妻夫木聡が明かす『唐人街探偵』舞台裏
中国発の大ヒット映画シリーズ『唐人街探偵』。推理力はからきしだがケンカは強い相棒タン・レン(ワン・バオチャン)と、頭脳明晰な天才探偵チン・フォン(リウ・ハオラン)が、世界を飛び回り難事件を解決する大型娯楽作だ。その第3弾『唐人街探偵 東京MISSION』が、2021年7月9日(金)に日本公開を迎える。
中国では公開初日に約164億円の興行収入を叩き出し、公開4日間で約490億円にまで拡大。まさに桁違いの歴史的ヒットとなったのだが、本作の舞台はなんと日本! 前作に引き続き、妻夫木聡がセレブ探偵の野田に扮するほか、三浦友和、長澤まさみ、染谷将太、鈴木保奈美、浅野忠信といった豪華な面々が集結。そこに、トニー・ジャーほかアジアのビッグネームが続々と加わったお祭り映画だ。
タン・レンとチン・フォン、野田がヤクザの組長・渡辺(三浦)にかけられた殺人容疑を晴らそうとする、というのが本作のストーリー。冤罪を主張する渡辺の依頼を受け、調査を開始した3人は、事件の陰に潜む巨大な陰謀に迫っていく……。
2001年公開の初主演映画『ウォーターボーイズ』から20年。国内の第一線で活躍しながら、海外の作品にも精力的に出演してきた妻夫木に、作品の舞台裏、さらには国内の映画・ドラマ作りの可能性を聞いた。
1,000万円の機材を投入する規模感に圧倒
―妻夫木さんは海外の映画作品にも多数出演していますが、昔からそうした意識は強かったのでしょうか。
昔から海外の映画に対する興味はありましたが、出たい出たいという感じではなかったですね。他の役者に比べてオーディションもあまり受けていませんでした。そんな中で、幸運にも機会をいただけてアジアの作品に出させていただいてきた、という形です。
僕は日本でも海外の作品でもあまり関係なく、惹かれるものがあれば参加したいと思っています。ただ、ホウ・シャオシェン監督(『黒衣の刺客』[2015年])からオファーをいただいたときは、さすがに「えぇ!?」と思いました(笑)。マネージャーに5回ぐらい「ドッキリじゃないか」って聞き直しました。『ウォーターボーイズ』の時から知って下さっていたとご本人から聞いて、本当に嬉しかったです。
https://www.youtube.com/watch?v=-FD1mLjRtBA
『唐人街探偵』は2作品同時にオファーをいただいたのですが、台本がない中でチェン・スーチェン監督がプロット(作品の概要をまとめた企画書)を送ってくださって、「日本に行くので、ぜひ会いたい」とも言ってくれました。当初は「日本を変に描くものだったらいやだな」という不安もあったのですが、監督とお話しして「映画でアジアをひとつにしたいんだ」という熱い想いを聞き、「ぜひ一緒にやらせてください」と言いました。そうした“出会い”があれば、積極的に参加していきたいですね。
―多言語が飛び交う作品ですが、脚本はどういった形式で書かれていたのでしょうか。
まず中国語の台本が来て、その後に日本語に翻訳したものを用意していただきました。コミカルなシリーズなので、なるべく作品の持っている“におい”を残して翻訳してほしい、ということは伝えましたね。前作も同じ形式だったのですが、そのときは雰囲気やにおいまでは翻訳できていなかった気がしていたので、そこを意識して翻訳してもらえたら嬉しいと一番お願いしていました。
脚本に関して言うと、複数の脚本家を用意して全員に一斉に書いてもらって、良い部分をチョイスしていくハリウッドスタイルを採用していたんです。だから出来上がるまで、どういう話になるかはわからなくて。当初は野田と兄弟の話と聞いていたけど別のアイデアが採用されて、話がどんどん膨らんでいった印象ですね。
あと面白かったのは、翻訳機の存在。ちょっと「ドラえもん」的な、翻訳機をつければ全員母国語を話していても通じるという設定じゃないですか。脚本を読んでいるときは「これ、大丈夫かな」と思っていたのですが、出来上がったものを観たら、ちゃんと“映画の嘘”として成立していましたね。何より勢いや熱量があって、そうした細かいところは気にならなくなる。それが印象的でした。
―確かに、熱量の高さが小気味よかったです。勢いで“持っていかれる”感がありますね。
熱量においては、様々な部分で感じましたね。本作に関しては、監督が好きなものを、徹底的に好きなようにやっていました。映画もビジネスですから、やりたいことをやれない現場もありますが、本作においては勢いと熱量で叶えてしまう。渋谷で撮影ができないとなったら「じゃあ作ろう」といって栃木県の足利市に巨大なセットを創り上げて、撮影が終わったら「あとはどうぞ」ってそのまま日本に置いて帰って(笑)。
僕が望遠鏡で観ているシーンも、撮影のためだけに1,000万円くらいする撮影用ドローンをわざわざ日本まで持ってきたり、名古屋で撮影したシーンはプログラミングでカメラが一切ブレずにピタッと止まるアーム付きの機材を使っていました。あんなの見たことがなかったし、とにかく「やりたいことをやる」ためには一切妥協していなかったですね。
お客さんの熱量もすさまじくて、初日で164億円の興収ですよ。日本だったら歴代のトップ15に入ってしまう(笑)。規模が違い過ぎて、「『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)超えです!」と言われても全然実感がわかない。漫画の世界みたいですよね(笑)。
トニー・ジャーとコスプレ姿で仲良く記念撮影
―妻夫木さんが演じた野田は、衣装が鮮烈に記憶に残ります。何かアイデアを出されたのでしょうか。
いや、僕は一切言っていないです!(笑)。僕が何か言っていたなら、もうちょっとシンプルにしていました(笑)。前作は時間がなくてニューヨークで衣装合わせをしてから撮影に臨んだのですが、一度日本に戻るときに「東京で良い衣装を探したり、作ってくれないか。お金はこっちで持つから」と言われて、僕が懇意にしているスタイリストの宇都宮いく子さんに作っていただいたものを持っていって着用したんですよ。
ただ、衣装担当の方はきっと「自分が担当なのに、衣装を作らせてしまった」とずっと気にしていたんでしょうね。だから本作では、めちゃくちゃ派手になっていた(笑)。しかも全部手作りで、撮影で使う用に、ひとつのデザインに対して何着も同じものがあるんです。作った結果、使っていないものもあるので、そういった意味でもすごく情熱を感じましたし、おそらく今回の出演者の中で誰よりも僕の衣装にお金がかかっているので、「恥ずかしい」とは口が裂けても言えなかったですね。ただ、あれを着ているときに週刊誌に撮られたのは流石にちょっと恥ずかしかった……(笑)。
―そんなことがあったのですね(笑)。劇中では「聖闘士星矢」のコスプレも披露しています。
あれだけのために(スタイリストの)伊賀大介さんにオファーしてますからね……(笑)。でも伊賀さんが完璧に作ってくれましたし、映画じゃないと絶対に経験できないことだから楽しかったです。
ただ、トニー・ジャーがなんで「ちびまる子ちゃん」なの? とは思いました(笑)。衣装だけだと、幼稚園児の格好をしているように見えてしまって(笑)。面白くって、撮影の合間に二人で一緒に写真を撮りました。
https://www.instagram.com/p/CLTSsiLMFpE/
―そういったエピソードにもあるように、アジアの俳優が集結する本作ですが、演技の面ではいかがでしたか?
