ぬなんて微塵も思っていません(笑)。でも獅童さんが言われたように、俳優としては仕事がなくなるかもしれない危機感を切実に感じています。特に、このコロナ禍では。
―それは俳優部だけでなく、エンターテインメント業界全般そうですね。
滝藤:死活問題です。
中村:たぶんエンターテインメント業界は、僕らが役者になって最大の危機ですよね。コロナ禍はのちのち教科書にも載るような出来事で、国にとっても大きなダメージなんだと思います。でもエンタメ業界に絞って言うなら、やはり存亡の危機。だからこそこういう力強い作品をどんどん作って、エンタメの火を消さないことに注力していくしかない。そして僕らは声をかけていただいた作品を全身全霊でやる。
―撮影もコロナ禍だったとうかがったせいか、『LEVEL2』には不思議な力強さを感じました。映画的な面白さだけではない何かを。
中村:前作のときはいま以上に、“昭和の東映映画の匂いを放つ作品”がヒットするか判断つかなかったわけです、誰にも。でも、だからこそ今の時代にウケてもらわないと困る、ヒットさせよう、という切実さに溢れていた。そういうのが本作にも表れているのかもしれません。
「松坂くんはイメージを覆せるような本当にいい役にめぐり会えた」
―“昭和の東映映画の匂いを放つ作品”という言葉が出ましたが、『孤狼の血』シリーズがまさにそうであるように、歌舞伎の世界も、100年以上歴史を重ねた映画の世界も、継承した歴史の上に新しいものを構築して進化したエンターテインメントです。劇中の大上と日岡の関係もそうですが、受け継ぎ、それに何かを加えて新たなるものを成立させていく。『孤狼の血』はたぶんサーガなんですよね。継承編の『孤狼の血 LEVEL2』を経て、『LEVEL3』へと続く。そんなサーガのキーマンは、たぶん日岡に何かしらの影響をもたらすお二人だろうと思うわけです。
中村・滝藤:ははは。
―お二人の行動が向かうだろう日岡を演じる松坂桃李さん。2作品通して共演された今、どんな印象を持たれていますか?
中村:撮影時、これからロケに出る松坂くんにホテルの廊下でたまたま会ったので、こう伝えました。「イメージを覆せるような本当にいい役にめぐり会えたね」と。人間は多面性のある生き物だし、役者にはいろいろな自分をアピールしたい気持ちがあります。でも役にめぐり合わないことにはどうすることもできない。そういうめぐり合わせのチャンスが役者には何回かあると思うんですが、まさに日岡がそれだなと。
滝藤:日岡も、俳優としての桃李くんも、今回、大上および役所広司さんが前作で背負ったものを全て引き受けて立っている。その不安定さが何といっても面白かったです。大上とは違った形で広島を背負おうとする日岡と桃李くんのリンクにもゾクゾクしました。
―滝藤さんのその楽しそうな笑顔も、嵯峨とリンクしているように感じます(笑)。どんなシーンが印象に残っていますか?
滝藤:やっぱり、日岡との再会のシーンじゃないでしょうか。自分でも予想だにしないリアクションが生まれましたからね。続編だからこそのセッションだったと思います。
中村:僕は警察署の前でひと暴れしたところかな。テストでいきなり警備の警官に絡むところから入ったら、監督が「いいっすね」とすごく喜んでくれて。僕はやっぱり映画って監督のものだと思っているんですよ。歌舞伎のときは自分でジャッジしなければいけないのもあって。
滝藤:そうなんですね。
中村:古典のときは特に演出家がいないので、このきっかけで出てとか、主役が全般的にジャッジするんです。
滝藤:へぇ~!
中村:でも映画には監督がいる。全部監督に任せられるところがむしろやっていて面白い。自分は役者としていろいろな表現をするけれど、それは監督がチョイスするための素材。思う演技をしてみて、それをどうするかは監督にお任せする。そこが映画の楽しいところですね。さっきのシーンの最後のやり取りは桃李くんとのセッションで生まれたんですが、あとからスタッフの人たちが「監督、モニター見ながらすっごく笑っていました」と聞いて、嬉しかったですね。
滝藤:ははは。
――筆者が勝手に“継承編”と呼ぶ『孤狼の血 LEVEL2』は、ある時代を知るものが、伝えるべきものを次の世代へと手渡していく役目を帯びている。だが伝えられたからといって、思考することなく安易に受け取ってはいけない。「思考すべし」のメッセージこそがこの映画の核なのだから。脳みそを揺さぶって覚醒させる本作こそ、この時代に“必要不可欠”なもの。お二人の言葉の端々からもそれを感じた。
取材・文:関口裕子
撮影:町田千秋
『孤狼の血 LEVEL2』は2021年8月20日(金)より全国公開