ワニ映画版『オープン・ウォーター』!?
サメ映画を筆頭に根強い人気を誇るアニマル・パニック物だが、当然サメ以外の動物だって負けてはいない。特にワニ映画などは、サメ映画ほどではないにせよ、それなりの本数が出ている一ジャンルである。というわけで今回紹介する作品は、「実話を基にした」とされるワニ映画、『ブラック・ウォーター』(2007年)だ。
そのソリッド・シチュエーション・スリラー物めいた舞台設定から、ときには“ワニ映画版『オープン・ウォーター』(2004年)”とも仇名されている本作。日本国内では2021年2月に続編の『ブラック・クローラー』(2020年)が公開されたばかりであり、今もっとも勢いに乗っているワニ映画……なのかもしれない。
想定外のワニ襲来! 助けは来ない!!
観光旅行で北オーストラリアを訪れた、グレースとアダムのカップル、そしてグレースの妹であるリーの三人。初日にワニ園を満喫した一同は後日、沼地でのフィッシングツアーに参加することに。
「我々が川釣りを行うエリアにワニはいない。この辺りのワニは皆ワニ園に行ったか、もう殺されている」──そう語るガイドの言葉を信じ、ボートに乗った三人。が、突如としていなくなったはずのワニが沼地に出現。水の中からボートに奇襲を仕掛けると、瞬く間にガイドを惨殺してしまったのである。
川岸に生い茂る木の上へと、死に物狂いで避難したグレース、アダム、リー。九死に一生を得たものの、あいにく三人がこのフィッシングツアーに参加していることを知る者はおらず、助けは絶望的。あくまでごく平凡な旅行客に過ぎなかったはずの一同は、急転直下で沼地でのサバイバルを強いられる。おまけに、今しがたガイドを葬り去った一匹のワニは、その後も執念深く三人を狙っており……。
というのが、本作の概要である。
クライマックスはワニとのトンデモ一騎打ち!?
監督・脚本はアンドリュー・トラウキとデヴィッド・ネルリッヒの二人体制。そのうちアンドリュー・トラウキは、後年『赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター』(2010年)という、これまた『オープン・ウォーター』に舞台設定の酷似したサメ映画の監督を務めている。ほかにも『ジャングル -不滅-』(2013年)など、“大自然の中で人々が極限状況下に陥る作品”を好んで監督している人物だ。
https://www.youtube.com/watch?v=IdX37lUiaJo
さて、最初に「ソリッド・シチュエーション・スリラー物のようである」と紹介した通り、本作は“遭難”要素に重きを置いたワニ映画である。そのため、ワニが画面上に映る時間と回数それ自体はそう多くはなく、もっぱら沼地で遭難した主要人物三人の、極限状況下での動きに焦点を合わせた作りとなっている。よって、たとえばワニが「怪獣映画の大怪物がごとく派手に暴れ回る」ような、モンスター・パニック的スタイルのワニ映画だと誤解したまま本作を鑑賞すると、実際の内容との間に少々ズレを感じることになるかもしれない。
とはいえ、作品そのものは必ずしも悪くはない。闇夜の中で恋人の亡骸をワニに貪り食われるシーンのおぞましさや、ワニの襲撃に遭い小指が折れ曲がるシーンの痛々しさなど、派手さはないにせよむしろ秀逸な部分も多い。クライマックスでのワニとの一騎打ちはややトンデモ志向寄りだが、この手の作品の締め方としては、まあ無難な落としどころではあるだろう。
ただし、「デーン」「ドーン」と自己主張が激しく、妙に仰々しい音楽は、ときとして本作のリアル志向のシリアスな怖さと噛み合っておらず、やや浮いていた箇所も散見される。また、この手のスリラー物ならば当たり前のことではあるが、突然の惨劇に混乱・疲弊した主要人物がしばしば口論を始めたり、決してサバイバルのプロではない素人であるため、やたら悪手を打ったり行動の指針が定まらなかったりするなど、極限状況下特有のストレスを強めに感じる作りではある。
ゆえに“カラッとした明るいノリで、主要人物が常に最適手を打ち続けるモンパニ”がお好みの方には合わない、という可能性が考えられる。そこは注意すべき点だろう。
文:知的風ハット
『ブラック・ウォーター』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:ワニゾーン2021」で2021年8月放送
『ブラック・ウォーター』
オーストラリア北部へ休暇に出掛けた姉妹と姉の恋人。ガイドに案内された深い森の沼地で釣りを楽しんでいると、突然何かに直撃されボートは転覆。3人は何とか木の上に避難するが、ガイドはすでに死体となって川に浮いていた。そして彼らの前に巨大なクロコダイルが姿を現す。
制作年: | 2007 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:ワニゾーン2021」で2021年8月放送