吹替えで紡ぐ、クリス・プラットの新たな表情
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ(2014年~、以下『GotG』)や『ジュラシック・ワールド』シリーズ(2015年~)でおなじみ、クリス・プラットが主演・製作総指揮を務めるSFアクション大作『トゥモロー・ウォー』が、2021年7月2日(金)よりAmazon Prime Videoで独占配信される。
現代のある日、2051年の人々が突如として現れ、「30年後に人類は滅亡する」というメッセージを告げた。未曾有の危機を救うため、現代の兵士や民間人たちも凶暴なエイリアンとの戦いに送り込まれていく。愛する妻・娘と暮らす高校教師のダン・フォレスターも、その一員として選ばれた一人だった。
壮大なスケールとイマジネーション、そして胸を打つドラマが大きな魅力の本作では、日本語吹替版にて、ダン役クリス・プラットの吹替えを山寺宏一が担当。『GotG』シリーズに続いての登板に対する思い、作品のポイント、そして日本語吹替版へのこだわりを、時にジョークを交えつつ、じっくりと語っていただいた。
「映画史に残る一作になるぞ、と思いました」
―まずはオファーがあった時の感想からお聞かせください。
クリス・プラット主演ということで、ものすごくうれしかったですね。お話をいただいた時は、まだ作品の内容がわからなかったので、まずはそういう感想でした。Amazonさんが作る超大作で、しかも主演がクリス・プラット。僕はクリスが大好きですから。
―その後、実際に作品をご覧になった印象はいかがでしたか?
人類の危機を描いたハリウッド作品は、今までにもたくさんありますよね。僕が関わらせていただいた作品もありますが、映画史に残るものもあります。率直に言うと、「この映画は確実にその中に入るだろうな」と思いました。映画史に残る一作になるぞ、と。最新の技術で作られているし、クリス・プラットも他の役者さんも、とっても魅力的な方ばかり。ぜひ期待していただきたいと思います。
―『GotG』に続いてクリス・プラットの吹替えを担当されて、新しい発見や、今回はここが違うぞ、とお気づきになった点はありましたか?
作品がまったく違うので比べることはできないんですが、両方おもしろい作品ですし、今回もクリス・プラットという俳優の魅力を感じました。未来へ行くとか、エイリアンが出てくるとか、この映画にもSF的な要素はありますが、(主人公の)ダンは現代で普通に暮らしている男。戦争体験があり、夢を叶えるために頑張っていて、学校の先生で、娘と妻がいるという設定ですからね。
『GotG』でも(クリス演じるスター・ロードには)母親との別れがあり、父親とのとんでもない関係があり(笑)、親子の絆が描かれていましたが、今回はより人間味のある人物なので、そこが大きな違いです。クリスはそういうお芝居も非常に魅力的ですし、彼が演じると軽やかさとユーモアにあふれる部分があって、二枚目のマッチョなカッコ良さとは違う雰囲気が出ますよね。とってもチャーミングなところが強調されている感じもあって、それは共通するところだと思います。
「クリス・プラットの吹替えをずっとやっていきたい」
―人類の危機を描いた映画といえば、山寺さんは『インデペンデンス・デイ』(1996年)でウィル・スミスの吹替を担当されました。当時と現在で、こういった作品の吹替えを担当される上での変化を教えてください。
僕自身はねぇ……歳を取りました(笑)。ただ、見た目は確実に歳を取りましたけど、声優として声で表現できればいいと思っています。『インデペンデンス・デイ』をやった時のウィル・スミスと、今回のクリス・プラット、どちらが年上なのかなぁ(注1)。僕自身が歳を取ったぶん、こういう役をまたやれるのはすごくうれしいです。声優ならではだな、って。歳を重ねて今のウィル・スミスを演じられるのもうれしいですけど、こういう若い世代の、注目されている方の吹替えをやれるのは……いやぁ、うれしいですね。
これからクリス・プラットが歳を取っていくのを、僕はずっとやっていきたいです。難しいでしょうけどね、いろんな方がやっていますから。ハリウッドスターの吹替えをたくさんやらせていただいていますが、僕自身は、一人の役者の占有率はそれほど高くないんです。いろんな声優と分かち合っているというか、奪い合っているというか(笑)。とにかく、感覚だけは歳を取らないようにしたいし、クリス・プラットが演じている時の思いもどこかで共有していたいし、そうでなきゃいけないなと思います。
注1:『トゥモロー・ウォー』ダン・フォレスターは劇中で40歳、『インデペンデンス・デイ』スティーブン・ヒラー大尉は劇中で31歳
―ちなみに山寺さん自身が思う、「自分のクリス・プラットはここが強みだ!」というPRポイントを教えていただけませんか?
いやぁ、そこはもう観ていただいて(笑)。自分で言うと「そうでもねえな」って言われた時のショックがデカいので。それに、演出のせいかもしれないしね、「演出がやれって言ったからやったのに」みたいな(笑)。本当に、観て判断していただくしかないですね。クリス・プラットには他にもいい声優や、声優じゃなくてもピッタリの人がいるかもしれませんから。『ジュラシック・ワールド』とかね、他の方がやられたのも観ていますよ。
今、クリス・プラットの吹替えは誰がいいのかって、業界中が見ている時だと思うんです。そこで「この役者にはこの人しかいない!」ってなれたらいいですね。僕にもトム・クルーズをよくやっていた頃がありましたけど、今では森川(智之)くんが全部やってます。それはもう納得ですよ、「確かに合ってんな」って(笑)。だからこそ一作一作で説得力を上げていくしかないので、毎回が勝負です。
―個人的には、山寺さんのクリス・プラットが歳を重ねていくのをずっと観ていきたいな、という気持ちです。
そういうお声が大事なんです! 是非そういうことを言ってくださると……すみません、ここで営業に入っちゃって(笑)。だけど、皆さんに心からそう思っていただけるように、一本一本がオーディションだと思って頑張っています。それが楽しいところでもあって、この映画のようなエンターテインメントに携わることができる。これだけ丁寧に作られた、面白い作品に携われたということだけでもうれしいですよ。どうやって撮ったんだろうとか、仕上げるのは大変だっただろうなとか、そういうことも考えますね。
「吹替えであることを忘れて、どっぷりと浸ってほしい」
―山寺さんは『GotG』のスター・ロード役、バットマン役など有名なキャラクターの吹替えも多いですが、今回のようなオリジナルの脚本、オリジナルのキャラクターの際と、心構えや演じ方の違いはあるのでしょうか?
あくまでもその作品に向き合いながら演じるので、そういう意識は特にありません。ただし有名なキャラクターの場合、「こういう風に演じるものだ」という決まりごとのある作品はありますね。たとえばバットマンにしても、“バットボイス”というものを意識している作品と、そうでない作品があって。それとは別に、日本のオリジナルアニメでも、役の何代目かを受け継がせていただく時には先輩の芝居を意識します。皆さんのイメージと違いすぎてもいけないし、うわべだけモノマネをしても仕方ないので、きちんと感情表現を伴う演技をしながら、皆さんが求めている色を残すというか。
吹替えの場合、基本的にはオリジナルの方がどう演じたか、というところに準ずるものです。今回の『トゥモロー・ウォー』も、オリジナル作品の吹替えとはいえ、クリス・プラットがダンという役を演じていますよね。その上で、僕が吹替えをどう演じるか、ということなんです。
―最後に、日本語吹替版の見どころや、皆さんへのメッセージをお願いします。
僕は基本的に、吹替えであることを意識させないのが一番いいと思っています。しかも、こういう映像の隅々までこだわられた作品で、情報量も多いですし、テンポもいいですから。映像のいろいろなところを見られて、声がスッと入ってくるのが吹替えの良さなので、これが吹替えだってことを忘れて、『トゥモロー・ウォー』にどっぷりと浸かってもらえればと思います。
しかも今回はAmazonの独占配信で、皆さんはご家庭で観るわけですよね。映画館だったら、皆さんも集中しやすいと思うんですよ。だけどコロナ禍の“おうち時間”に、手軽に見られることの良さや楽しみ方を、皆さんはお分かりだと思います。行きたい時にトイレに行けるし、飲み物も取りに行ける。ただし、そのぶん集中が切れやすいかもしれません。だからこそ、誰がどう吹替えをするのかが大きいなと思うんですよね。吹替版を作るスタッフも、僕たち声優もそういう気持ちで、いいものを作ろうという思いでいます。
取材・文:稲垣貴俊
『トゥモロー・ウォー』は2021年7月2日(金)よりAmazon Prime Videoで独占配信
『トゥモロー・ウォー』
タイムトラベラーたちが緊急のメッセージを届けに2051年からやってきた。その内容は今から30年後の未来、人類はエイリアンとの戦争に敗れるというものだった。人類が生き残る唯一の希望は、今、ここにいる兵士や民間人を未来へ送り込み戦いに参加させること。娘のために世界を救うことを決意したダン・フォレスターは、地球の運命を書き換えるため、優秀な科学者と疎遠になっていた父親と結束し戦いに挑む。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |