サイコ・ゴアマン誕生秘話
とあるインタビューでの一場面……
インタビュアー:『サイコ・ゴアマン』は実に馬鹿げた内容だよね、どうやってこのアイディアを思いついたの?
スティーヴン・コスタンスキ監督:(キレ気味に)2人の子供が裏庭で出会った悪魔級エイリアンと一緒に冒険に出て、ガレージバンドでドラムを叩き歌わせることのどこが馬鹿げているんだ? めちゃくちゃ面白いだろ!『サイコ・ゴアマン』はね、僕たちが子供の頃にビデオ屋でコッソリ借りたR指定の映画、『ターミネーター』(1984年)や『強殖装甲ガイバーII』(1992年)あたりのSFアクションにインスピレーションを受けた一方で、恐ろしい暴力にトラウマを感じた経験が元なんだよ。あの体験を今の子供たちにも“オフィシャル”に味わって欲しくて作ったんだ! 僕は全くもって真面目さ!
――ルークとミミの兄妹はある日、庭で不思議な“石”によって封印されていた悪魔級エイリアンを蘇らせてしまう。地球を滅ぼすどころか全宇宙に厄災を及ぼす危険なエイリアンなのだが、大人を舐め切った(いわゆるメスガキな)ミミは、このエイリアンが“石”を持つ者には絶対に逆らえないという弱点に気がついてしまった。調子に乗ったミミは、エイリアンを「サイコ・ゴアマン」と名付け意のままに操る。
PG(サイコ・ゴアマン)を引連れご町内を大暴れ!! 友達を脳みそのバケモノに変え、警官を“バイオ・コップ”に大改造!! バンドを組んで大絶叫!! 彼らを止めるべく立ち上がるのは、テンプル騎士団とサイコ・ゴアマンの昔のダチ(怪人) 。だけど強い! 強すぎるぞサイコ・ゴアマン! 地球の運命など知ったことかとワガママを突き通すミミ! 妹をなんとかしろルーク! 父ちゃん、母ちゃんはこんなガキどもを放置して何しているんだ!? 生意気な子供と悪魔は百害あって一理なし! ご町内、そして地球の運命やいかに!?
80年代のトラウマ映画体験を現代に蘇らせる
驚地動天の80sハイブリッドホラー『ザ・ヴォイド 変異世界』(2016年)。我々に「清々しい悪趣味」の扉を開かせた『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』(2011年)。そして、あまりの面白さから、うっかり配給さんがガレージホラー(自宅の物置を使って撮影した超低予算自主制作映画)を劇場公開してしまった『マンボーグ』(2011年)を覚えているだろうか? これらはすべてカナダの映画制作・監督会社アストロン6の所業だ。
ホラーファンの間では、80年代を彷彿とさせる自主制作映画を制作することで有名なアストロン6。彼らの80年代愛は狂気すら感じるほど。ただ同社の作品には致命的な弱点があった。それは「子供には見せられない」こと。
ご存知の通り、80年代はホラー映画に対する規制が緩かった。とりわけ日本は緩く、首がシュバっと飛ぼうが、おっぱいがバインボインと揺れていようがお構いなし。乳飲み子から根暗な中学生(これは私だ)、陽キャな高校生まで全員が超残酷オゲレツホラー映画を劇場で鑑賞できた。ところが、今となっては人の首が飛んだ瞬間、中学生以下はレーティング規制で見られない。オッパイが揺れていても同じ。アストロン6の面々は、これを由々しき事態だと考えた。何故なら、彼らの目的は80年代映画の再現に止まらず、80年代当時の子供たちの映画体験を今の子供たちに追体験させることだからだ。
しかし、彼らの創造する80年代のインモラルな映画はR15+指定を免れることはできない。だって『ファーザーズ・デイ』に登場する殺人鬼の名前はFuck-manである。現代の小学生が観られるわけがない。そこで彼らは考えた。「子供向け『マンボーグ』みたいな映画」を作ればいいんじゃね?
https://www.youtube.com/watch?v=mISUM0qvFTQ
あふれ出るスーパー戦隊シリーズへの愛情
そんなわけで制作されたのが『サイコ・ゴアマン』なのだ。ストーリの元ネタはなんと『ロウヘッド・レックス』(1986年)。確かに『ロウヘッド・レックス』はサイコ・ゴアマン同様、“石”で封印された怪物が解き放たれ、大暴れする映画だ。
しかしクライヴ・バーカー(『ヘル・レイザー』[1987年]ほか)脚本の気の触れたモンスター映画は絶対に一般受けしないだろう。それを子供向けにブラッシュアップを試みるとは、なかなかの度胸だ。このブラッシュアップに一役買ったのがコスタンスキの、日本のスーパー戦隊モノへの愛情だ。
子供たちに観て欲しいってことで、日本のスーパー戦隊モノに着目したんだ。スーパー戦隊に登場するキャラクターって、リアルさはさておき、めちゃくちゃ大胆なデザインだろ? ああいうパンチのある連中を登場させたかったんだよ。
サイコ・ゴアマンの造形はもとより、テンプル騎士団の面々、怪人の造形はまさに日本のスーパー戦隊のそれだ。ここまで真摯かつ、『パワーレンジャー』(1993~1995年ほか)のような“ただのコピー”ではない、オリジナリティをもったスーパー戦隊へのオマージュを捧げた作品は類を見ない。
ただし、ただしですよ! 正直言うと、サイコ・ゴアマンそのものやスーパー戦隊へのオマージュよりも、ミミのメスガキっぷりが凄まじい。この娘のキャラクターはオンリーワンである。子供の思考が大人に理解できないのは当然のこと。だが、ここまで理解不能な発想と行動をする子供はもはやバケモノである。
クライマックスで繰り広げられる対決も、彼女が生み出した“クレイジーボール”という意味不明なゲームにより行われる。「子供が怪物なのか、怪物が子供なのか、誰にもわからない」と言ったのは故ルチオ・フルチだが、まさにこの言葉を地でいくミミにあなたは釘付け間違いなしである。
本作はめでたくPG指定(サイコ・ゴアマンだけに)となり、小学生でも劇場で楽しめる。もちろんコスタンスキの目論見通り、健全な青少年にトラウマを植え付けるべく首は引きちぎられるし、肉体はバラバラになる。全国のニチアサ(※特撮番組)好きなお子様たちに見て欲しい、血みどろの夏休みスーパー戦隊映画だ。
この際、アストロン6制作の唯一の日本未公開作である、大人向け連続殺人映画『The Editor(原題)』(2014年)も公開して欲しいものだ。こちらは『サイコ・ゴアマン』に登場する、バカ兄妹のアホな父親を演じているアダム・ブルックスが監督している。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『サイコ・ゴアマン』は2021年7月30日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
『サイコ・ゴアマン』
太古より庭に埋められていた銀河の破壊者<残虐宇宙人>は、少女ミミ(8歳)により偶然掘り当てられ封印を解かれた。だが、すかさず容赦ない殺戮の限りを尽くすはずが、極悪な性格のミミに自身を操ることが可能な宝石を奪われていた。かくして無慈悲にして計り知れぬ力を誇る暗黒の覇者は、サイコ・ゴアマンと名付けられ少女にたいへんな仕打ちを受けることとなる。一方、残虐宇宙人の覚醒を察知したガイガックス星の正義の勢力<テンプル騎士団>は宇宙会議を開催、最強怪人パンドラを地球に送り込む――。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年7月30日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開