他人のために命を張る! 不器用な漢の命令違反映画
『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(2003年)
本作を一言で説明するならば、“漢(おとこ)の命令違反映画”といったところか。民族紛争が絶えないナイジェリアを舞台に、ウォーターズ大尉(ウィリス)率いる特殊部隊SEALsの隊員たちが無謀すぎる救出ミッションに挑む姿を描いたサスペンス・アクションだ。
本作におけるナイジェリアは宗教対立が部族間の虐殺に発展するというメチャクチャな状況なのだが、これは事実に基づく設定。主要部族のひとつであるイボ族の歴史は虐殺の歴史であり、数百万人が犠牲になったビアフラ戦争をはじめ、現在も多くの人々が紛争や貧困に苦しんでいる。
ウォーターズ大尉たちの任務は紛争地医療を行っている女医リーナ(モニカ・ベルッチ)を連れ帰ること……だったはずが、虐殺されたイボ族の人々を目の当たりにしたことで良心スイッチがON。国境まで数十キロの道のりを大所帯でゾロゾロ逃げるという絶望的な状況と相まって、割と救いのない重いストーリーになっている。
とはいえ米国防総省が全面サポートし元SEALs隊員が心構えをレクチャーしたというだけあって、リアルなステルスアクション~地味だがリアルな戦闘描写~再現度の高い装備などはミリオタの皆さんからもすこぶる評価が高い。また、監督は『トレーニングデイ』(2001年)や『イコライザー』シリーズ(2014年~)で知られるアントワーン・フークアということで、自身のルーツでもあるアフリカ地域を舞台にした本作への意気込みは並々ならぬものだっただろう。
端的にいうと『七人の侍』(1954年)や『ワイルド・ギース』(1978年)のような“自己犠牲モノ”なのだが、これは後に中世騎士道の定番であるアーサー王の物語『キング・アーサー』(2004年)を、そして『マグニフィセント・セブン』(2016年)で『荒野の七人』(1960年)をリメイクすることになるフークア監督の十八番でもある。いわゆるアメリカ万歳的な着地には賛否あるものの、分かりやすい現実社会のメタファーに逃げずエンタメ性を重視する監督の作家性が十分に発揮された作品だ。
そもそも本作は『ダイ・ハード4』として企画が進められたものの、かなり深いテーマになってしまったため独立した作品に切り替えたんだとか。マクレーンがブツクサ言いながらドタバタする話だったらもっと気楽に観られたのに……。
「ウィリス×どんでん返し」の設定は鉄板!?
『ラッキーナンバー7』(2005年)
最近は大作への出演がとんとご無沙汰、どころか『オー・ルーシー!』(2017年)とかいう謎の日米合作映画で寺島しのぶに横恋慕されるという謎のキャリアを爆進中のジョシュ・ハートネットとウィリスの共演作。理不尽にイジメられるジョシュを見てたらすさまじい大どんでん返しが待っていた! というサッパリ気持ちのよい作品だ。
友達に会いにNYに来たスレヴン(ジョシュ)は、いきなり黒人とユダヤ人の2大ギャング組織の対立に巻き込まれ、小突かれたり引き回されたり散々な目に遭う。ギャングのボスを演じるモーガン・フリーマンとベン・キングズレーの言い回しがいちいち小難しくて、そこにスゴ腕の殺し屋・グッドキャット(ウィリス)も合流し、なんだか序盤はおっさんたちのポエム大会のよう。
結局、中盤まではジョシュと同じ視点で「???」な状況が続くのだが、そのまま観ておいたほうが最終的に楽しめるのでちょっと我慢。幸いテンポの良い展開で飽きることはないし、スタンリー・トゥッチやブレイク前のコリー・ストールなどハゲ率高めのシブいキャストで得した気分になる(※個人の感想です)。ジョシュとイイ感じになるルーシー・リューは結構ウザいけど、最後の最後に存在意義を発揮するので要注目。
そして終盤ちょっと手前に第1びっくり展開が用意されていて、そこから一気にバババーッとタネ明かしタイムへ。謎が解けたカタルシスを堪能しつつ、思わず「まじか~!?」と声が出る大どんでん返しと、その先に用意されたサプライズを、お菓子でも食べながら全力で楽しむ映画である。
