幼少期の「○○ごっこ」による痛い思い出
幼い頃から誰もがいろんな物に影響を受けると思うのだが、私の場合は男の子ならではのヒーロー物に、多大なる影響力を受けた。ゴレンジャーごっこや、ウルトラマンごっこに、仮面ライダーごっこと、この「○○ごっこ」に明け暮れる幼少期だった。
そんな中で今でも覚えているごっこが、西遊記ごっこ。私が幼稚園の頃、日本テレビで日曜夜8時から放送していたドラマ『西遊記』(1978年)は、主演の孫悟空に堺正章さん、猪八戒に西田敏行さん、三蔵法師には何故か女優の夏目雅子さんと豪華キャストで放送されていた。ゴダイゴによる主題歌「モンキーマジック」は歌詞が全て英語で、意味は分からなかったがカッコよかった。このドラマが私は大好きで、毎週かかさず観ていた。
そして月曜日になると、幼稚園に行って園児が砂場遊びやブランコ、滑り台などの遊具で遊ぶ時間に、グラウンドの隅っこのほうで、悪ガキ仲間と西遊記ごっこをするのが楽しくてしょうがなかった。もちろん私は孫悟空役で、武器の如意棒(にょいぼう)をブンブン振り回して楽しんでいた。
当時、私の田舎の幼稚園は山間の小さな幼稚園で、裏山あたりを探せば如意棒になる棒っきれなど腐るほどあった。最初は木の枝の棒っきれを振り回していたが、太さがイマイチしっくりこない。次に竹の棒を見つけて振り回していたが、これも竹の節がぼこぼことしていてイマイチ。するとある日、一緒に西遊記ごっこを楽しんでいた猪八戒役のDちゃんが、不法投棄されたであろう、ちょうど良い長さと太さの、ほんのりサビの出た鉄の棒をどこからか見つけてきた。私が振り回すと重さも完璧な如意棒。これはいい! と、私の西遊記ごっこにも拍車がかかった。
毎日明けても暮れても、幼稚園の校舎の裏に隠してある、鉄の棒を振り回して西遊記ごっこを楽しんでいた。自分で言うのも何だが、この頃になると如意棒の振り回し方もそこそこ上手になっていた。そんなある日、いつもの様に如意棒を回していると、沙悟浄役のE君がよろけて私の前にヒョイと頭を出した。すると回していた如意棒こと鉄の棒が、E君の頭にガチーン! たんこぶが出来、軽く血が滲んでいる。悪ガキといえども、園児の頭に鉄の棒が当たったのだ。泣き出すE君。幼稚園の先生たちが集まってくる。現場では、私がE君の頭を鉄の棒で殴ったような空気が流れている。
「いやいや違うんです……棒を振り回していたらE君がよろけて来て……僕が殴ろうとしたわけではなく……」。幼稚園児の私にそんな弁解ができる訳もなく、ただただ先生に叱られ、私も泣きだすという始末。幸い怪我は大したことはなく、E君の父親とウチの親父が同級生ということもあり、遊びの中での怪我ということでそこまで大事にはならなかったが、これを機に私の幼稚園では西遊記ごっこが全面禁止になった。いまだに幼馴染のE君とは会えば酒を飲みにいく間柄だが、彼はこのことを今でも覚えているのだろうか……。
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真田広之演じる八犬士がカッコいい!『里見八犬伝』
さて、今回オススメする戦国映画も私がかなり影響を受けた作品、1983年に公開された大冒険活劇『里見八犬伝』。この作品は、まだ小学生だった私が友達と初めて映画館に観に行った作品で、子供心にワクワク、ハラハラして観たことを今でも覚えている。そしてこの作品の中で、真田広之さん演じる犬江新兵衛なる八犬士の一人が、大きな鎌を二刀流で暴れ回る姿に影響され、家の納屋にあった草刈り用の鎌を2本持ち出して、八犬伝ごっこをもちろんやりまくった。
物語は里見家の静姫(しずひめ)の窮地を、八つの玉に導かれて集まって来る八人の剣士(八犬士)が敵の妖怪どもに立ち向かうという勧善懲悪のストーリーで、今見返してみると懐かしい昭和のヒーロー物の香りがする作品。例えば、劇中に出てくるムカデの妖怪の老婆が八犬士に倒され、床に倒れ込むと一瞬にして緑色のスライム状になるあたりも、懐かしい昭和の演出を感じる。他にもクライマックスで八犬士がそれぞれ馬に乗って、敵の城に向かうシーンはどこか戦隊モノの雰囲気をかもし出している。
ただ子供の頃に映画館で見た時は、とにかく怖かった思い出がある。オープニングソングは軽快な洋楽なのだが、冒頭のファーストカットのシーンでは妖怪軍団に、その後ろで並んで従う黒の甲冑姿の鎧武者たちが長槍を携え、城を取り囲んでいる。そこに並べられた里見家の武将たちの生首。かなりインパクトのあるオープニングシーンだ。
その筆頭にいる、呪いによってよみがえった玉梓(たまずさ)役を夏木マリさんが演じてらっしゃるのだが、コレがまた妖艶でかなり怖い。映画の中盤で人間の生き血の池で干からびた身体を蘇生されるのだが、このシーンはなんとも言えないぐらい怖くてエロい。他にも玉梓の息子・素藤(もとふじ)役の目黒祐樹さんの白塗りに少しアザのある顔もかなり不気味だ。
