表現者Fukaseの真髄
SEKAI NO OWARIのFukaseが、殺人鬼役で菅田将暉と“対峙”する――。映画『キャラクター』(2021年6月11日より絶賛上映中)の情報解禁がなされたときの衝撃は、大げさでなく列島を騒がせたといっていい。
それほどにセンセーショナルな“事件”だったわけだが、本編を観た観客はさらに度肝を抜かれたことだろう。演技初挑戦とは思えないFukaseのおぞましいほどに役に入り込んだ怪演に、「殺人鬼に出会って覚醒してしまった」漫画家が乗り移ったような菅田の力演、「20世紀少年」ほか浦沢直樹とのタッグで知られるストーリー共同制作者・長崎尚志による秀逸な脚本、『帝一の國』(2017年)の永井聡によるハイセンスな映像表現の数々……。トップクリエイターたちの個性が見事に混ざり合い、1本の傑作として完成している。日本映画の縦軸で見ても、新たな扉を開く1本といえるだろう。
今回は、公開後のタイミングでFukaseに単独インタビューを実施。ミュージシャンとして、役者として、さらには表現者として……。彼の思考や、クリエイティビティをバックアップする「先生」の存在に迫る。
ファンもトラウマになるほどの怪演を披露
―Fukaseさんにとって、印象に残った『キャラクター』公開後の反響はありますか?
そうですね……。「SEKAI NO OWARI、もう聴けない」ですかね(笑)。
―(笑)。強烈な演技でしたものね……。
それほど怖かったのなら、良かったなと思っています(笑)。
―本作のオファーが来た際、当初は「映画が好きだからこそ、ダメにしたくないから断ろうと思った」そうですね。Fukaseさんにとって大切な映画には、どんなものがありますか?
国内外問わず色々な作品を観るのですが、すごく好きなのは渡辺謙さん主演の『明日の記憶』(2005年)ですね。観終えた後、自分の中に残っていた感情や、役者さんたちの表情などを鮮烈に覚えていますし、自分を形成してくれた映画の1本です。
―本作の出演にあたって1年半もの間、演技のレッスンを経験。初日舞台挨拶の場で小栗旬さんが、Fukaseさんが演技の先生と取り組んだ「幸せな思い出を一個ずつ消していく」というアプローチについて言及されていました。非常に面白いレッスン内容ですね。
そうですね。全く経験がなかったので、本当にゼロから演技を学んでいきました。役作りのうえで、絵を描くこともありましたね。それを永井聡監督が気に入って下さって、劇中で使うために巨大なバージョンを描くことになりました。
―あの絵もインパクトが絶大でしたね。
ちょうどその時期、絵本を出すつもりで家に油絵のセットがあったんです。それで「絵を描く」を役作りに取り入れました。
Fukaseを作った「先生」たち
―2021年6月20日に放送された『情熱大陸』のボイストレーナー・佐藤涼子さんの回で、Fukaseさんは「“先生”というものが苦手」と話していましたが、演技のレッスンに1年半という長期間、通えたのはなぜでしょう?
実は、僕には「先生」が結構いるんですよ。歌、絵、ダンス、英語……。そして今回、演技の先生が加わった感じなんです。ただ、確かにもともと苦手意識はあって、僕にとってちゃんとした「先生」というものは、りょんりょん先生(佐藤涼子氏)から始まったように思います。
それまでは、トレーナーさんに基礎的な発声の仕方を教えていただいていたくらいで、密着してがっつり見ていただくような関係が深いものではありませんでした。色々な方から教わっていたのですが、僕が続かなくて、2週間くらいですぐ行かなくなってしまうことが多かった。続かない駅前留学みたいな感じですね(笑)。
それは、ひとえに自分の中に受け皿がなかったから。どれだけ素晴らしい先生に教わっても、自分に器がないと成長できないんですよね。その続かなかった先生の中に、りょんりょん先生もいたんです。でも、5年半くらい前、ちょうど「Twilight City」(2015年に行われたライブ公演)が終わったころに「もう一度、歌をちゃんと習いたい」と思うようになった。そこから、りょんりょん先生にしっかり教わり始めました。
―なるほど……そうした経緯があったのですね。
はい。ダンスのレッスンも2018年から、3年ほど通っています。僕はもともと楽器を弾きながら歌っていたので、かちっと止まって歌う状況に慣れ過ぎていたんですね。そうするとハンドマイクで歌うときに動きが硬いという悩みがあり、一から練習を始めました。
