一匹狼の刑事・松坂桃李vs悪の権化・鈴木亮平
一大センセーショナルを巻き起こした『孤狼の血』(2018年)から3年、待望の続編となる『孤狼の血 LEVEL2』が、2021年8月20日(金)に劇場公開を迎える。
前作から3年が経ち、時代は昭和から平成へと変化。先輩・大上(役所広司)の跡を継ぎ、ヤクザと関係を持ちつつ街の治安を守ろうとする日岡(松坂桃李)。そんな折、クレイジーな極道・上林(鈴木亮平)が出所。彼は、ヤクザの復権を目指して敵味方かまわずに大暴れを繰り返し、日岡も次第に追い詰められていく――。
前作は大上と日岡のバディものの要素が強かったが、今回の日岡は一匹狼。続投メンバーに加え、村上虹郎、西野七瀬、中村梅雀、早乙女太一、斎藤工、吉田鋼太郎といった新キャストが扮する癖の強いキャストに翻弄されるサスペンスフルな物語が繰り広げられる。大上との全面対決が全編にわたって展開し、アクションも大幅にパワーアップ。松坂自ら、建物の2階から飛び降りるなどの危険なスタントに挑戦している。松坂と鈴木、両者の鬼気迫る表情も見逃せない。
今回は、前作に引き続きメガホンをとる白石和彌監督にインタビュー。攻めた描写に込めた想いなどを、語っていただいた。
「広島に連れて行ってくれ」と懇願する役者が急増!?
―1作目が熱狂的なファンを多く生んだことで、続編制作にあたりプレッシャーや大変だったことはありますか?
プレッシャーというよりも、映画の1作目の結末を小説と変えてしまったことで、すんなり「凶犬の眼」(原作小説「孤狼の血」の続編)にいけない感じがあったんです。そこをどうするかは、かなり悩みましたね。物語上、役所広司さん演じる大上もいませんし。そこで、原作の「孤狼の血」と「凶犬の眼」の間の話にして、『LEVEL2』と言いながらも、新たに新作を作るような気持ちで臨みました。
それと、やはりコロナ禍での撮影は初めてだったので試行錯誤はしました。ただ、全員がPCR検査を受けて陰性でしたし、「コロナ禍だから」とセーブしてしまったら作品の内容的にもパワーダウンしてしまうし、本末転倒。感染防止に気を付けつつも、やりきりましたね。
1作目の公開後に面白かったことといえば、会う役者会う役者から「広島に連れていって下さい」と言われるようになったことですね(笑)。それは嬉しかったです。
―例えば、現代を舞台にした『ヤクザと家族 The Family』(2021年)や『すばらしき世界』(2021年)では、ヤクザは「失われゆくもの」としての悲壮感が漂う。ただ、昭和から平成初期を舞台にした『孤狼の血』シリーズでは、アグレッシブな生のエネルギーのぶつけ合いが生じます。役者さんにとって、いまやこうした作品は貴重なのではないかと感じました。
確かに、立候補してくれた役者たちは、そういった部分も含めて「やってみたい」と思ってくれたのかもしれないですね。
リアルな路線でいえば『ヤクザと家族 The Family』のような作品になるかと思いますし、立て続けに制作されるのは納得がいきます。ただ、それって東映でやる映画かな? とも感じますし、隣の韓国では「殺人鬼と殺人鬼が対決する」みたいな“あるわけない映画”が多く作られていますよね。『ワイルド・スピード』(2001年ほか)だって、現実にあんな暴走車はいないですしね(笑)。
だったら、日本でやっちゃダメなわけはない。『孤狼の血』を観た知人にも「こんなヤクザはいないよ」と言われたのですが、エンターテインメントを作る上で、リアルをぎちぎちに守らなければいけないなんてことはないと思っています。
攻めた描写があることで、エンタメの強度も増す
―本作でいうと、娯楽性と攻めた描写のバランス感覚をどう調整していったのかは、非常に気になります。劇中には猟奇的な殺人を犯すという強烈なシーンもありました。
