教師志望で元ボクサー!? リーアム・ニーソンという男
どんな映画作品でも沈鬱な表情で重々しく歴史的偉人やリーダー、時には空想の伝説の動物の声まで演じることができる男。さらに男は無表情のままハードなアクション映画で、家族を危機にさらした犯罪者たちを確かな技術と身体能力で確実にしとめていく……。間違いなく大物俳優的存在なのに、今一つその実像が見えてこない、それがリーアム・ニーソンという存在である。
サム・ライミ監督の『ダークマン』で注目俳優に
元々彼は役者志望ではなく、教師になりたかったという。生きるためにいろいろな仕事をし、フォークリフトやトラックなどに乗り運搬業に携わっていたこともある。元ボクサーという経歴も身体的アクションを現在でも可能にさせる理由なのかもしれない。190cm越えのリーアムだが、『プリンセス・ブライド・ストーリー』(1987年)では巨人役のオーディションを受け、監督のロブ・ライナーに「小さすぎる!」と言われ落選。「今までそんなこと言われたことない!」と憤然としたというが、その役を勝ち取ったのは巨人プロレスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントだったそうで、それほどの恵まれた体格だということだろう。
アーサー王の伝説を描いたアクション大作『エクスカリバー』(1981年)等に出た後はTVドラマに活躍の場を移したのち、『ダークマン』(1990年)でサム・ライミと組んでダークヒーローの元祖的キャラクターを演じて注目された。異形に変じ悲しみを抱え戦うダークマンに、彼の硬質な表情は仮面のヒーロー的ミステリアス要素を付加。ヘリを用いたハードなアクションシーンは後のライミの『スパイダーマン』(2002年)も想起させる、初期リーアム映画として一見の価値ある作品だ。
スピルバーグ監督『シンドラーのリスト』でアカデミー賞ノミネート
そして彼の名を世界に広めたのは、なんといってもスティーヴン・スピルバーグの『シンドラーのリスト』(1993年)である。第二次世界大戦中に、ナチス党員として協力者の振りをしながら多くのユダヤ人の命を救ったオスカー・シンドラーの実話をベースにしている。この映画のクライマックスにして最大の見所はシンドラーの秘めていた思いが爆発するシーンだが、この役はリーアムの役者力、顔力なしではここまで感動的にはならなかっただろう。「何を考えているのかこの男は?」と全編で思わせてきたからこそのシーンだ。実は、スピルバーグがシンドラー役にリーアムを起用したのは『嵐の中で輝いて』(1992年)のナチ将校役で目を付けたからだそうで、スピルバーグの推眼にも驚くが、リーアム自身の演技の幅の広さにも感心させられる。
母国アイルランドへの想い
そんなリーアムの個人的な想いが結実したのが『マイケル・コリンズ』(1996年)だ。アイルランドの独立運動を牽引したコリンズの生涯を、リーアム主演、同じくアイルランド出身のニール・ジョーダンが監督した作品。大国イギリスに小国が対抗するために、ゲリラ戦や暗殺なども用いつつ、やがて一国の代表として建国の情熱を燃やす男を演じているが、元々彼もアイルランド紛争が盛んな頃に生まれ育ち、IRAの革命家たちを見て育った。教育者を志したのもそういった社会情勢の影響も大きかった。そのためか、かなり他の作品と比べ彼の情熱的演技がほとばしっている作品であると言える。
ハリウッドで世界的なスターになった後も、母国アイルランドへのリーアムの関わりは絶えておらず、カトリック国アイルランドの全面的中絶禁止法に対し、女性の権利のために合法化しようとする運動の熱心なサポーターとしても知られている。
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』ほか超大作に出演
この後、リーアムは世界一有名なSFシリーズに出演する。それが『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)である。ジェダイ(クワイ=ガン・ジン)を演じたリーアムは、まだ熱くなりやすいパダワン時代のオビ・ワンと対比するように、落ち着いた実にジェダイっぽい役として決まっている。また同じマスター・ヨーダに教わった立場として、アナキン・スカイウォーカーをも教え導く彼と、ダークサイドに墜ちたドゥークー伯爵との対比も見事に利いて、サーガの一要素を形成。実はリーアムにとって、『エピソード1』はとても出たい映画だったらしく、出演の話が来たときには脚本も読まずにOKしたほどであったそうだ。
そして『ナルニア国物語 ライオンと魔女』(2005年)のライオン王、アスランの声の役での出演など、威厳のある空想的なキャラの役も演じている。これだけ多種多様な役を演じているリーアムだが、他にも『ゴールデンアイ』(1995)からピアース・ブロスナンに交代した際、ジェームズ・ボンド役の候補にも入っていたそうだ。もし実現していたら、後のリベンジアクションもなかったのではないか…と、映画業界の「もしも」につい思いを馳せてしまう。
なぜ老いてなおジャンル映画に出演し続けるのか?
]そしてこの時期以降から、主演最新作『ファイナル・プラン』に繋がっていく、『96時間』(2008年)などの「リベンジ・アクション期」がやってくる。妻子が危険にさらされて、それを自らの手で単身すくおうとしたり、危害を加えるものたちをボコりまくるアクション映画に出始めるのである。以降も『96時間』はシリーズ化し、『フライト・ゲーム』(2014年)など現在まで多数のリベンジアクションに出演し続けている。
キャリア的にも間違いなく大物俳優の彼が、何故? と疑問に思うところだが、そこには愛妻、ナターシャ・リチャードソンを2009年に亡くしていることが大きく関係している。しかもリーアムは撮影中だった。妻の死に向き合えず一晩にワインを2、3本空ける日が続いたそうだが、このままではダメだと立ち直り、意志で酒を断った。この経験はアル中の探偵、マット・スカダーを主人公にしたハードボイルド小説の映画化『誘拐の掟』(2014年)などに活かされている。
新作『ファイナル・プラン』は 期待どおりの展開に一捻り
ハリウッドで求められるマッチョなイメージとは逆に心理学を専攻するなどインテリな実像とのギャップを持っている、アーノルド・シュワルツェネッガーが『トータル・リコール』(1990年)や『シックス・デイ』(2000年)などの自己の存在が不確かになる二重人格的なモチーフを描いた映画を作ったように、リーアムは喪失しかけた家族を自力で取り戻そうとする物語に引きつけられているように見える。まるで実生活では救えなかった妻を映画の世界で救い出し、補填しようとしているかのように。今回の『ファイナル・プラン』も、その一連の映画であることは間違いない。
『ファイナル・プラン』は今までのリベンジアクションと比べると、守る相手が従来の妻子ではなく、恋人である。愛を育みつつある、家族未満の相手であることは新しい面だ。さらにストーリーにも一捻りある。捕まったことのない大泥棒が、出会った運命の女性との未来のために金を返却、罪を償って堅気になろうとするという、今まであまり見たことのない展開だ。もちろん、その巨額の金を巡って蠢く悪党と対決することになるのはみなさんご期待の通りだ。
もうすぐ70歳になるリーアム。普通の役者であれば老境に差し掛かった役など演じるのかもしれないが、ここに来てさらに「未来を見据えている」役を演じられる。「アクション映画はそろそろ引退」などと公言している彼だが、本作で見せるバイタリティがあるなら、まだまだ活躍の幅を広げかねない。間違いなく「リーアム健在」を伺わせる作品である。
文:多田遠志
Presented by ハピネットファントム・スタジオ
『ファイナル・プラン』は2021年7月16日(金)より全国公開
『ファイナル・プラン』
カーターは全米のあらゆる金庫を爆破するスゴ腕の銀行強盗だったが、偶然に出会った女性アニーと恋に落ち、過去を捨て新たな一歩を踏み出したいと願う。
彼はすべての罪を告白するべくFBIに出頭するが、2人の捜査官はカーターの盗んできた金を横領し、彼もアニーも危険に晒される。
「あとは俺の方法でやらせてもらう」カーターは愛のため、すべてにケリをつけるため、持てるすべての火薬に火を放つ最後の復讐計画=ファイナル・プランに挑む!
制作年: | 2020 |
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監督: | |
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2021年7月16日(金)より全国公開