閉塞空間における恐怖と絶望が招く悲劇
『ミスト』(2007年)について映画ファンに聞くと、好き嫌いにかかわらず「いや~、とにかく結末がね……」なんて苦い顔をしながら、もったいぶって語りだすかもしれない。モンスターパニックもの~集団心理による狂気を描いた傑作であり、しかし映画史上もっとも後味の悪い作品のひとつだからだ。
いまさらながら一応ざっくりとあらすじを説明しておくと、激しい風雨に見舞われた湖畔の町が、やがて濃い霧に覆われるところから物語は始まる。しかも、街を覆い尽くした霧に立ち往生させられた住民たちは、次々と目に見えない“何か”に襲われていく。得体の知れない恐怖に怯える人々の心が狂気に支配されかけたとき、そこには信じられない光景が……!
あらすじだけ聞けばよくあるモンスターパニックもののようだが、深い霧による閉塞空間から発生する集団心理に否応なく引きずり込まれていく展開が『ミスト』の傑作たる所以である。観客は登場人物と同じ情報しか与えられず、強制的に与えられたモブ視点で物語を追いかけることになるのだ。そのストレスと恐怖たるや、もはや遊園地のホラーアトラクション顔負け。
しかも『ショーシャンクの空に』(1994年)や『グリーンマイル』(1999年)などの超感動作を手がけたフランク・ダラボンが監督だというのだから、なんか別の意味でもちょっと怖い。
キモくて怖くて神出鬼没! な凶暴クリーチャーたち
閉鎖空間における極限状態の中で弱みや本音が露見し、人間同士の醜悪な戦いには神経をすり減らされる。日常生活では見えてこない(あえて見ようとしない)人々の背景や人間性が浮き彫りになっていくが、傍観者である我々は胃をキリキリと痛めながら見守るしかないのだ。
さらに濃霧の中にチラ見えする“異形のモノ”たちも秀逸で、虫とか爬虫類とか頭足類が苦手な人たちの嫌悪中枢をピンポイントで突いてくる好デザイン。『死霊のえじき』(1985年)や『ウォーキング・デッド』シリーズ(2010年~)で知られるグレゴリー・ニコテロがクリーチャーデザインを担当しており、本作では人間の死亡エフェクトなどにも彼の嗜好が表れている。
冒頭のシーンで主人公が描いている絵が、同じくキング原作の『ダークタワー』(2017年)だとか『遊星からの物体X』(1982年)だとか、インスパイア元としてのクトゥルフ神話(H.P.ラヴクラフト)体系であるとか小ネタも満載ではあるのだが、なにはともあれすさまじい絶望感に襲われるであろうラストシーンだけは覚悟しておいたほうがいい。トラウマになりかねない衝撃度なので、気合を入れて鑑賞に挑んで欲しい。正直、真っ昼間の地上波で放送していいレベルを超えているとすら思う。
ちなみにNetflixではドラマ版の『ザ・ミスト』(2017年~)も配信されているので、この絶望的な世界観にもっと浸っていたい! という人は是非チェックしてみては。
『ミスト』は2019年3月13日(水)13時35分から「午後のロードショー」(テレビ東京系)にて放送。
『ミスト』
のどかな町を突如襲った正体不明の“霧”。それが街を包んでいく中、身動きが取れずスーパーマーケットに取り残された人々。霧の中には“何か”がいる。次第に明らかになっていく戦慄の事実。かすかな希望を抱いて最終決断をする彼らに待っていた驚愕の結末とは?
制作年: | 2007 |
---|---|
監督: | |
脚本: | |
出演: |