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「生きているものはみんな助ける、犬も猫も!」熱き獣医師・林遣都×中川大志『犬部!』篠原哲雄監督が語る撮影秘話&犬猫愛

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ライター:#BANGER!!! 編集部
「生きているものはみんな助ける、犬も猫も!」熱き獣医師・林遣都×中川大志『犬部!』篠原哲雄監督が語る撮影秘話&犬猫愛
『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

実話×林遣都&中川大志×保護犬猫

ある獣医学生たちの“命を守る”戦いを描いた、林遣都主演、中川大志ら共演の映画『犬部!』が2021年7月22日(木・祝)より公開となる。本作の原案となったのは、東京・杉並区の<ハナ動物病院>で獣医師として日々、動物たちの命を救っている太田快作さんらが学生時代に結成したサークル、「犬部」の活動を記したノンフィクション作品「北里大学獣医学部 犬部!」(片野ゆか著)だ。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

地上波放送のドキュメンタリー番組も大きな話題を呼んだ本作を実写映画化するにあたって、自身も犬猫に特別な思い入れがあるという篠原哲雄監督(『月とキャベツ』[1996年]、『はつ恋』[2000年]ほか)は、どのような信念を持って撮影に挑んだのか。人間とは切っても切り離せない犬や猫たちの“命”について、それを守ろうとする人々の熱く地道な戦いについて、監督の想いを聞いた。

篠原哲雄監督『犬部!』

目を覆う厳しい現実、“そうならない”ために生きた人たち

―本作は“青春映画”としての要素だけでなく、獣医療の現場や犬猫を取り巻く厳しい現実も描かれています。例えば、犬たちが送られてしまう動物愛護センターなどは実際の施設で撮影されたのでしょうか?

そうですね。こだわりということで言えば、主人公の花井颯太や柴崎涼介が最初に仲間となるきっかけが、動物愛護センターに保護をされていた犬を引き取って育てるところから始まっていて。それは実際に、犬や猫が1日に何匹も殺処分されているという現実に対して、「ひどいよな。そんな世界がありえちゃいけないよな」と思っているところからのスタートなんです。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

ですから、そこは颯太のある種の想いの中で、「ここで実際に犬猫たちが処分されているのか……」という、ある種の“現実に対する反発”を描くために、犬たちが施設に閉じ込められていく様子をあえて強調したわけですね。「こういった現実はあってはならない」と描いた部分なので、そういうところは非常にこだわっています。

描かれる側としては、ある意味そういうところは“暗部”ですから、そんなにエグく描いてほしくないという想いもあったとは思います。ただ逆に言うと、そんな現実を想像できるということを糧に、そうならないための行動を描くことに意味があるので、どうしても必要なカットでもあったんですよね。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

―あえてリアルに描こうとしたわけではなく、物語のために必要な前提の要素だったということでしょうか。

リアルということで言えば、(動物愛護センターは)象徴的なカットだとは思いますね。我々が撮影したシーンの先を観客に想像してほしいわけです。それは“あってはならない世界だ”という結論に導くための、イメージを持ってもらう撮り方をしました。

https://www.instagram.com/p/CQlEnueHUGG/

―本作の脚本を担当された山田あかねさんによる『ザ・ノンフィクション』の「花子と先生の18年」の中で太田先生がおっしゃっていた印象的な言葉の数々が、林遣都さん演じる颯太のセリフに活かされている部分がありました。

山田さんは撮影のために太田先生とかなり深く関わられていて、先生の生の言葉を実際に聞いている人ですから、一番それを活かせているんじゃないかと思います。林遣都くんは太田先生と実際に会っていますし、その経験も取り入れていると思いますよ。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

―本作には沢山の動物が登場しますが、手術のシーンがとてもリアルで、ドキュメンタリー作品でも捉えられていた手術映像と遜色がないように感じました。

実際の手術を撮影している部分もあります。やっぱり手術シーンは、嘘をついてはいけない場面じゃないですか。僕たちは取材を通して、実際に先生たちがどのような形でその行為をしているかということを知り、そのうえで颯太や柴崎が手術に関わるシーンで行うべきことを、かなり選別してミニマムに描いたのです。

だから手術シーンはほんの一部、一通りないし二通りの行為くらいしか撮ってはいない。ただ、実際に手元を映すカットは先生に吹替でやっていただいている部分もあります。それはやはり保護された動物たちが、きちんと獣医師たちの手によって避妊・去勢などの手術をされて次の世界に行くためのステップなので、必要なものとして撮りました。

https://www.instagram.com/p/CQxFvqjF3JI/

林遣都くんと中川大志くんの出演が決まった時点で、大きな前進を感じた

―本作のキャスティングについて聞かせてください。

主人公が林くんに決まったことはとても大きいと思っていますし、相手役に中川くんの名前が出た時も、大いに賛成でした。林くんと中川くんがお互いに共演したがっていたということも大きかったのですが、この二人が決まった時点で非常に大きな前進を感じましたね。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

