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無謀な突撃で死屍累々! 愚かな上層部の残酷さ!! イタロ戦争映画『総進撃』が描く、規則が暴走する恐怖

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ライター:#大久保義信
無謀な突撃で死屍累々! 愚かな上層部の残酷さ!! イタロ戦争映画『総進撃』が描く、規則が暴走する恐怖
『総進撃』

イタリア・ネオリアリズモ派が描く戦争

まず読者諸兄姉にお伝えしたいのは、映画『総進撃』(1970年)はその勇壮な邦題とは裏腹に、軍上層部の命令でイタリア兵が死んでいく悲惨な有り様を一種異様なリアリズムで描いた、重い余韻を残す作品であることです。

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昨今の映画のような、血飛沫が飛び手足が千切れ……というブルータルな描写は一切ありません。けれども無謀な突撃を繰り返した挙げ句の死屍累々の無惨さは、主観視点も取り入れた独特の撮影によって、まるで自分が現場にいるかのような生々しさです。このあたりはイタリア・ネオリアリズモ派と呼ばれたフランチェスコ・ロージ監督の面目躍如でしょう。

『総進撃』

原題の『UOMINI CONTRO』は「反乱の男」という意味。つまりは「戦争(または軍上層部/体制)に抗う男」ということです。

『総進撃』

「未回収のイタリア」

『西部戦線異状なし』(1930年)や『スカイエース』(1976年)をはじめ、最近でも『1917 命をかけた伝令』(2019年)などが制作されている第一次世界大戦映画ですが、その多くはドイツと英仏連合軍との地上戦や航空戦を題材としています。

『総進撃』

けれども第一次世界大戦(1914年8月~1918年11月)は、当時のヨーロッパのほとんどの国と民族を巻き込んだ、とてつもない大戦争でした。

『総進撃』

イタリア王国(当時)は、彼らが「未回収のイタリア」と呼んでいた、オーストリア・ハンガリー帝国領内のイタリア人居住地域奪還のためオーストリア(とドイツ)に宣戦します。戦勝国にはなったものの、犠牲者続出の戦線では厭戦気運が蔓延しており、さらに国内では経済が困窮。「勝ったのに何故こんなことに」という国民感情が、1920年代のファシズム勃興につながるのです。

『総進撃』

マシンガン・ウォー

物語は、愛国心に純粋なサッスウ中尉(マーク・フレチェット)、前線の現実を知る古参のオットレンギ中尉(『荒野の用心棒』[1964年]で悪役ラモンを演じたジャン・マリア・ヴォロンテ)、そして意志強固だが無能という、軍人や政治家のみならず会社でも一番危険なタイプの人物、レオーネ将軍(アラン・キュニー)の3人を核に展開します。

『総進撃』

丘陵地帯の高所に陣取ったオーストリア軍機関銃陣地への突撃を命じるレオーネ将軍が無能の極みですが、戦車もなく大量の野砲も持ち込めない当時の山岳戦においては、生身の歩兵による突撃しか策がなかったのも、ある意味事実なのです。その生身の歩兵にとって、敵の陣地前に張り巡らされた鉄条網が突破困難な恐怖の障害物であったかも、ここで描かれる通りです。

『総進撃』

その状況を打開するために1916年に登場したのが「戦車」ですが、劇中の地形では現代の戦車でも突破は難しく、ミサイルや誘導砲爆弾でピンポイント攻撃するしかないでしょう。

史上初の戦車、イギリスのマークⅠ。敵の鉄条網を突破し塹壕を乗り越えるため、こんな形をしている(写真:Public
Domain)

ちなみに劇中に出てくる悪い冗談のような“金属製鎧(ヨロイ)”は実在します! アメリカ陸軍が使用した「ブリュースター・ボディシールド」です。ライフル弾を跳ね返す強度はあったのですが、露出した手足は無防備状態。そしてとにかく重くて(頭部と胸部だけで18kg)匍匐前進はできず、ノロノロと歩くしかないシロモノで実戦では使われなかったようです……。

1917年に参戦したアメリカ陸軍が作った「ブリュースター・ボディアーマー」(写真:Public Domain)

憲兵隊が被っているナポレオン時代のような三角帽も本当です。権威の象徴というのは大事なのです。歩兵も、史実通りにリブ状の弾片デフレクターがついたアドリアン・ヘルメットをちゃんと被っています。

『総進撃』

なお彼らが手にする小銃はカルカノM1891ですが、その改修型のM1938はケネディ大統領暗殺に使われたことで有名。

『総進撃』

脱走は銃殺 命令違反も銃殺

本作では士気が低下した軍隊における、部隊脱走や将校の命令違反が物語の軸のひとつとなっています。

アニメなどの日本のエンタメ作品では脱走しても命令違反しても叱責や罰当番程度ですが、実戦下の本物の軍隊では銃殺です。これは考えてみれば当然で、誰だって戦争は恐いのです。そんななかで「もう嫌だ」と脱走した兵を見逃していたら軍隊は崩壊してしまいます。

『総進撃』

史実のフランス陸軍でも1917年に全軍規模と言えるレベルの反乱が起きています。春季攻勢が5日間で死傷者12万名(!)という犠牲を出して大失敗に終わったためです。フランス軍上層部は事実を真摯に受けとめ、戦術改善を図り将兵を説得し事態を終息させたのですが「反乱は反乱だから」ということで49名の将校が処刑されています。軍隊はキビシイのです。

『総進撃』

『総進撃』でのイタリア軍上層部は事実を見ようともせず、というより己れの能力不足を糊塗するかのように軍規を振りかざして将兵を処断していきます。

『総進撃』

その無責任な姿は、本来の目的を置き去りにして法律や規則が暴走する恐ろしさ、現場に無理を強いる硬直した体制の残酷さを我々に伝え、この映画を今こそ観るべき一本としているのです。

『総進撃』

文:大久保義信

『総進撃』[HDリマスター版]はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年6月放送

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『総進撃』[HDリマスター版]

イタリア軍とオーストリア軍の戦いが凄惨を極める1916年。愛国心に燃えるイタリア軍の若き兵士サッスウは最前線に乗り込むが、オーストリア軍の猛攻撃でフィオール山から敗走。戦争の残虐さを初めて経験し、茫然自失のサッスウ。そこへレオーネ将軍の総進撃命令が下る。

制作年: 1970
監督:
出演: