『ロッキー』と『ランボー』、どっちが高視聴率!?
─「午後のロードショー」(以下「午後ロー」)は前身の「2時のロードショー」(1982~1994年)から数えると今年で37年目になりますね。当初はどういった編成コンセプトだったんですか?
夏目:初期段階はとりあえず予算内で購入できる作品を放送していました。「2時のロードショー」は90分枠だったのでその枠に収まる作品というのを、繰り返しといいますか、今で考えるとかなり短いターンで放送していましたね。
―それが30年以上続き、今現在の「午後ロー」には独特のカラーがありますよね。
渡邉:そうですね。「午後ロー」になってからは、その時その時の担当者の好みも入ったりしながら特集を組んだりしつつ、今に至るという感じでしょうかね。
─例えば、スタローン主演作品だったら『ロッキー』シリーズよりは『ランボー』シリーズが放送されるイメージです。
渡邉:そうですね(笑)。近年は『ロッキー』シリーズも『ランボー』シリーズもどちらも放送してるんですけど、『ランボー』のほうが視聴率は取れる、という傾向があります。
夏目:そもそもスポーツ映画全般がダメで……(笑)。
─極端な話ですが、真昼間から映画を観るような人はスポーツに興味がないってことですかね……。作品選びの基準は何かあるんですか?
夏目:それぞれ担当の中では基準はあると思いますね。私の場合は、「できるだけ映画をすり減らさないように」ということを考えていました。つまり間隔をあけて使いたかったんです。なので幅広く作品を集めるんですけど、TV放送なのでオチが分かっていると2度目が厳しい仕上がりのミステリーや、芸術度は高いけど中身が難解なアート系作品はなるべく外したりしました。それで、だんだんビデオストレートなどを取り入れていくようになりましたね。
―今現在の基準はどうですか?
渡邉:正直な話をしますと、民放なので視聴率は取らないといけないんです。「午後ロー」を好んで見てくださるのは男性が多いので、アクションやサスペンスなどの作品が多くなってきますね。あとは地味なドラマものよりは2時間観ても飽きないような、“動きのある作品”が多いです。
作品チョイスは超ハード! 1日に10本観ることも……
―放送される作品はどうやって集めるものなのでしょうか?
夏目:とにかく映画を観ることですね。放送されるだけでも1年間に250本ありますから、担当の人間はいつも作品探しに必死です。過去に一度観ていて「これなら大丈夫」という作品ももちろんありますが、だいたい放送する250本の倍近い作品を観て、そこからチョイスしているんです。
―え! 担当になると映画漬けの毎日ですよね。
渡邉:そうですね。自分の時間を削って家に帰ってもずっと映画を観ていることは多々あります。
夏目:多い時だと1日10本立て、みたいなときもありましたね。
―目が回りそうですね! 映画好きからしたら羨ましいと思われるかもしれないですが、実は相当ハードなお仕事ですよね。観る映画が全部面白いなんてわけはなく、むしろハズレのほうが多いですよね……?
夏目:ハズレの方が多いですね(笑)。でも、個人的にはどうしてダメだったかを聞かれた時にハッキリと言えないといけないと思っています。なので、つまらなくてもちゃんと観るようにはしています(笑)。あとは劇場に観に行ってお客さんの反応を見るのも大事ですね。例えば帰りのエレベーターの中で夫婦が話している感想を聞いていると発見もあるんです。映画って試写や自宅で観るだけではわからないことってたくさんありますからね。
―ちなみにですが「午後ロー」の作品を選ばれてきた方のお好きな映画って「午後ロー」ファンからしたら気になるところなのですが……。
渡邉:ぼくは痛快な娯楽作が好きですね。お金を出して映画館に観に行くのは、いわゆるハリウッドの大作が多いですかね。
夏目:ぼくはホラーやSF、アニメなどでエッジの効いた作品が好みですね。脚本的にも、「こりゃ一本とられた!」というような新しい試みのある映画です。ありえない設定ってアクションやドラマ作品ではなかなか難しいけど、ホラーなどはムチャができるので生まれやすいですよね。あとは最後の最後で主人公が命をかけて助けるような、献身モノみたいな映画に弱いので『ターミネーター2』とかは観ると必ず泣いちゃいますね(笑)。
テレビ黄金時代の有名声優による吹き替え作品を放送する意義
―「午後ロー」の特徴として、すべて吹替放送というところがありますよね。しかもソフト化されている作品でも、ソフトに収録された吹替ではなく以前テレビで放送された吹替を放送しています。
渡邉:やはりお昼の放送ですので、みなさん“ながら見”の方が多いと思うんですよね。字幕放送だとテレビの前にじーっと座っていなきゃいけない。でも、吹替だと何かしながらも音で理解できる。そのメリットを考えての吹替放送ですね。
夏目:それに吹替だと途中参戦もしやすい。そういう意味では、途中から観ても入りやすい作品というのは購入の際に意識していたところでもありますね。
渡邉:それと、過去に放送された吹替を使っていることに関していうと、70年代から80年代にテレビでの映画放送が華やかだった時代があったんです。で、その当時の有名声優さんが吹き替えた作品というのはファンも多く、素晴らしいものばかりですので、それを放送する意義というのはありますね。
夏目:時々、番組宛に視聴者からリクエストをいただくことがあるんですが、過去に一度だけしか放送されなかった吹替の再放送リクエストなどが多いですね。ですが権利関係や、そもそもこちらでは探しようのないものなど、なかなかハードルが高いものがほとんどで……。
―視聴者からのリクエストには答えてくれるのでしょうか?
渡邉:こちらの編成コンセプトに合致するものや予算や権利関係など、リクエストにお答えすることはなかなか難しいんです。ただ、番組宛にお葉書やメールをいただくことはありまして、それらすべてに目を通して参考にさせていただいています。
夏目:昔は番組上でリクエストを募集したこともあったんです。でも、なかなか叶えることが難しくて、番組上で募集するのは1年ぐらいで止めちゃいましたね(笑)。
―近年、俳優やジャンルごとに特集が組まれていますよね。その中でたまにサメ映画特集とかワニ映画特集といった一風変わった括りの特集があるのも「午後ロー」の特徴です。
夏目:最初にサメ特集をやった時は『ジョーズ3』と『ジョーズ4/復讐篇』の2本があったので、他がビデオストレートでも特集として視聴率の底が抜けず何とかなるかな?と思い切りました。そして「7月はサメ!」特集は2年目に本格的にブレイク!でもそのあとサメ映画ブームが来て、他局のCS放送でも「1ヶ月間サメ!」みたいな特集が始まっちゃったりして(笑)。そうなるとサメばっかりになっちゃって他にネタを探してワニに辿り着いたりしましたね。
サメ映画にワニ映画……ブームになってしまうと長続きしない?
―これまでボツになったり、実現できなかった特集などはあったんでしょうか?
夏目:それこそワニ特集はいったんやろうとしたけど作品がなかなか集まらなくて、そのときはバラして放送しました。のちに作品数が増えて特集を組むことができたんですけどね。
―そもそもどこからワニ映画特集という発想がでてきたんですか?
夏目:『カニング・キラー 殺戮の沼』という映画を観たのがきっかけでしたね。だいたい特集を組むときは作品を観てインスピレーションが湧くんです。
渡邉:ちなみに、夏目さんがやっていた頃にいわゆるB級サメ映画ブームが来ていたんですけど、近年もう一度やってみたら結果が芳しくなくて……(笑)。
夏目:ブームになっちゃうと長続きしないんですよね。だからできるだけブームにせず長続きさせることが大切なんだと思います。
渡邉:「午後ロー」って、スピルバーグの作品も放送するけど同時にアサイラム作品も放送することができるんです。そんなことができる枠は地上波ではなかなかないですね。
取材・文:市川力夫
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