踊りたいとかダンサーになりたいという気持ちではなく、ステージの上でもう少し表現力を高めたい、そのためには自分の体をもっと自由に扱えるようになりたいというニュアンスですね。ダンスを習得できれば、ショーをもっと盛り上げることができると思ったんです。
そして、絵の先生……というか売れる前からの友だちなのですが、かれこれ10年くらい油絵を教わっていますね。最初はグッズで使う絵を描くために教えてもらっていたのですが、「Fukaseはデッサンなんてやらなくていいから、基本はすっ飛ばして自分が描けるものだけ描いたらいい」という人で、「最初からオリジナリティを出していい」と言ってくれたんです。
「普通は、子どもの頃は自由な絵を描いて、技術を覚えるためにデッサンをこなして、練習を経たうえで今度はそれを壊して新たなオリジナリティを生み出す、という過程を踏むべきだけど、それは大変時間がかかる。壊れたままで行こう」って。ものを見ていないような、子どもみたいな絵でいいという感覚ですね。だから、とにかく自分のスタイルだけをやり続ける形ではありますが。
―「表現の精度を上げるために、専門の人に教えを請う」というスタイルが徹底していますね。その延長線上に、演技のレッスンがあった。
英語の先生もいますよ。英語で歌う時の発音は日常会話に比べて若干柔らかめなのですが、そのやり方を6年前くらいから学んでいます。
ただ、やっぱりりょんりょん先生にちゃんと教わり始めたあのタイミングが大きかったですね。自分の中に受け皿ができてきたから、先生が放り込んでくれたものを自分なりに解釈できるようになりました。
音楽活動の中で身についた「やりきる度胸」
―『キャラクター』でいうと、ご友人の神木隆之介さんも先生といえるのかな? と思いました。「優しい殺人鬼」という彼のアイデアを受けて声を高くしたり、神木さんがFukaseさんの初演技を映像でチェックしてくれたりしたそうですね。
そうですね、「神木隆之介の弟子を名乗らせてくれ」と言ってるくらいですから(笑)。弟子というからには、いつか襲名できるのかな。二代目・神木隆之介を……(笑)。
こういう状況(コロナ禍)なのでなかなか直接は会えないのですが、神木くんに演技を教わった代わりに僕が曲の作り方を教えて、一緒に曲を作ろうよという話はしていますね。
―それは楽しみです! そして、菅田将暉さんからは「役の呼吸」というアプローチを会得したと伺いました。
菅田くんは、目の当たりにするとやっぱりすごいですね。一流の役者さんの芝居を目の前で見て、受け止めるという素晴らしい経験をさせていただきました。
―菅田さんとの対決シーン含め、アクションはもちろん、リアクションのお芝居も素晴らしかったのですが、どのように体得していったのでしょうか。
1年半の間、演技のレッスンに通いましたが、いざ撮影に挑むとなったときに正直緊張してしまって……。それを先生に相談したら、「相手もプロの役者さんだから、流れに身を任せればいいと思う」と言われたんです。その言葉で、菅田さんや高畑(充希)さんが「こう来るだろう」というようなことは、何も考えないでいいかなと思うようになりました。
そもそも会話って、相手がどう来るかはわからないじゃないですか。だから、自分がこういうリアクションを返そうと考えるのではなく、あくまで自然にいる。相手の役者さんがどういう芝居をするかを予想するほうがおこがましい行為な気がして、逆に何も考えませんでしたね。相手がタイミングやニュアンスを変えたらこちらも合わせていましたし、永井監督に「言葉がぽろっとこぼれてしまってもいいですか?」と聞いたら「いいよ」とのことだったので、予定調和にならないようなライブ感は意識していましたね。
―ただ、初めての本格的な演技でそれを達成できてしまうのが凄いです。
でも、音楽でもそういう部分はあるんですよ。たとえばライブ中などに間違えて2番から歌い始めてしまったら、「俺は今日、2番を2回歌いたいと思ってここに来た!」くらいの顔でやりきります。
演奏が終わって、ステージから降りて、客席から完全に見えなくなるまではライブは続いていますし、どれだけミスしようが、イントロが思った通りに始まらなかろうが、それが答えだ! と思ってやる。そうした度胸は、音楽をやっていくうえで身についたのかもしれないですね。だから『キャラクター』の撮影中も、カットがかかるまでは絶対にお芝居を止めない、というのは決めていました。
本当に怖いのは、殺人鬼よりも●●●だった?
―『キャラクター』では後半に、山城(菅田将暉)と両角(Fukase)の鬼気迫る対峙シーンが用意されています。その熱量に圧倒されたのですが、現場で「役が憑依する」といった瞬間はあったのでしょうか。それとも、冷静な感じでしたか?