しかしこの映画、何と言ってもキャストが豪華。主演の静姫役、当時まだ10代の薬師丸ひろ子さんが、ま~可愛い! こんな可愛い姫のためなら、妖怪相手だろうが誰もが立ち向かいたくなるだろう。そんな静姫に惹かれていき、最後の八犬士に選ばれる犬江新兵衛役の真田広之さんが、これまたカッコいい! この方は間違いなく、和製トム・クルーズだろうと私は思う。さらに、この真田さんの師匠にあたるJACの創始者・千葉真一さんが八犬士のリーダーの犬山道節役で脇を固めていらっしゃる。この道節の山伏の衣装がまた千葉さんに似合っていてカッコいいのだ。さらにさらに、JACが生んだもう一人のスター、志穂美悦子さんが八犬士唯一の女犬士・犬坂毛野を演じておられるのだが、馴れ馴れしく言わせてもらうと、これまたエッちゃんが可愛い! しかもアクションも完璧。
この御三方、師匠の千葉さん、天才愛弟子の二人・志穂美悦子さんと真田広之さんが入り乱れて戦うシーンは圧巻で、今見ても興奮する殺陣であることは間違いない。そして見落としてはいけないのが、物語の最初は玉梓の妖怪軍団の一味で、甲冑武者軍団の中いる侍大将の赤い鎧兜の男、犬飼現八(いぬかいげんぱち)。彼は物語の後半で玉を手に入れ、正義の心に目覚め妖怪軍団を裏切り八犬士に入ってくる。この役を演じてらっしゃるのが、設立直後のJACの第一期生、大葉健二さん。この方は僕らの世代なら、誰もが知ってる『宇宙刑事ギャバン』(1982~1983年)の主人公、一条寺烈(いちじょうじれつ)なのだ! 大葉さんはギャバンだけでなく、他にも『バトルフィーバーJ』(1979~1980年)や『電子戦隊デンジマン』(1980~1981)などにも出演されていて、私の「〇〇ごっこ」には欠かせない俳優さんなのだ。しかも大葉さんはこういった戦隊モノで、変身前の役と変身後のスーツアクターも両方やられる、稀有な俳優さんでもある。なので、この映画も披露する見事な槍捌きは、観ていて本当に惚れ惚れする。
他にも犬塚信乃を演じる京本政樹さんの綺麗なお顔立ちだったり、犬田小文吾役の苅谷俊介の怪力無双ぶりだったりと、その魅力は上げるとキリがない。ただ最後にもう一人上げるとすれば、妖怪軍団の一人であり、人間を妖怪に手術してしまう「幻人」役の汐路章さん。この方は数々の時代劇、現代劇、ヤクザ映画などで悪役から頼りない怪しい役まで、幅広い役で昔から東映の名脇役としても有名だが、この方があの、つかこうへい原作の『蒲田行進曲』(1982年)の階段落ちでも有名な“ヤス”のモデルになった人なのだ。若い頃、東映の大部屋育ちで、お金を稼ぐのにスタントマン無しで階段落ちに挑まれた汐路さん。その際、撮影当日の朝になって、奥さんのためにと無審査の簡易保険に申し込まれたエピソードは有名だろう。
今こそ注目!? 戦国時代の“保存食”雑学
さて今回の戦国雑学は、この作品の中で山中を逃げていた薬師丸ひろ子さんが炭焼小屋に入り込み、食べ物を探していると、そこに現れた真田広之さんに袋を投げつけられ、その中の「焼き米」を薬師丸さんが貪り喉に詰まらせるシーンから。この焼き米は当時の保存食の一つで、携帯するのにも便利だった。そんな戦国時代の「食雑学」をご紹介しよう。
まず焼き米に近いのが「干し飯(ほしいい)」。焼き米は、熟す前の未熟な籾(もみ)、あるいは水に漬けて発芽させた種籾を殻ごと煎り、殻を取り除いた物。一方の干し飯は、炊いたお米を天日干しにして乾燥させた物。どちらも携帯しやすい保存食として古くから戦場に持ち込まれていた。長期保存が可能な上、さらにどちらもお湯で戻すとお粥の様になり温かく食べられるので重宝されたのだろう。
さらに驚きなのが「ずいき縄(芋がら縄)」という、今で言うインスタント味噌汁が戦国時代にはあったのだ。ずいきとは里芋の茎のことで、まずはこのずいきの皮を剥いてカラカラになるまで天日干しにする。それを味噌で煮しめてまた乾燥させ、これを編んでずいき縄にするのだ。この縄を腰に巻いたり、荷物を縛る縄として戦場に持っていく。そして食べる時、足軽や雑兵たちは自分が被っている鉄の陣笠を逆さにして鍋がわりにし、お湯を沸かす。その中にちぎった芋がら縄を入れると、染み込んでいた味噌が溶け出し、芋茎も柔らかくなり、味噌汁が完成するのだ。永谷園もビックリの、インスタント味噌汁が戦国時代にすでにあったのだ。
他にも炭水化物や味噌、煮干し粉や魚粉などを粉末またはペースト状にして丸めた、「兵糧丸(ひょうろうがん)」という携帯保存食があったり、喉の渇きを抑えるために、唾液の分泌を促すように梅干しをベースに調合された「水渇丸(すいきつがん)」という、現代ののど飴やガムの様なものもあった。昔から「腹が減っては戦さができぬ」と言われてきたが、戦国時代にはこの様な物でお腹を満たして、戦さに臨んだのである。
文:桐畑トール(ほたるゲンジ)
『里見八犬伝』はAmazon Prime Videoほか配信中
『里見八犬伝』
悪霊につかえ、不死身の妖怪となった玉梓は、かつて里見家に征伐された恨みを抱いて館山城に攻め入った。里見一族は虐殺され、静姫だけが生きのびる。その姫の前に仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の各字を刻んだ八つの霊玉を持った八剣士が集まる。妖怪軍団の巣窟へ攻め入り、激闘の中で一人一人命を失ってゆく八剣士の中、親兵衛と静姫は最後の力で玉梓に挑むのであった。
制作年: | 1983 |
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監督: | |
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