話す言葉は違いますが、芝居をすることには変わりがない。ハ・ジョンウと共演した『ノーボーイズ,ノークライ』(2009年)のときにも思ったのですが、国境ってあまり関係がないんだなと感じました。映画にはもともと“国境を越えて人間を知る”要素があるし、映画でひとつになることをそれぞれの俳優がすごく考えて、お互いに良い芝居ができた感覚があります。
原点にある“ものづくりの情熱”を忘れてはならない
―妻夫木さんは国内の映画やドラマの可能性において、いま現在どのように感じていらっしゃいますか?
可能性においては、ずっと変わらずあると思います。それをどう使うか? というのは、みんな次第なんじゃないかな。ただ、今回の映画でもそうですが「やりたいものをやる」には絶対に勝てないと思います。
妥協したりルールを設けたりすると、作品ってどんどん悪く削られていってしまうんですよね。そして「本当にやりたかったことって何だったっけ……」となってしまう。原点回帰といいますか、自分たちがやりたいこと、やるべきことを常に念頭に置いて何事にも取り組んでいくのが、やっぱり大事なのかなと思っています。
―国内の映画の流れだと、ゼロ年代に一気に表現の幅が広がってきた印象があります。その中で妻夫木さんはミニシアター系、シネコン系問わず多種多様な作品に出演されてきましたが、この20年の変遷をどう見ていますか?
僕がこの世界に入ったときって、日本映画はあまりヒットしているとは言えない時代だったんです。『ウォーターボーイズ』だって当時はヒット作と言われましたが、数字的には10億円に届いていない。市場として、いまほど成熟していなかったんですよね。そうした予算感の中で、監督も僕たち役者も、自分たちがやれることの精いっぱいをぶつけていました。
テレビドラマにおいては、僕らの時代の少し前はトレンディドラマが特に強かった。木村拓哉さんがドラマの中で着ている服や髪形を真似したいという視聴者が出てきたり、“影響を与えるもの”だったのですが、昨今は若者に合わせた作品を作るようになってきましたよね。
これはあるプロデューサーさんがおっしゃっていたことなのですが、「昔の映画は観客を“教育”していたけれど、いまは観客に合わせて作るようになったから寂しい」と。確かに僕たちは映画から学ぶことも多かったし、『ウォーターボーイズ』もそうだけど、ダメな奴がちょっとしたことを成し遂げることで、「頑張れば成功できる」と夢を与える作品が多かったような気がするんですよね。そういった“這い上がっていく精神”は日本人の気質にすごく合っていたように思うし、時代を物語っていたようには思います。
じゃあいまの時代は何か、と言われたら僕はまだ答えが見つからないのですが、「いまやりたいこと、やるべきことは何か?」と向き合うべきだとは感じています。視聴率や興収もすごく大事だけれど、その前に僕たちは“ものづくりの情熱”を絶対に忘れてはいけない。それは、強く思っています。
取材・文:SYO
撮影:落合由夏
ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト:TAKAFUMI KAWASAKI (MILD)
『唐人街探偵 東京MISSION』は2021年7月9日(金)より全国公開
『唐人街探偵 東京MISSION』
国際的に事件を解決してきたチャイナタウンの探偵コンビ、タン・レンとチン・フォンは、日本の探偵・野田から難事件解決の協力を依頼され、東京に飛ぶ。
今回のミッションは、東南アジアのマフィアの会長の密室殺人事件で、犯人として起訴されたヤクザの組長・渡辺の冤罪証明。タイの探偵で元刑事のジャック・ジャーも参加し、解決を試みるが、殺された会長の秘書である小林が何者かに誘拐される事件が発生。
そこに事件解決率100%を誇るエリート警視正・田中、謎の指名手配犯・村田も絡み、事件は複雑化。
さらに、探偵専用アプリ「CRIMASTER(クライマスター)」の事件解決率世界ランキングに載る探偵たちが、このニュースを聞いて東京に集結。世界探偵ランク1位で正体不明の「Q」の登場により、さらなる混乱が巻き起こる。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年7月9日(金)より全国公開