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やついいちろう「『シャイニング』をコントライブ前に必ず見る」好きな映画と演技へのコダワリ【第3回】

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ライター:#稲田浩
やついいちろう「『シャイニング』をコントライブ前に必ず見る」好きな映画と演技へのコダワリ【第3回】
やついいちろう(エレキコミック)

愛する映画と映画音楽

お笑いコンビ・エレキコミックとしてはもちろん、TBSラジオ「エレ片のケツビ!」という番組から、エレキコミックとラーメンズ・片桐仁との「エレ片」というユニットで活動しているやついいちろう。2021年も主宰するサーキット型フェス「YATSUI FESTIVAL!2021(やついフェス)」を開催するなど、多方面で活躍している。

そんな多才ぶりを発揮するやついに、今回は映画をテーマにロングインタビューを敢行。独特な視点が垣間見えるオールタイム・ベスト映画、俳優としての意外なコダワリや映像製作への興味など、ざっくばらんに語ってくれた。

「『ゴッドファーザー』と『シャイニング』は何度見ても面白い」

―これは手放しで好きだなあという映画は?

近所にレンタルビデオ店ができてから、名作を見出したんですよね。いちばん好きなのは『ゴッドファーザー』(1972年)。衝撃というか、びっくりしちゃって。実は『北の国から』(1981年ほか)もそんな感じだったんですけど、前評判を聞いて「ほんとに面白いの?」なんて思いながら見たら、めちゃくちゃ面白え! って。

『ゴッドファーザー』は、なんであんなに面白いのか自分でもよく分からないんだけど。お話は全部知ってるのに、ちょっと見ようと思っても全部見ちゃう。『ゴッドファーザーPART Ⅱ』(1974年)もいいんだよなあ。あと『シャイニング』(1980年)。あれはコントライブやる前に必ず見ます。作ってる時とやる時と。ジャック・ニコルソンのやらしくない説明の顔っていうか、ものすごい顔でやるんだけど全然いいんですよ。なんでだろう? って思うくらい見飽きない。

『ゴッドファーザー』と『シャイニング』は何度見ても面白い。それは物語の引っ張りじゃないんだろうなと思います。とにかくジャック・ニコルソンの顔が見たいんですよね。

https://www.instagram.com/p/CI3rOznlAqH/

―「あのギターフレーズが……」みたいな世界ですよね。

この人の何がこんなに許されているんだろう? ってことを考えて見たりしてます。(ニコルソン以外だったら)わざとらしくなる、じゃあこれ日本人だったら誰がやれるんだろう? とか。頭がおかしい人を演じてるのに、なんともかわいいじゃないですか。どうしても惹かれちゃうし、つい見てしまう。

―それはだいぶ見込んでますね。

もちろん画が綺麗とかもあると思うんですけど、とにかく顔を見ちゃう。

―そういう観点では『シャイニング』は極めつきかもしれないですね。本当にいい顔をしていて。

あれが主人公なんですよ? 日本では考えられないじゃないですか。なんで日本映画の主人公って顔の綺麗な人しかいないんですかね。韓国映画はまだジャック・ニコルソンみたいな人、いるじゃないですか。

―おじさんが出てこないですよね。

でも、ニコルソンと西田敏行さんって似てますよね。ものすごい顔ができるけど、かわいい。優しい感じとかファニーな雰囲気もあるし。でもどこか怖い。

「今は“コント演技”が流行ってるけど、そうじゃないことをやりたい」

やついさんは俳優業もされていますが、映画やドラマに出始めたのはいつ頃からですか?

大きくは(NHK連続テレビ小説)『ひよっこ』(2017年)からだと思います。

―朝ドラのレギュラー役の一人として、オファーをもらった時はどんな感じでしたか?

それこそ岡田(惠和)さんという脚本家の方が僕らの単独ライブを見て呼んでくれたり、とても推してくれたので、期待に応えたかったというか。ひとつあったのは、自分が仕事を作って自分で何かをするっていう活動を10年くらいやって、もうそろそろ人から「これやってみたら?」って言われたことを自分もやろう、と思っていた時期だったんですよね。

初期の頃はそれしか方法がないじゃないですか、みんな先輩だし。頭ごなしにやらされたりするわけですよ。俺はそれがほとほと嫌だったから、自分でやりたいことやろうと思って31か32くらいの頃からDJとか、好きなことばかりやってきたんですよね。それが形になってきたし、今なら人に言われたことをやってみてもいいかなって。でも、ちょっと前だったらやってなかったかもしれないですね。

https://www.instagram.com/p/CHkSEDssDQL/

―タイミングが良かったんですね。それこそジャック・ニコルソンなどを繰り返し見て、研究していたことも役立った部分があったのでは? すごく自然な演技でしたよ。

でもジャック・ニコルソンって不自然じゃないですか(笑)。

―そうなんですが、ギリギリOKなところを行ってるじゃないですか。

ジャック・ニコルソン(の影響)はコントの時の話で、ドラマの時は伝染らないように演技してました。あまり目立たないように、いるだけでいいだろみたいな。今、ドラマでやりすぎるコント演技が流行ってるから求められがちだけど、そうじゃないことをやりたいんですよ。わざとらしければわざとらしいほど面白いって評価されがちだから、そういうのはやりたくなかった。ことさら顔を作る、間を空けるとかなく、ただボソッと言うとか。だから自然に見えてたら嬉しいです。あそこは当たり前ですけど売れようとする人たちの闘いの場だから、俺だけがそこで売れようとしてないっていうのが自然に見えたのかもしれませんね。だから麻生久美子さんに「初めてなの? もっとやってると思った」って言われました。すごく良かったなと。

―それはすごいですよ。

“かかり気味”になってるのが嫌だったんですよね。「できるぞ」みたいな。

―俳優がコントみたいにかかり気味の演技をするのって、ひとつの流れなんですかね?

それが視聴率とるからだと思いますよ。大きい演技というか。『半沢直樹』(2013年ほか)とかそうじゃないですか。もうコントなんでしょうね。俺の中で、コントはデフォルメするけど、演技って自然にみせるもんだと思ってたから。今はどっちも一緒になってきて、アニメ化してるんですかねー。『マスク』(1994年)のジム・キャリーみたいに、人がアニメのキャラクターみたいな動きになってきてて、説明はないけどなんか感じるとかは流行らないのかなと。

「『天才マックスの世界』とか『ナポレオン・ダイナマイト』とか、オフビートなものが好き」

―でもそれこそ、コントを作って音楽フェスを主宰して、同じパフォーマンスでも自分が出るのと全体の場を作ってオーガナイズするのと、両方できる人って少ないと思うんです。そういう意味で、映画でなくても何かしら映像作品を作りたいという気持ちはないですか?

ミュージックビデオを作った時は楽しかったですね。優里さんってアーティストのデビュー曲「ピーターパン」のMVを監督したんですけど、声がかかった時は、なんで僕に来たのか分からなかった。最初は全部一人でやると思ってたから、やったことないしなあと思ったけど、やってみたらこんなにいろんな人が協力してくれてできるもんなんだなと、それならできるなと(笑)。

でも、書きたい物語とかっていうのは全然浮かんでこないですね。だから映画は向いてないと思うんですよ。脚本を書かなきゃいけないじゃないですか。あと、なんか綺麗な絵のものが好きですね、アキ・カウリスマキとか、ああいう色。あのリズム感も好きなんですけどね。(北野)武さんの『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)も好きで。

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―全体の中では地味といえば地味ですが、あれはあれでいいですよね。

ウェス・アンダーソンの『天才マックスの世界』(1998年)も好きですね。劇中でインディーロックみたいな曲が使われてるんですけど。ああいう音楽もいいし、いい音楽が映画でかかってると、それだけでいい気がしますね。ウェス・アンダーソンは、何か作ったらそれだけで見る気がします。『グランド・ブタペスト・ホテル』(2013年)のピンク色の印象は強かった。

『天才マックスの世界』と『ナポレオン・ダイナマイト』(2004年)はずっと好きだなあ。やっぱりオフビートなものが好きなんでしょうね。

―そうですね、ジム・ジャームッシュもそうだし。

ジャームッシュも音楽がいい。コーエン兄弟、クエンティン・タランティーノも新作が公開されたら必ず見ますね。『レザボア・ドッグス』(1991年)が大学1年くらいの時に公開されて、あれは衝撃でした。あとサントラが抜群にいい。音楽がいい映画が好きかも。あんまり「どかーん!」っていうのは期待してないかな。

―日本映画は音楽のいい作品が割と少ないですよね。

でも矢口史靖監督の『ひみつの花園』(1997年)、すごく好きでした。莫大なお金を森に隠しに行くっていう映画なんですけど、最初か最後に森の中を空撮してるシーンでかかってる音楽が良くて。

―やついさんが映画を作ると言ったら、いろんなミュージシャンや俳優さんが協力してくれそうですよね。

うーん、もし「やろう」と言えば。

―そんな野望はないですか?

全然……大変そうじゃないですか、フェス作るのと変わらないのかな。

―やついさんだったら、協力したいという人がどれほどいるかって、すごく大きいと思います。やついさんにしかできないものになるはずだから。

(映画の)現場に行きながらいつも思いますけどね、こんな朝早くから来てめちゃくちゃいろんなことを演出家やプロデューサーなどに言われるんだろうなって。

―両方の気持ちがわかる人は多くない気がします。

自分が監督して撮るとしたら、あんまり大きい演技をしない感じになるでしょうね。なるべくそういうのはさせたくない。リアリティとか、無いほうが好きかも。ドキュメンタリーならまだいいけど、リアリティのある映画とか、別にいいやって思っちゃう。周りに本当のリアルがあるじゃないですか。だから映画でわざわざ見たくないんですよね、つらいものは。めちゃくちゃ人が死んでたとしても、飄々としたものが好きです。

―お話を聞いていて、やつい映画をぜひ見たいなと思ってきました。

でも何も起きなくてつまらないかもしれない。ドキドキしないですよ、そういうのって(笑)。

取材・文:稲田浩

撮影:大場潤也

「YATSUI FESTIVAL!2021(やついフェス)」は2021年6月19日(土)20日(日)オンライン/有観客で2DAYS開催

https://www.instagram.com/p/CPpGphHJGCw/

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