「人生は小説より奇なり」を地で行くような人生というものがある。作家ジェニファー・ヴォーゲルの人生はその一つだろう。素敵なパパが実は銀行強盗や偽金作りだった娘の人生である。映画『フラッグ・デイ(原題)』(2021年)はジェニファーが書いた回想記をショーン・ペンが監督・主演、さらにジェニファー役に娘ディラン・ペンを起用して撮りあげた作品。ペン自身が監督作に出演するのは初めてのことである。
自分の監督作に出演するのは初めてというショーン・ペン。ジェニファーは両親と弟の4人家族。子ども時代の思い出にはいつも優しく楽しい父ジョンの姿があった。しかしやがて父は母と子どもたちを残して家を出る。時々かかってくる電話の向こうの父は大きな夢を持ちそれを叶えていつかは子どもたちの元に戻ってくる、とジェニファーは信じていた。一方、父がいなくなってから母は酒に溺れ生活に支障をきたすまでになる。ジェニファーは母を捨て、弟とともに父の元に向かう。新しい恋人と暮らす父はやはり楽しく優しい父だった。ある日、庭先で屈強な男たちに殴られ血だらけの姿を見せるまでは……。
父は借金まみれで、嘘つきで、銀行強盗に手を染める、そんな男だった。
ショーン・ペンは最初この父親ジョンをマット・デイモンに演じてもらいたかったという。「脚本ができてまずマット・デイモンに送った。ジョンを演じてくれないかと。でも、マットは脚本を読んで電話をくれて言うんだ。これは自分が演ずる事はできない。なんでショーンが自分で演じないんだ、もったいないじゃないかって。それで自分で演じることにしたんだが、兼任するのはやはり難しいよ。そこであくまでも監督が一番で、俳優はその次というつもりで撮影していった。なにせ、本当にあった話なので、そこを一番大切にしないといけない。会話のシーンも多いので、そんなところはカメラを固定し、ディランのリアクションを逃さないようにした」
原作者のジェニファー・ヴォーゲルは脚本にも参加している。「これはわたしのファミリーの話で、本当にプライベートなものなので、映画化されることに不安がなかったかというと嘘になるけれど、ショーン・ペンは本当に素晴らしい仕事をしてくれたとおもいます。キャストもみんなよく理解して演じてくれていると思いました」と満足げである。
ジェニファーを演じたディラン・ペンはショーンとロビン・ライトの長女。30歳になったばかり。今回は15歳から30歳まで、反抗的なパンクスタイルの高校生から、真っ当な仕事について父を支える娘、そして自分自身の人生を築こうとする若い女性になるまでを演じ切った。「わたしの両親はまず教育を受けることを大事だと考えていてそれを支えてくれたし、高等教育を受けるのが当たり前だという時代に育ってきました。とはいえ、わたしの興味は学校ではなく放課後、特に音楽にあったんですけどね。今回は父が監督で現場のボス。父の現場にいることは今までもあったけれど、今回は特別でした(笑)」
こんなに大きな役は初めてのディランだが、さすが、サラブレッド、1人の女性の成長と変化をしっかりと受け止めて演じているショーンはこの娘が可愛くて仕方ないといった様子でディランを見つめる。「映画の語り手、視点はジェニファーにあります。70〜80年代のミネアポリスで10代を過ごした少女。その雰囲気を音楽などで感じてもらうよう作ったつもり。あの時代に戻る感じを持ってもらえたらいいですね」父と娘の親密で、だからこそ葛藤も大きな関係。ジェニファーとジョン、そしてショーンとディラン。二つの関係に想いを馳せながら見てほしい。
『フラッグ・デイ(原題)』
制作年: | 2021 |
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監督: | |
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