物騒な爺さんたちが大暴れ! 豪華キャストで贈るアクションコメディ
『RED/レッド』(2010年)
REDとは“Retired(引退した)Extremely(めちゃくちゃ)Dangerous(危険)”の頭文字で、つまり一線を退いたヤバい仕事人たちの物語。DCコミック現傘下の出版社からリリースされた同名コミックの映画化で、謎の組織に命を狙われた元CIA工作員の独居老人フランクが愛する女性を守るため強大な陰謀に立ち向かう姿を描く。
年金受給者という設定のわりに見た目も下半身もビンビンのフランク(ウィリス)は、年金窓口のテレオペ職員・サラにぞっこんLOVE。あるとき、明らかにシロートではない武装集団に襲撃されたフランクは、愛するサラにも魔の手が迫っていることを察知して強引に救出。そして元同僚のエロおやじジョー(モーガン・フリーマン)と妄想的陰謀論者のマーヴィン(ジョン・マルコヴィッチ)、さらにロシア諜報部のイヴァン(ブライアン・コックス)や元MI6(『007』のジェームズ・ボンドが所属する英諜報機関)の女スナイパー・ヴィクトリア(ヘレン・ミレン)を仲間に引き込んで老人チームを結成し、徹底抗戦に出る。
本作はいわゆる“チーム萌え”作品なのだが、年のわりに各々かなり色ボケしているのでせっかくの萌え要素を損いがち。それでも狂人要員のマルコヴィッチはいい仕事をしていて、最近だと『ザ・プレデター』(2018年)のバクスリーが良い例だが、やはり“特殊技能に秀でた狂人”というキャラクターはチーム萌えには欠かせない存在なのだろう。
何はともあれハイライトは、本作公開の2年後に95歳で亡くなった名優アーネスト・ボーグナインの出演シーン(笑顔がめちゃくちゃキュート)。あとは還暦超えのヘレン・ミレンがヒロインのサラ(メアリー=ルイーズ・パーカー:当時46歳)よりもセクシーというのが衝撃的。
『RED リターンズ』(2013年)
新たにキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、イ・ビョンホン、アンソニー・ホプキンスという豪華キャストを迎えて制作された『RED/レッド』の続編。悪を滅ぼし平和を満喫していたフランクだったが盟友マーヴィンが殺され、悲しむ間もなく自身はFBIに拉致られ、かと思いきや殺されたはずのマーヴィンに助けられ……と、のっけからてんやわんやの展開が繰り広げられる。
前作で現役CIA工作員を演じていたカール・アーバンのポジション(仲直り枠)を担う殺し屋・ハンを演じるのは、ビョン様こと我らがイ・ビョンホン。フランクのせいで長らく獄中にいたというビョン様は涙目になってフランクにつっかかるのだが、例によって無駄に脱ぐシーンが多い。ファンにとっては半裸のビョン様を拝むだけでも観る価値のある作品だ。
物語のキモになるのは、冷戦時代に企てられた物騒な核爆弾にまつわる計画。そこに名優アンソニー・ホプキンスが絡み、さらにキャサリン・ゼタ=ジョーンズはムダにウィリスとイチャイチャする。雰囲気自体のチャラさと同時に扱うブツの危険度も大幅にアップしているため、緊張感があるんだかないんだかよくわからないテンションで終始物語が展開していくのだが、まるでハンニバル教授のようなホプキンスの見事な演技と相まって最後まで飽きずに楽しめる。
ヘレン・ミレン演じるヴィクトリアも前作より見せ場が多く、足先が可愛い狙撃シーンやビョン様との息の合ったアクションシーンは一見の価値あり。フランクに出会ったせいでスリル中毒者みたいになっているサラのキャラ描写もしつこくて、相変わらずマトモな人間が一人も出てこないポップかつ狂った作品に仕上がっている。
特集:ブルース・ウィリス誕生祭
CS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年3月放送
【放送作品】『ティアーズ・オブ・ザ・サン』『ラッキーナンバー7』『RED/レッド』『REDリターンズ』