これは前作もそうですが、前提として「撮ることができる部分は撮る」というものがあります。もちろん、そういったシーンを直接的には見せないという方法論もあったのですが、ただ上林というキャラクターを作る上では、ちゃんとそこを映すことで強度が上がると判断しました。
―それこそ1作目の冒頭は、豚の肛門のアップです。そういった描写もはらんだ作品がヒットしたことで、「もっと攻められる」といったような意識はあったのでしょうか。
難しいところですよね。ああいう描写を観るのが好きな人たちもいれば、「厳しい」と思う人たちがいることも重々承知していますし。ですが、描写にただただ蓋をしていけばいいのかというと、そうではない。それがあることでエンターテインメントになっている向きもあると思いますし、清廉潔白にヤクザ映画を作るのも変な話なので、ある程度の描写は必要だ、と思って取り組んでいました。
鈴木亮平演じる上林だけが、嘘をつかない
―本作で過激性を一身に体現しているのは、鈴木亮平さん演じる上林かと思います。『ひとよ』(2019年)でも組まれていますが、どのようにして上林役に決まったのでしょう。
鈴木亮平くんに関しては、『ひとよ』でご一緒したときに仕事への取り組み方に深く感動したことが大きかったですね。僕自身「上林は誰がやるんだろうな」と思っていたのですが、鈴木亮平くんならやってくれるんじゃないかと感じて、お願いしました。『TOKYO TRIBE』(2014年)で不良のトップを演じているから、アウトローもできると思っていたし、いい人の役が続いていたぶん、このタイミングでこういう役どころをお願いしたいんだ、という話はしました。
彼の造形に合わせてブラッシュアップしていったところも多いのですが、上林に関してはどうせやるなら滅茶苦茶ひどい奴にしたいと思っていました。ひどい奴になればなるほど松坂桃李くんが引き立つというか、日岡の物語に還元されていくと感じていましたね。日岡がしっかりいるから、上林のようなぶっ飛んだキャラクターを入れても成立すると感じたんです。
―実際に鈴木さん演じる上林をご覧になって、いかがでしたか?
やっぱり、鈴木亮平ってすごい役者だなと感じましたね。ただひどいだけじゃなくて、上林がこういう人間になった背景には、哀しくて屈折している部分がある。あと、この作品の中で上林だけが嘘をつかないんです。やり方がひどいだけで(笑)、彼は嘘をつかずに自己実現をしていく。
そういう意味では、とても気持ちのいいキャラクターでもあります。みんなが自分の対面を守って言うこともやることもころころ変わるなか、彼だけがブレない。その部分は、鈴木亮平くん本人ともつながっているように感じますね。
『孤狼の血』は今後『LOGAN/ローガン』のようになる可能性も?
―『孤狼の血 LEVEL2』を楽しみにしている方は、本当にたくさんいらっしゃいます。ぜひメッセージをお願いします。
本作は、謎に元気が出る映画だと思います。そういう意味では、コロナ禍で色々と不自由な中で、開放感を与えてくれる作品なんじゃないかなとは感じますね。この映画は、僕がいままで作った中で1番尺が長いんですが、最も体感時間が短いんです。ずっとノンストップで駆け抜けていくので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
―そして、観終えた後にはさらなる続編を期待してしまいます……!
先のことは考えずに書いていますが、確かに日岡はこのままでは終われないですよね。『孤狼の血 LEVEL2』が盛り上がれば、いつか日岡の物語にちゃんと決着をつけたいなと思っています。
ただ、『X-MEN』シリーズ(2000年ほか)に『LOGAN/ローガン』(2017年)という終わり方があったように、そんなに慌てる必要はないかなとも考えています。桃李くんが40歳、50歳になってから作るのも面白いかもしれませんしね。いずれにせよ、ヒットしてくれれば可能性は見えてくると思います!
取材・文:SYO
『孤狼の血 LEVEL2』は2021年8月20日(金)より全国公開