景気の良すぎるキメ技がウリの格闘ゲーム
「モータルコンバット」(以下「MK」)は1992年にアメリカのゲーム会社<ミッドウェイゲームズ>が開発した2D対戦型格闘ゲームで、人間界と魔界から選ばれた格闘戦士たちが地球の存亡をかけた格闘技大会<モータルコンバット>に出場する……という設定。
プレイヤーは『燃えよドラゴン』(1973年)のブルース・リーなどのカンフー映画の登場人物、ジョン・カーペンター監督作『ゴースト・ハンターズ』(1986年)の敵キャラたち、レイ・ハリーハウゼンのモデルアニメーション映画に登場するクリーチャーなどから影響を受けてデザインされたキャラクターたち、そしてアメリカ人が好きそうなド派手なファッションの忍者ウォーリアーたちを自キャラとして操ることができる。
そんな「MK」が他の格闘ゲームと一線を画す俺ジナリティあふれる点は、対戦相手をスプラッター映画を凌ぐ残酷技で殺せること。この残酷な決め技は“フェイタリティ(究極神拳)”と呼ばれ、ゲーム1作目の時点で「対戦相手の生首を脊髄ごと引っこ抜く」「口から吐いた炎で相手を黒焦げの焼死体にしてしまう」「生きてる相手の心臓を掴み出す」「アッパーカットで相手の首を切断」などの残酷シーンが盛り込まれている。
そんな景気の良すぎる決め技がプレイできるのだから当然、「MK」はちびっ子やチャルイディッシュな感性の大人たちのハートを掴んだ。同時に北米のゲームのレーティングが作られるキッカケにもなってしまった。が、このことは逆に「MK」に箔をつけた。
伝説の1995年版実写映画『モータル・コンバット』
この頃のハリウッドでは、『スーパーマリオ/魔界帝国の女神』(1993年)や『ストリートファイター』(1994年)、『ダブルドラゴン』(1994年)などにより、人気ゲームの映画化がブームになろうとしていた。そうとなれば、アメリカの大人気ゲームである「MK」を映画化しない手はない。というわけで1995年、映画版『バイオハザード』シリーズ(2002~2016年)や『映画 モンスターハンター』(2020年)で知られるポール・W・S・アンダーソン監督による、記念すべき初の映画化『モータル・コンバット』(1995年)が作られた。
しかし……「MK」を映画化するためには、大きな壁があった。ゲームの売りであるフェイタリティをストレートに映像化したらPG-13(13歳未満の鑑賞は保護者の同意が必要)になり、ゲームが大好きなちびっこ観客からの収益が見込めなくなってしまう……。そのため映画は、人間キャラへのフェイタリティを禁止した。
それでも完成した映画は、香港映画『タイガー・コネクション』(1990年)でドニー・イェンと戦ったアクション俳優ロビン・ショウが、主人公リュウ・カンを演じて武術指導も兼任したカンフー映画仕込みのアクションを披露。四本腕のクリーチャー、ゴローのアニマトロクス・スーツを『エイリアンVS. プレデター』シリーズ(2004年~)のクリーチャー・エフェクトで知られ、最近は『ゴジラVSコング』(2021年)のクリーチャーデザインに関わったトム・ウッドラフ・Jrが担当するなど、当時最先端のアクションや特撮技術によって生み出された再現度の高いキャラクターたちが、一度聴いたら頭から離れないテクノサウンドのテーマ曲をバックに格闘を繰り広げる見どころのある作品に仕上がり、本国では大ヒットを記録した。しかし、ゲームの残酷描写を期待していた方々には少々物足りない映画だった……。
その後もゲームの人気は衰えず、1997年には続編『モータルコンバット2』が公開。その翌年からは、映画版の500年前を舞台にしたテレビドラマ『モータルコンバット コンクエスト』(1998年)も放映。いずれの作品も再現度の高いキャラクターで楽しませてくれたが、やっぱり残酷技を披露してくれることはなかった……。
進化していくゲームシリーズに実写化作品は追いつけるのか?
いっぽう、シリーズを重ねるごとにフェイタリティの残酷度が増量していくゲーム版は、ますます人気コンテンツに。2008年にはDCコミックスのキャラクターたちと対戦できるクロスオーバー作品「Mortal Kombat vs. DC Universe」を発表。もちろん、このゲームでは対戦に敗れたバットマンやワンダーウーマンなどのDCキャラクターたちも顔面をぐちゃぐちゃになるまで踏みつけられたり、全身の肉が崩れて骨だけになったりするなど、皆さんが持つDCヒーロー・イメージをサーチ&デストロイするような死に様を披露してくれる。
2011年にメーカーが<Warner Bros. Interactive Entertainment>に変わってリリースされた9作目では、『エルム街の悪夢』シリーズ(1984年ほか)のフレディ・クルーガーがゲストキャラクターとして参戦。同作以降、「MK」にはプレデター、エイリアン、『13日の金曜日』シリーズ(1980年ほか)のジェイソン、『悪魔のいけにえ』シリーズ(1974年ほか)のレザーフェイス、ターミネーター、ロボコップ、ジョン・ランボーなど、皆さんが大好きな映画キャラクターが参戦するようになる。つまり、シルヴェスター・スタローン(ランボー)とアーノルド・シュワルツェネッガー(T-800)による、僕の口からは具体的な説明をする勇気がないくらい凄まじいハードコアな人体破壊描写満載の血まみれバトルという、映画では絶対不可能な奇跡のような対戦をプレイできるんですよ!
このように、ますます人気シリーズとなっていった「MK」。映像版のほうでは『モータル・コンバット:レガシー/レガシーⅡ』(2011~2013年)を発表。キャラクターたちの前日端や外伝チックなストーリーを描いたオムニバス作品である本作で、遂にスコーピオンがサブ・ゼロの生首を脊髄ごと引っこ抜くなどのフェイタリティを実写化!
ちなみに、この作品では今回の映画最新作にも登場するクン・ラオ役を『ダブルドラゴン』の主演や、『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年)の殺し屋ゼロ役で知られるアクション俳優、マーク・ダカスコスが演じている。クン・ラオといえば、つばに鋭い刃が装備された帽子で対戦相手のボディを真っ二つに切断するキャラクターだが、同作ではマーク・ダガスコスが演じているのに肝心の殺人帽子シーンはない、というか、それ以前に格闘シーン自体もなし……。ファンたちの間では、本格的な映画化への期待がますます高まっていった。
ゲームファンも納得の映画『モータルコンバット』ついに完成
そして2021年、本作『モータルコンバット』が公開! プロデューサーを務めたのは『ソウ』シリーズ(2004年~)や『死霊館』シリーズ(2013年~)の生みの親で、『アクアマン』(2018年)の監督であるジェームズ・ワン。つまり、ホラーと現実をフライングしたアクションを得意とする御方。「MK」映画化にはコレ以上ないベストな人選です。
ワンを筆頭とするスタッフたちが今回の映画化で第一目標にしたのは、ゲームに負けないフェイタリティの再現! その結果、作り手の真心がこもった人体破壊描写&大量の血に彩られた、素晴らしい格闘ムービーとなっています。しかし、それだけではありません! ジャッキー・チェンのスタントチーム<成家班>出身のマックス・ファン演じる少林拳の使い手クン・ラオが、ゲーム「モータルコンバット11」から使いはじめた詠春拳をちゃんと使う(もちろん殺人帽子の残酷技もあります!)、リュウ・カン(ルディ・リン)がジャンプしながら自転車を漕ぐように連続蹴りするバイシクル・キックを披露するなど、ゲームの細かい技も完全再現!
ちなみにリュウ・カンは『燃えよドラゴン』のブルース・リーが元ネタのキャラクターで、ゲームでは今でも怪鳥音を発し、ジークンドー・チックなスタイルで戦っています。ブルース・リーといえば、2021年公開予定のMCU映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』の主人公シャン・チーもブルース・リーをモデルに、マーベル・コミックから1973年に誕生したキャラクター。つまり、201年はブルース・リーがモデルとなったキャラクターが2人もスクリーンに登場するわけです。
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先ほどから「ゲームの忠実な映像化」にこだわった原稿を書いていますが、この映画、ゲームを知らない人が観ても充分に楽しめます! 格闘映画ファン、常軌を逸したバトルを観たい方なら、鑑賞料の元が充分とれる作品になっていますよ!
真田広之、浅野忠信ら日本人アクトが大活躍! 再現度もピカイチ!!
そんな本作で何よりも嬉しいのは、キャスティングのこだわり。これまでの映画化/ドラマ化作品とは違い、ちゃんと日本人キャラクターを日本人アクターが演じています。
まず人間界を守り、モータルコンバット出場戦士たちを訓練する雷神・ライデンを演じるのは浅野忠信さん。ライデンといえば頭には笠をかぶり、両眼が光り、和風な衣装をまとった姿がトレードマーク。しかし1995年版『MK』では、当時大スターだったクリストファー・ランバートが演じた際、ロン毛の白髪で白いチャイナ服というランバート自身に寄せたスタイルにアレンジ。ゲームでは常に発光している両眼も、ここ一番の時には光らないシステムになっていました。
以降、映画版『MK2』でジェームズ・レマー、『コンクエスト』でジェフリー・ミークが演じた際も、実写版ライデンはランバート版のスタイルで定番となってしまったんです。しかし、本作の浅野さんは違う! 御本人の希望により、全出演シーンで頭には笠&バキバキに光った両眼をキープオン! という実写版ライデン史上、最もゲームキャラの再現度が高い姿をアピールしている。
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そして、かつては白井流一族の忍者で、ライバルのサブ・ゼロに妻子を殺された怨念を晴らすため地獄から蘇った、スコーピオンことハサシ・ハンゾウを真田広之さんが演じている! 真田さんといえば『ラスト サムライ』(2003年)以来、数々の海外映画で渋い演技を見せてくれてる御方。もちろん近年の出演作はどれも素晴らしいのですが、『忍者武芸帖 百地三太夫』(1980年)や『吼えろ鉄拳』(1981年)、『龍の忍者』(1982年)などのジャパン・アクション・クラブ時代の真田さん主演アクション映画が好きな方たちが観たいのは、荒唐無稽かつド派手なアクション映画で大暴れする真田さんのはず。
そりゃ『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)や『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)でも荒唐無稽なソードファイトを見せてくれましたが、ファンが観たいのは、もっとヒロイックに大暴れする真田さんの姿! ファンの皆さん、そんな真田さんの姿が、遂に『モータルコンバット』で存分に堪能できますよ!
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ついでに書かせてもらうと、真田さんの出演最新作『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年:Netflix)を観て、「威厳に満ちた真田さんの役は素晴らしいけど、どー考えてもゾンビだらけのラスベガスに潜入するのは真田さんでしょ!」と思ってしまった方もいるはず。そんな方にも朗報です!『モータルコンバット』の真田さんは映画の冒頭から、ゾンビ映画級の気合の入った残酷戦闘スキルを見せてくれます!
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さらに真田さんファンに朗報なのは、映画の冒頭とクライマックスに用意された最大の見せ場が、真田さんVSジョー・タスリム(元柔道のインドネシア代表選手)演じるサブ・ゼロ戦というゲーム映画史だけでなく、格闘映画的にも殿堂入り間違いなしな名カード! この戦い、個人的にはすでに鑑賞させてもらった『ゴジラVSコング』と比べても甲乙つけがたい名勝負でした! 是非とも劇場で、この名勝負を観戦してください!!
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文:ギンティ小林
『モータルコンバット』は2021年6月18日(金)より全国公開
『モータルコンバット』
胸にドラゴンの形をしたアザを持つ総合格闘技の選手<コール>は自らの生い立ちを知らぬまま金のために戦う日々を送っていたが、ある日、魔界の皇帝が<コール>を倒すために放った最強の刺客<サブ・ゼロ>に命を狙われる。<コール>は家族の危険を察知し、特殊部隊少佐<ジャックス>と女性戦士<ソニア>と合流。地球の守護者<ライデン>の寺院を訪れる。そこで太古より繰り広げられてきた世界の命運を懸けた格闘トーナメント“モータルコンバット”の存在と、自らが魔界の敵たちと戦うために選ばれた戦士であることを知る。コールは新たな仲間たちとともに、自らの秘められた力を解放し、家族、そして世界を救うことが出来るのか?
制作年: | 2021 |
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監督: | |
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2021年6月18日(金)より全国公開