新鋭監督の2作目にしてアカデミー賞ノミネート
大学入試試験が迫る高校3年生のチェンと、街のチンピラのシャオベイ。チェンが通う学校でクラスメイトがいじめを苦に自殺し、彼女が新たないじめのターゲットになってしまう。そんな折、ある事件をきっかけにチェンと出会ったシャオベイが、彼女の用心棒を買って出る。恋に落ちる若い二人――。
2021年の第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた『少年の君』は、中国と香港の合作映画。監督は香港人のデレク・ツァンで、俳優としてキャリアをスタートさせた、まだ41歳の新鋭だ。
中国国内では、大ヒットした原作小説「少年的你,如此美麗」が東野圭吾さんの諸作品のパクリなのでは? と大騒ぎになったらしい。言われてみれば、たしかにどこかで聞いたような展開がちらほら。そうした疑惑がありながらも全中で240億円越えの大ヒットだというのだから、人口14億のインパクトは凄い。
映像もダイナミック。カメラがせわしなく上下左右に振られて、画角が開いたり閉じたり、場所の広さを際立たせるように動き回る。色はじとっと湿っている。舞台になっている重慶はあまりにも急速に発展した街で、その中には成長とか成功みたいなものに置いていかれた人たちも沢山いる。主人公のチェンとシャオベイや、チェンのお母さんもその中で生きている。地面すれすれの場所で生活する人々の頭上に、高い高いビルが差し込む。階級と階層が比例して、縦に何重にも重なっている。
これが共産主義国家?「人生を決める」壮絶な大学受験
重慶では、Uberを呼んでいざGPSが示すポイントに向かっても、車と合流することが出来ないことがあるという話を聞いたことがある。車と自分が同じ座標にいながら、同じ階層にいないということが起こりえる街らしい。この映画を観ていると、重慶の街のレイヤー感が伝わってきて面白い。人物の配置も、縦に並んでいる画が多い。思えば、劇中の死はすべて落下死である。いじめられっ子もいじめっ子も、上から下に落ちて死んだ。
Netflix製作の中国映画『僕らの先にある道』(2018年)でも、発展していく北京という街が観られることが楽しかった。それと同様に『少年の君』でも意外と知られていない現代中国が抱える問題や、人々の営みを観ることが出来るから面白い。日本のセンター試験に当たる中国の全国統一大学入試「高考(ガオカオ)」についての描写も強烈だ。
主人公のチェンは高校3年生で受験生なのです。毎日ずっと勉強している。基本的には勉強しているかいじめられているか、または泣いているかの主人公。その中でも勉強のシーンはとても多い。高考が近づくにつれ、同級生たちや先生の熱狂度が高まっていく様は、ちょっと怖い。みんなで並んで「成功者になるぞ!」「人生を勝ち取るぞ!」とわんわん叫んだりする。さすが科挙(1900年代初頭まで続いた官僚登用試験)の国だなと思う。こんな学生生活、僕は絶対に無理です。
文:松㟢翔平
『少年の君』は2021年7月16日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
『少年の君』
進学校に通う成績優秀な高校3年生のチェン・ニェン。全国統一大学入試(=高考)を控え殺伐とする校内で、ひたすら参考書に向かい息を潜め卒業までの日々をやり過ごしていた。そんな中、同級生の女子生徒がクラスメイトのいじめを苦に、校舎から飛び降り自らの命を絶ってしまう。少女の死体に無遠慮に向けられる生徒たちのスマホのレンズ、その異様な光景に耐えきれなくなったチェン・ニェンは、遺体にそっと自分の上着をかけてやる。しかし、そのことをきっかけに激しいいじめの矛先はチェン・ニェンへと向かうことに。彼女の学費のためと犯罪スレスレの商売に手を出している母親以外に身寄りはなく、頼る者もないチェン・ニェン。同級生たちの悪意が日増しに激しくなる中、下校途中の彼女は集団暴行を受けている少年を目撃し、とっさの判断で彼シャオベイを窮地から救う。辛く孤独な日々を送る優等生の少女と、ストリートに生きるしかなかった不良少年。二人の孤独な魂は、いつしか互いに引き合ってゆくのだが……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
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2021年7月16日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか全国公開