冷静でしたね。菅田くんを殺したいと思ったことも、幸せそうな家族を殺したいと思ったことも、憎いと思ったこともないです(笑)。ここは、ぜひはっきり太字で書いてほしい! 結構色々なところで「あれは素じゃないか」って言われるんですよ……真に受ける人がいると困っちゃうから(苦笑)。
―他のインタビュー等でFukaseさんは「クリエイター脳に寄り過ぎないようにした」と話されていましたが、その部分とリンクするように思います。のめり込み過ぎないように塩梅に気を配ったといいますか……。
そうですね、すごく楽しくやらせていただきました。監督が「カット、OK!」であればOKだし、僕が「一個前のカットのほうがいいんじゃないですか……?」みたいになったら止めてくれるように、事前に周りのスタッフに頼んでおいたんです。
―あぁ、やっぱり。凄まじい演技を披露しながらも、“役者としての居方”にまで気を配っていたのですね。
あと、よく覚えているのが、菅田くんともみ合うシーンです。本棚にぶつかるところとか床に倒れるところとか、地味に痛いんですよ(笑)。怪我をしないようにクッションは敷かれているのですが、やっぱり衝撃で内臓が揺れるんです。久しぶりに身体にこういった衝撃が走って「大人ってこういうことしちゃいけないな」と思いましたね(笑)。
子どものときは身体が軽いから衝撃も少ないけど、いい大人があんなことしたら内臓が壊れる……と思って、これは正直2回はきついぞと(笑)。菅田くんも当然ながら、全力でぶつかってきますし。本番の撮影では1回目が終わったとき、動けなくなったくらいでした。だからカットがかかって1発OKが出たときには、「やったぁ!」とガッツポーズをしましたね(笑)。
―あのシーンには、そんな舞台裏が……。
包丁で刺すシーンとかは、本気でやらないとアクション部がスッと入ってきて「そんなんじゃこれくらいしか刺さらないですよ」とか言ってきて、なんであなたたちがそういうことを知っているんだって……。本当に怖いのは、両角よりアクション部だと思います(笑)。
創作の要は「自己満足」と「客観性」のバランス
―2021年6月6日に放送された『ボクらの時代』の中で、Fukaseさんが発言された「自分が楽しむのは最後でいい」という言葉が記憶に残っています。表現者として、根幹にある考え方なのでしょうか。
そうですね、やっぱりそう思います。自分の好きなことをやるのってすごく楽しいけど、共有できないのがつまらなくて。自分は「自己満足」という言葉からはほど遠い人間だと思いますね。
たとえば、自分は「Food」(2019年リリース「Eye」に収録)という曲が大好きでミュージックビデオも作ったのですが、ふたを開けてみたら俺しか好きじゃなくて、びっくりしちゃって(笑)。再生回数もあまり伸びなくて、そうすると全然嬉しくないんです。そうか、これが自己満足ってやつか! と思い知りました。
これを止めるのが大人なんじゃないかとも思うけど、だれも止めてくれなかった……。あとから「(アルバム)『Eye』の中でMVを作るなら、絶対あれじゃなかった」と言われましたが、じゃあなんで止まらなかったんだと(苦笑)。でも、そもそも僕が止まるべきだったんでしょうね。
―そうか、試行錯誤の中で考えが研磨されてきた部分もあったのですね。
きっと、両方が必要だと思います。自己満足で先に進んでいくことで芸術性が生まれる瞬間もありますし。ただ「自分が楽しむのは最後でいい」という言葉のように、客観性とのバランス、どう自己満足をコントロールしていくかがすごく大事なんですよね。客観性だけでは「なんだこれは!?」という領域にはたどり着けない。
やっぱり自分だけで、たった一人で突き進まなきゃいけない道もありますし、自己満足と客観性を切り替えながら前に進んでいくんだなと思います。
取材・文:SYO
撮影:川野結李歌
メイク:江口洋樹
スタイリスト:百瀬豪
『キャラクター』は2021年6月11日(金)より絶賛上映中
『キャラクター』
漫画家として売れることを夢見る主人公・山城圭吾。高い画力があるにも関わらず、お人好しすぎる性格ゆえにリアルな悪役キャラクターを描くことができず、万年アシスタント生活を送っていた。ある日、師匠の依頼で「誰が見ても幸せそうな家」のスケッチに出かける山城。住宅街の中に不思議な魅力を感じる一軒家を見つけ、ふとしたことから中に足を踏み入れてしまう。そこで彼が目にしたのは、見るも無残な姿になり果てた4人家族……そして、彼らの前に佇む一人の男。
事件の第一発見者となった山城は、警察の取り調べに対して「犯人の顔は見ていない」と嘘をつく。それどころか、自分だけが知っている犯人を基に殺人鬼の主人公“ダガー”を生み出し、サスペンス漫画「34(さんじゅうし)」を描き始める。
山城に欠けていた本物の【悪】を描いた漫画は異例の大ヒット。山城は売れっ子漫画家となり、恋人の夏美とも結婚。二人は誰が見ても順風満帆の生活を手に入れた。
しかし、まるで漫画「34」で描かれた物語を模したような、4人家族が次々と狙われる事件が続く。刑事の清田俊介は、あまりにも漫画の内容と事件が酷似していることを不審に思い、山城に目をつける。共に事件を追う真壁孝太は、やや暴走しがちな清田を心配しつつも温かく見守るのだった。
そんな中、山城の前に、再びあの男が姿を現す。
「両角って言います。先生が描いたもの、リアルに再現しておきましたから」
交わってしまった二人。山城を待ち受ける“結末”とは?
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |