これが実話!? スパイク・リーらしさが光る快作
第71回カンヌ映画祭でグランプリ獲得、第91回アカデミー賞では脚色賞を受賞した『ブラック・クランズマン』(2018年)は、スパイク・リー監督の復活作と言っていいだろう。キャリアを重ねて新境地を開拓したというより、やはり復活だ。この映画はスパイク・リーの真骨頂、本来の魅力に溢れている。
黒人刑事と白人刑事のコンビが協力してKKKへの潜入捜査を試みるという意外性抜群のストーリーは実話がベース。そこにスパイク・リーは(時代背景を変えて)ブラック・パンサーを絡め、ブラックスプロイテーション映画にまつわる会話を入れ込む。まさに脚色の妙、テーマとメッセージが力強く浮き彫りになっていくわけだ。
何よりもまず「カッコいい映像」ありき
監督いわく「どこか現代を連想させなきゃいけない。観た人が、映画のなかの狂った世界を現代のぼくらが生きる世界につなげて考えられるようにね」 ― アダム・ドライバー演じる白人刑事も自身のルーツに向き合い、KKKの指導者は「アメリカ・ファースト」、「アメリカを再び偉大に」と語る。女性の扱い、ヒロインが警察を「ブタ」と呼ぶことなど差別や偏見のありようを多面的に描き出すのもスパイク・リーらしい。そしてラスト、人種問題、ヘイトとの闘いはこれ以上ないほどダイレクトに叩きつけられる。
映画の中でメッセージを直接的に訴えるのを嫌う映画ファンもいるかとは思うが、「そんなこと言ってる場合か」というものまで含めて、これまで数々の論争を巻き起こしてきたスパイク・リーのメッセージだろう。
まして初期の傑作『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)にしても本作にしても、強烈なメッセージを放ちつつ説教くさくはない。カメラワーク、編集、それに音楽はスタイリッシュでありポップ。ナイキなどのCMも手がけてきた彼の映画は、何よりもまず「カッコいい映像」が楽しめるものなのだ。
世界中に「正しいことをしろ!」と叫ぶスパイク・リー
『モ’・ベター・ブルース』(1990年)、『マルコムX』(1992年)で“主演スター”になったデンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンが主役の刑事、アカデミー賞のプレゼンターが『ジャングル・フィーバー』(1991年)で出世したサミュエル・L・ジャクソンというのもドラマチック。ネットで広まっている受賞スピーチにグッときた人が『ブラック・クランズマン』を観たら年間ベスト候補に挙げるだろう。あのスピーチをさらに加速させたような、力強くてしかも笑える世界が、映画の中に広がっている。いや本当に「勇気をもらいました」どころじゃないパワーだ。
そしてこの映画は現代のアメリカと地続きなだけでなく、日本ともつながっている。ヘイトを撒き散らす人間たちは陰謀論を言い募り、自分たちこそ被害者なのだと主張する。日本でも毎日、ネットを中心に繰り広げられている言葉にそっくりなのだ。スパイク・リーはアメリカの人種問題を描いているだけじゃない。世界中のあらゆる人々に「Let’s do the right thing!」と叫んでいる。
文:橋本宗洋
『ブラック・クランズマン』は2019年3月22日(金)からロードショー
『ブラック・クランズマン』
1979年、街で唯一採用された黒人刑事が、白人至上主義の過激派団体<KKK(クー・クラックス・クラン)>に入団!?悪事を暴くという大胆不敵なノンフィクション小説を映像化。
制作年: | 2018 |
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