―そんなお二人が演じる颯太と柴崎の立場は、とにかく動物の命を守りたい「医師(保護)側」と、時には命を選別しなくてならない「行政(殺処分)側」へと別れていきます。その対立は、彼らが自己矛盾やジレンマと折り合いをつけていく心理描写のようにも感じました。そんな二人を描くうえで、いちばん留意した部分、見せたかったポイントはどこでしょうか?

生き物の命を守りたい、1匹も殺したくないんだという颯太の考え方も分かるけれど、そういうこと(殺処分)も経て獣医師にならなきゃいけないんだ、という柴崎の言い分もある。彼は、その世界を行政の側から変えていきたいという思いがあるわけです。「こっち側に手を染めるけれど、俺は世界を変えていくんだ」という柴崎と、その世界には踏み込まずに「現実に苦しんでいる動物たちを救うんだ」という颯太。一見、対立はするんですが、やがて必ず同じ世界を目指すことになることをお互いに分かってもいるので、根底は一緒なんだと思います。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

確かに二人は対立するけれども、同じ世界を目指しているがゆえに“対決”をしている。「一緒に戦おうぜ」「世界を変えていこう」という最初の出会いの場面から、「俺は1匹も殺したくない」という人間と、「それを犠牲にしてでも変えなければいけない」という人間の、「お前、それは無理だろ」「いや、俺は変えていくんだ」という対立。目指す世界は一緒だけど道は分かれていく。それは俳優たち自身も理解したうえで、お互い最善のぶつかり合いをしていたと思っています。これを相手に問いかけるのは、どのタイミングで、どのような口調で言ったらいいのか? という部分が芝居にも反映されますから。

そこは林くんも中川くんも「リアルなものとして捉えたい」と思ってくれていたので、僕も二人と議論して現場で決めていったりしたんです。“生き方の相違”を話す場面は僕にとっても重要な場面でしたが、俳優たちのスタンスそのものも、そこに現れてくれたんだと思います。二人とも本気でその役に見えるように、どう自分をその役に導いていくのかっていう、俳優自身の葛藤がすごく現れている部分じゃないかなと思います。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

動物の生き死にに苦しむのは、人間としての正しい道

―こういった物語の中で、悪者にされがちな行政側をしっかり描くことは、ある意味フェアな部分でもあると思いました。

そうですね。そこは獣医師と相対する立場として、でも行政としては処分せざるを得ないという、苦しい立場もあるわけです。でもそこに関わる方々は皆さん、殺処分を減らしたいとお考えになっている。一方で、そう出来ない現実もあったと窺い知るわけで。その苦渋を柴崎という役は担っていくことになる。

https://www.instagram.com/p/CP2CeyzHTnu/

その苦しみを、あえて「これはもう仕方がないんだ」と割り切らざるを得ない立場の人にも、僕たちは取材でお会いしました。でもそこで苦しむのはある意味、人間としての、一見弱いけれどもある意味で正しい道じゃないかと。だから颯太という人が、その苦しみを分かっているがゆえに葛藤する、というドラマにしているつもりです。これは結構、重要なことじゃないかと思っているんです。割り切れない人だからこそできる話というか。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

―柴崎の存在は、我々が行政に対して求める希望的な部分でもあると思います。その“象徴”という意味では、ある理由で飼う保護犬を決める川瀬美香(演:田辺桃子)の存在も、飼い主に対する希望が込められているように感じました。

動物を飼ったことがある人は誰しも、犬や猫が死んでしまったりとか、最後に看取れなかったりしたことに後悔を抱いていることが多いと思うんです。獣医師たちの対立とは別に、そういう人たちに一歩を踏み出すための光を与えるのも獣医師の仕事なんだということを、この映画の中で描いているわけです。そういった視点からの苦しみや悲しみも、獣医師たちは“共有”できるということですよね。我々はそれを観客に押し付けるのではなく、そういうことも一つの事象としてあるんだ、という風に描きたかったんです。

篠原哲雄監督『犬部!』

生き様や友情を描けば、しっかり“エンタメ”にもなる

―経済面や現実的な問題はあるにせよ、まず動物保護は「命を助ける」という大前提がないと成立しない活動です。その“命に対する価値観の相違”という部分に対し、入り口として広く問題提起できる映画が本作だと思いました。そういった要素を“エンターテインメント”に落とし込むうえで、いちばん難しかった/苦心した部分を教えて下さい。

台本の段階から、エンターテインメント作品にするためにはどうすべきかを考えていました。命の選択に対し真面目に取り組む学生がいる、考え方の相違で葛藤が生まれる設定は一見エンターテイメント要素から離れていると捉えられがちですが、そこをきちんと議論しお互いが納得していく中で生まれる友情は、とても人の心に何かを問いかけることだ思います。それがエンタメの要素を欠いているのかどうか、十分見応えを感じる人がいると僕は信じたい。その上で時には息抜きも必要であろうと思うので、会話の中にちょっとした笑いや癒しの部分を含めていく。その匙加減こそがエンタメの度合いを決めていくのかと思っていました。そういう意味では、犬猫の登場もエンタメ的な要素を担ってくれているとも思います。

ドラマの太い骨子は、「とにかく一匹も不幸にしたくないんだよ」という強い想いを持っている一人の男の“ロマン”というか、“夢”というか。彼の世界に対する視座を強く描くことで、反発するものを認めながらも、「でも俺はちゃんと自分の道を行くぞ、お前も行け」と。なかば本気でそう言いながらも、でも二人は友達ですから、「いいよ、お前はお前でやれよ。頑固なところは昔から同じだな」って。つまり、ある種の“友情”を描くことがエンタメになると思ったんですよね。

https://www.instagram.com/p/COyz2mkHZ_r/

―ああ、なるほど!

単なる生き方の違いだけじゃなく、生き方の違いを分かってあげられる友情の話。これが、エンタメとして一つ引き上げるポイントになればいいのかなと思っていました。これは獣医師の世界に限らず、万人に共感できるポイントでもある。なおかつ群像劇として、佐備川よしみ(演:大原櫻子)や秋田智彦(演:浅香航大)など、それぞれの生き方も提示している。彼女/彼らのささやかな“気づき”を描くことも、世界観の広がりに繋がればという思いでした。若者たちそれぞれが、苦しみ葛藤しながら一つの世界を作り上げることに、この世界のエンタメ性を感じてくれればいいのかなとは思いました。

『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

―本作を観て、犬や猫を飼いたくなる方もいるかと思いますし、動物に関わる仕事に就きたいと考える方もいるかもしれません。そんな皆さんにメッセージをお願いします。

僕は最初、どこか少し“犬猫モノ”に対する偏見があったんです。「なんだ、犬映画か」みたいな。感動を押し付けるような傾向が多いからですかね、僕の知人にも「篠原、次は“犬”かぁ?」なんて言う奴もいるんですよ(笑)。だけどそういう偏見はなしに、まっさらな気持ちで観てみてほしい。犬や猫は人類と共存していて、これはこれで一つの世界なんだなということを、僕はこの映画を通して改めて気づいたんですよね。彼らも人間と一緒に暮らしていて、我々の生活の一部なんだと。

だから“犬猫モノ”に対する偏見を持っている方には、その考え方を改めてくださいと言いたいところもちょっとある(笑)。自分自身にそういうところがあったもんですから、反省も含めて「もうちょっと心を広く持っていきましょうよ」と。結果的には色んな要素が絡まって、犬猫に関わる人間たちを通して犬猫を描く、という形になってくれたので良かったですね。

篠原哲雄監督『犬部!』

『犬部!』は2021年7月22日(木・祝)より全国公開

 

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『犬部!』

青森県十和田市に、一人の変わり者がいた。花井颯太22歳、獣医学部の大学生。子どもの頃から大の犬好きで、一人暮らしのアパートには保護動物がぎっしり。周りからは変人扱いされても、目の前の命を救いたいという一途な想いで保護活動を続けていた。

ある日颯太は、心を閉ざした一匹の実験犬を救ったことから、ひとつでも多くの命を救うため、動物保護活動をサークルにすることを思いつき「犬部」を設立。颯太と同じく犬好きの同級生・柴崎涼介らが仲間となり動物まみれの青春を駆け抜け、それぞれの夢に向かって羽ばたいていった。颯太はひとつでも多くの命を救うため動物病院へ、そして柴崎は動物の不幸な処分を減らすため動物愛護センターへ――。

「犬部」から16年後。獣医師となっても一途に保護活動を続けていた颯太が逮捕されたという報道をうけて、開業医として、研究者として、動物愛護センター所長として、それぞれの想いで16年間動物と向き合ってきたメンバーたちが再集結するが、そこに柴崎だけがいなかった……。

制作年: 2021
監督:
脚本:
出演: