ウィンターボトム監督はファッション業界の闇をどう描いた?
マイケル・ウィンターボトムといえば、『イン・ディス・ワールド』(2002年)や『グアンタナモ、僕達が見た真実』(2006年)などの硬派な社会派から、『24アワー・パーティ・ピープル』(2002年)のようなやんちゃな音楽もの、『バタフライ・キス』(1995年)『ひかりのまち』(1999年)などの人間ドラマ、さらに最近では『スティーヴとロブのグルメトリップ』(2010年)に始まるグルメ・ロードムービーシリーズなど、じつに作風が多岐にわたる監督。だがそれらに共通しているのは、つねに大胆で、新しいものを生み出そうという意欲とエネルギーに満ちていることだろう。
そんな彼の新作は、TOPSHOPなどのブランドを手がけイギリスのファストファッション界の帝王と言われたフィリップ・グリーンの半生にインスパイアされた、『グリード ファストファッション帝国の真実』。監督の盟友とも言えるスティーヴ・クーガンが、強欲で非情でセレブ好きの、資本主義の怪物、リチャード・マクリディに扮する。
ギリシアのミコノス島で撮影をした本作は、マクリディが60歳の誕生日を祝うため盛大なパーティを開催することを機に、セレブ・オンパレードの表舞台と、ファストファッション産業の極悪な舞台裏を映し出す。波乱に満ちたパーティの準備がやがて驚愕のクライマックスを迎えるとき、我々はキャピタリズムの生み出す罪の重さにおののくとともに、その片棒を担ぐ我が身のあり方までも振り返ることになるだろう。
この強烈にブラックな風刺映画を作り上げたウィンターボトム監督に話を聞いた。
「この映画は実際の世界に比べたらずいぶん抑制したバージョンだよ」
―本作は、派手で欠点の多いセレブリティを主人公にしているという点で、キング・オブ・ソーホーと言われたポール・レイモンドを描いたあなたの過去作『Mr.スキャンダル』(2013年)とちょっと似ていますね。
たしかに似ている点はあるね。『Mr.スキャンダル』はレイモンドに焦点を当てた伝記映画で、『グリード』も、最初はもっとキャラクターに集中した伝記映画のようにしようと思っていた。ファストファッションの帝王と言われたフィリップ・グリーンについて書いたジャーナリストから、彼のことを聞いたのがきっかけだ。彼の語るグリーンはモンスターのような奴だけど、とてもエンターテインニングなモンスターだった。ただ、制作の過程で意図が変わったんだ。
リチャード・マクリディはグリーンを大雑把にモデルにしているけれど、フィクショナルなキャラクターで、僕が興味を惹かれたのは彼を通して世界の矛盾、二極化を描くことだった。とくにファストファッション界の場合はそれが顕著だ。一方では億万長者がいて、世界の人々を魅惑している。だが、彼らがスーパーモデルを使ってゴージャスに宣伝している服は実際、東南アジアなどの工場で信じられないほど低賃金のワーカーたちによって作られていて、それが西洋で消費されている。そのコントラストは驚くべきものだ。だからマクリディというキャラクターを通して世界のコントラストを見せることが、とても興味深いと思えた。
―この映画のマクリディもモンスターのような人間であり、あなたは彼を容赦なくグロテスクに描いています。ここまでグロテスクに描こうと思った理由は、現実世界も同じぐらいグロテスクだと思ったからでしょうか。
その通り。たとえばマクリディのヨットはゴージャスだが、実際にグリーンが持っていたヨットの方がもっとデカかった(笑)。映画のなかの盛大なパーティも、実際おこなわれていたパーティに比べたら小さい方だ。セレブも沢山いて、レオナルド・ディカプリオはグリーンのパーティに参加している。僕にとってこの映画はむしろ、実際の世界に比べたらずいぶん抑制したバージョンだよ。
―ただファストファッションの問題は、提供する側のみならず、それを買う消費者の問題でもありますよね。買い手がいるからどんどん作られ、マクリディのような人間が増えていく。この悪循環についてはどう思われますか。
たしかに我々、消費者の問題でもある。それはファッション業界に限ったことではないけれど、この業界は特に消費者を煽るのに長けていると思う。グラマラスなイメージを提供して人々の購買欲を駆り立てる。ただ、この映画を作る過程でわかったことは、現在はファッション業界も変化していて、たとえばサステナブルな服作りを目指している人やリサイクルに関心を持つ人が増えている。
「コリン・ファースやキーラ・ナイトレイは無償で出演してくれた」
―パンデミックは、我々の思考を変える機会を与えると思いますか? あなた自身は未来に対して楽観的でしょうか。
すべての危機は、変化をもたらす機会だと思う。ただそれが、必ずしも良い変化をもたらすとは限らない。たとえば今の傾向はオンラインショッピングで、オンラインではさらに安く服が買える。だから結局は、我々消費者の意識にかかっているだろう。ただ僕自身は希望を持っているよ。さっきも言ったように、ファッション業界で新しい意識を持った人々が出てきているように、僕らは時代の変わり目にいると思う。
―映画のなかではコリン・ファース、キーラ・ナイトレイ、コールドプレイのクリス・マーティンなど、少なからぬセレブが実名で登場していますが、どうやって彼らを集めたのでしょうか。彼らはふだんから、あなたの近しい友人なのですか?
いや、そういうわけでもないけれど(笑)。いろいろな人に声を掛けたなかで、彼らが幸運にもアイディアを気に入ってくれて、ノーマネーで登場してくれたんだ。彼らは自分のパロディを演じてセレブを嘲笑することに抵抗がなかった。
―またとくにキース・リチャーズとU2のボノは、会話のなかでかなり揶揄されていますね。彼らが映画を観たあとでクレームをつけたりはしなかったですか?
幸い、それはなかったよ(笑)。ボノに関しては、この映画に出ている俳優が知り合いだったので映画のことが伝わり、かなりがっかりしていたと聞いた(笑)。
「新型コロナウイルスを描くなら、まだ誰も手をつけていないうちに」
―ところで、いま関わっている2つの企画では、さっそく新型コロナウイルスを題材にしているそうですね。
『This Sceptred Isle(原題)』というテレビシリーズの脚本を書いたんだけど、これは自分では監督しない。コロナが英国を襲った第一波について書いたもので、科学者、政府の対応、ボリス・ジョンソン首相や病院で働く人々のことを書いた。シンプルに、時間軸に沿って起こったことを振り返るドキュメンタリータッチのもの。
もうひとつはイタリアのプロデューサーからの依頼による短編で、コロナと移民の話がパラレルに進行するストーリー。コロナによって人々が孤独化することと、移民が孤立化することを掛けたものだが、どちらかというと移民の物語と言えるね。コロナをさっそく取り上げた理由? やるなら誰もまだ手をつけていないうちにやるのが一番だろう(笑)。
取材・文:佐藤久理子
『グリード ファストファッション帝国の真実』は2021年6月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『グリード ファストファッション帝国の真実』
ギリシャ・ミコノス島。ファストファッション・ブランド経営で財を成したリチャード・マクリディの還暦を祝うため、離婚した元妻サマンサ、息子フィン、母マーガレットら家族一同が集まる。折しもイギリス当局から脱税疑惑や国外の縫製工場の劣悪な労働環境と待遇について追及されたリチャードは、マスコミから“グリーディ(強欲な)・マクリディ”と揶揄されていた。名誉挽回のためショーアップされたパーティーでかつての威光を取り戻そうと目論む。しかし湯水のように金を使い、傲慢に振る舞うリチャードと家族や部下との間には、徐々に不協和音が生じていく―。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2021年6月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開