聖女か魔女か。17世紀に宗教裁判にかけられた修道女ベネデッタの“真実”とは
17世紀に実在した修道女ベネデッタ。聖女か魔女かと宗教裁判にかけられた彼女の人生を描く映画『ベネデッタ(原題)』がカンヌ映画祭コンペティションに登場。監督ポール・ヴァーホーヴェンとキャストによる記者会見が行われた。
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— Festival de Cannes (@Festival_Cannes) July 10, 2021
ヴァーホーヴェンといえば、その過激な暴力描写・性表現で知られる監督。そのヴァーホーヴェンが“聖女”の物語を描くとは、ミスマッチも甚だしい、と首を傾げたのだが、映画を観ればなるほどそういうことだったのかと合点がいく。ベネデッタが宗教裁判にかけられた理由は同じ修道院の尼僧と同性愛関係を持ったからなのだ。
À quel film associez-vous Paul Verhoeven ?#Benedetta, le film choc du @Festival_Cannes réalisé par #PaulVerhoeven est à retrouver dès maintenant en salles !
— Pathé Films (@PatheFilms) July 11, 2021
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ヴァーホーヴェンはベネデッタの出会いから語り始めた。「原作は『シスター・ベネデッタ セイント&レズビアン』という本。これはアカデミックな本なのだけれど、それを元に物語として脚色していった。1625年の宗教裁判の記録を調査した原作によれば、聖女とよばれた修道院の尼僧ベネデッタが同僚と性的関係を持ったというんだね。17世紀当時禁止されていたレズビアンが実際に存在したということ、それも修道院の中に。まずそこに興味を引かれた。現代の視点を持ち込み、その違いに焦点を当てて宗教裁判まで追いかけて脚色すれば面白いラブストーリーになるのではないかと考えた。ラブストーリーだけでなく、宗教や教会の内部、権力争い、人間関係などたくさんの要素を盛り込めるのではないかとね。アカデミックな本から物語に重きを置いて脚色することで重層的な、現代性のある映画になると思ったんだ」
🎥 Five years after Elle, Paul Verhoeven is back In Competition with #Benedetta or the scandal of a lesbian nun in 17th century Italy played by Virginie Efira. In movie theatres in France starting today. #Cannes2021
— Festival de Cannes (@Festival_Cannes) July 9, 2021
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ベネデッタは地方の貴族の家に生まれ、少女の頃に修道院に入る。熱心な信者でマリアの声を聞いたと言うこともあった。修道院で祈りの最中に倒れかかったマリア像の下敷きになるが傷一つ負わなかったことで奇跡の少女と一目置かれることになり、18歳になった頃には修道女たちのリーダー格になっていた。そこに現れたのが貧しい少女バルトロメア。父の虐待から逃れ修道院に駆け込んだ彼女をベネデッタが面倒を見ることになる。やがてバルトロメアとベネデッタは性的関係をもつようになり…
カンヌ映画祭でヴァーホーヴェンと出演者たちが語る
ベネデッタを演ずるのはヴィルジニー・エフィラ。ヴァーホーヴェン監督の『エル ELLE』(2016年)にも出演した女優であり脚本家でもある。バルトロメアを演じたダフネ・パタキアはテレビでも活躍する新進女優。2人の脱ぎっぷりの良さはさすがヴァーホーヴェンが選んだだけある、という感じだ。
「ベネデッタにはもともと両性具有的なところがあったのだと思います。聖痕が現れ、キリストの花嫁に指名されたというのですが、それは彼女の信念が見せたもので、嘘はついていないと思います。周りの人々を操作しようとしたのではと疑われますが、あまりにも強く信じているので見えてしまったのではないかと思います。キリストが憑依したと言うところもありますが、それはわかりません。ただ非常に強い信念を持った女性だったことはたしかですね」とヴィルジニー。純粋さ、妖艶さ、凶暴性、知性などをうちに秘めたベネデッタ像を見事に作り上げている。
ダフネにとっては初の大役といえるバルトロメア。少女の頃から修道院にいるベネデッタとは違い世の無情にさらされ生き抜いてきた貧しく強い娘である。
「ヴァーホーヴェンの作品と聞いてそれだけで出演を熱望しました。ヌードやセックスシーンはヴァーホーヴェン作品にとっては愛を表現するものです。彼はヌードを見せる目的ではなくそこで起こることに観客が注目するように撮っているのだと思います」とダフネ。ベネデッタを誘惑し快感を教え、やがて強く愛するようになる。嫉妬・疑念・裏切り…愛ゆえに突っ走るダフネには動物的なところがある。
修道院の話なのでキャストのほとんどは女性。その中で修道院長のシャーロット・ランプリングとともにベネデッタの挙動に疑惑を抱くアルフォンソ神父役がオリヴィエ・ラブルダン。登壇キャスト唯一の男性でもある。「アルフォンソはポリティカル・アニマルなんです。権力の亡者。裏切り者でもあるし、ミステリアスな人物でもある。ランプリングの演ずる修道院長が頑なにベネデッタの聖痕出現や彼女が見たというキリストの出現を疑うのに乗じてどうにかベネデッタを引きずり落としたいと思っている。ベネデッタの悪魔的なところを知っている男でもあります。演技的にはランプリングのテンションの高さに常に導かれていましたがね」
ヴァーホーヴェン監督が付け加える。「実際に起こったこと、事実に関しては原作にほとんど書いてある。ベネデッタとバルトロメアの証言は彼女たちにとって“あったこと”を語っている。それに対して審問が行われ、記録されているのだが、それが“真実”であるかは、わからない。私は、そこを、つまり本当に起こったことを可視化して、“真実とは何か”と問いかけたいと思った。現在の世界では“歴史”とは強いものであり勝者から見たものでしかなく“真実”ではない。でも何が起こったかという“事実”は真実なんだ。それを暴きたいと思ったんだ」
反骨の巨匠ポール・バーホーベン監督らしい渾身の歴史大作である。
文:まつかわゆま
ベネデッタ(原題)
17世紀に実在した修道女ベネデッタ。聖女か魔女かと宗教裁判にかけられた彼女の人生を描く。
ベネデッタは地方の貴族の家に生まれ、少女の頃に修道院に入り18歳になった頃には修道女たちのリーダー格になっていた。
父の虐待から逃れ修道院に駆け込んだ貧しい少女バルトロメアをベネデッタが面倒を見ることになり、やがて2人は性的関係をもつように…
制作年: | 2021 |
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