• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 自分の人生、他人と比べてませんか? ベン・スティラー主演『47歳 人生のステータス』M・ホワイト監督が「本当の成功」を語る

自分の人生、他人と比べてませんか? ベン・スティラー主演『47歳 人生のステータス』M・ホワイト監督が「本当の成功」を語る

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#石津文子
自分の人生、他人と比べてませんか? ベン・スティラー主演『47歳 人生のステータス』M・ホワイト監督が「本当の成功」を語る
『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

「中年の危機」を苦笑満載で描いたマイク・ホワイトに聞く

息子との旅をきっかけに、中年の危機に陥ってしまう男をベン・スティラーが演じる『47歳 人生のステータス』。主人公ブラッドは、息子トロイの大学見学に付き添い、大学時代を過ごしたボストンへと旅をする。そこで成功者となった旧友と再会したことで、平凡すぎる自分の人生に疑問を抱いてしまう。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

監督はジャック・ブラック主演『スクール・オブ・ロック』(2003年)などの脚本家であり、俳優でもあるマイク・ホワイト。中年の危機をシニカルな笑いとともに、繊細に描いたホワイト監督に話を聞いた。

『47歳 人生のステータス』マイク・ホワイト監督

「ベン・スティラーは神経症的な男を演じさせたら最高の俳優」

―主人公ブラッドは、息子トロイとの旅がきっかけで倫理観や様々なものが揺らいでしまいますね。

自分と他人を比較したことで生まれる不安が、この映画の題材になっています。人生に対して抱えている不満や不幸せが、他人との比較によって生まれてしまっている。こうしたブラッドの抱える不安は、誰もが持っている現代的なもので、SNSの影響によってさらにその傾向が強まってしまっていますね。今のアメリカには、何もかもを手に入れないといけないような、誰もが億万長者を目指さねばいけないような風潮があるんです。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

―ミッドライフ・クライシス(中年の危機)がテーマの一つになっていますが、主人公にはベン・スティラーを想定して脚本を書いたのでしょうか。

僕は元々ベンのファンでしたし、友人としても長い付き合いです。ベンは神経症的な男をコメディで演じさせたら最高の俳優です。それを活かした演技をしてもらえたらと思い、長年一緒に仕事をしたいと望んでいました。この脚本そのものは彼のことを想定して書いたわけではないのですが、同世代の俳優に何人か候補はいたものの、ベンこそがぴったりだと思いました。コメディを得意とする役者がシリアスな役を演じる時に生じるニュアンスというのを、今までも僕は大切にしてきたので。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

「自分を他人と比較したり、成功を比較することは幻想に過ぎません」

―ブラッドは娘のような年齢の女性アナーニャに、「50歳になっても自分が世界の中心だと思ってるのね」と言われます。これは中年には耳が痛い言葉です。

ブラッドは自分の存在価値を証明したいと躍起になるのですが、価値の物差しを自分以外のものに置いてしまうから、辛くなってしまうんです。でも、息子のトロイが最後にある言葉を彼に言うんです。「パパのことなんか誰も気にしちゃいないから安心して。僕だけだよ、パパのことを考えているのは。僕はパパを愛してるよ」とね。ここに希望があります。あなたのことを本当にわかってくれる人が近くにいる、それが人生の醍醐味なんです。それ以外のこと、自分を他人と比較したり、成功を比較することは幻想に過ぎません。ところがその幻想で、わざわざ自分の心を傷つけてしまうんです。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

―この映画の脚本は監督のお父さんを思って書いたそうですが、ちょっと息子のトロイは良い子すぎませんか?(笑)

息子を良い子にしたつもりはないんですよ。十代後半って、親のコントロールから自由になりたい、自分という人間を確立したいと思っている頃なのに、父親と一緒に旅行をせねばならない状況に追い込まれて、彼はシャッターを閉じちゃうんですね。この映画と同じように、僕も父親と大学見学の旅をしたんですが、全く同じような感じだったんです。父親が何を言っても「恥ずかしい、もうやめてよ」ってなっていました。僕と父親の関係は悪くなかったにもかかわらず、です。ティーンエイジャーなんて、そんなものですよ(笑)。

でも、父親が一番必要としている言葉を与えてくれるのは、この息子なんですね。一旦、息子が下ろしたシャッターをゆっくり上げて、声をかけてくれる。主人公にとって一番リアルで重要な人間関係とは、目の前にいる息子との関係なのだ、ということに気づかせてくれるわけです。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

―監督のお父さんは、この映画をご覧になったんですか?

観ていますよ。僕は父親とブラッドはかなり似た部分があると思っていたんです。父も気持ちの浮き沈みが激しい方だし、お悩みモードに入ってしまうと大変なんですよ。ところがおかしなことに、父親自身は映画を観たあと、「あいつ、神経症すぎるよなあ」って言ったんです(笑)。まったく他人事でした。おかしかったなあ。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

「人生の成功を得る、それは“成功への草の根運動”のようなもの」

―素晴らしい映画ですが、中年としては少し憂鬱な気持ちにもなります(笑)。ブラッドは、息子の存在によって自分の人生の素晴らしさに気づきます。では私のような子供がいない中年は、どこからその気づきを得ればいいと思いますか?

僕にも子供はいませんよ(笑)。何も子供じゃなくてもいいんです。人生の成功は、どうしたら得られるのか。それは“成功への草の根運動”のようなものだと僕は信じています。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

どういうことかというと、まずは地に足をつけること。どんな瞬間もちゃんと生きて、自分を信じることからはじめ、次に一番身近な人たちに、あなたを信じてもらえるようにする。そうやって、お互いの信頼を地道に築き上げていくことが大切だと思うんです。それ以外の外部的な価値、つまりお金をたくさん稼いだり、仕事がうまくいったり、プライベートジェットを持っていたり……というものは、本当の人生の成功とは関係ないんです。共に生きている人たちにとって自分は大切な存在になれているか、彼らとの関係がうまくいっているか。こういうことに人生の価値を置くべきだと思うんです。

映画ではそれを息子が父親に気づかせますが、別に息子じゃなくてもいいんです。親でも、パートナーでも、友人でもいい。表面的な物差しで自分の幸せを測るのではなく、自分の近い人との関係こそが重要なんだ、と考えればうまくいくと思います。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

「コロナ禍で良かったのは、自分の生活を見直すことが出来たこと」

―マイケル・シーンが演じる旧友クレイグは面白いキャラクターですね。テレビにも顔を出すベストセラー作家で政界の事情通であり、ちょっと嫌なやつとして登場しますが、じつは彼はそれほど悪いやつではないのではと思いました。業界にはああいう人物が多いのですか?

クレイグは、学生時代はブラッドと競いあっていた仲で、今でもほとんど無意識に、ブラッドにプレッシャーを与えてしまう存在です。クレイグみたいに自分の存在や、することが周囲にインパクトを与えていることに気づいていない人って、意外といるんじゃないかな? クレイグ自身は何も酷いことを言ったつもりはないけれど、ブラッドにはいちいち気に触る、引き金になっちゃうんですよね。もしかしたらツンツン突いているような自覚が少しはあるのかもしれないけど、ほとんど無自覚にああいうことをしちゃうタイプなんです、クレイグは。競争社会で生きていると、ああいう人はいるなと思いますね。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

―この映画でブラッドは、旅をすることで自分を取り戻していきます。でも今、私たちは新型コロナウイルスの影響で、まだ自由には旅が出来ない状況にいますが、何か気づいたことはありますか?

今回の状況で良いことがあったとすれば、SNSなどの影響でなんでも短時間しか集中が出来なくなっていた私たちが、自分の身の回りの生活を見直すことが出来たことだと思います。家で食事を作ってくれている人は誰なのか? 自分に大切な人は誰なのか? といったことに気づき、関係を再構築することが出来るきっかけが生まれたことが、大切だと思いますね。

『47歳 人生のステータス』©2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

取材・文:石津文子

『47歳 人生のステータス』は2021年6月11日(金)よりMIRAIL、Amazon Prime Video、U-NEXTにてオンライン上映

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『47歳 人生のステータス』

ブラッドは、優しい妻のメラニーと、音楽の才能がある息子のトロイとサクラメント郊外で穏やかな生活を送っている。仕事も順調だ。とはいえ、やる気と希望に満ち溢れた大学生時代に思い描いていた未来図とは何か違う。

そんな中、ブラッドはトロイの大学受験の準備で、親子2人でボストンの大学を巡ることに。トロイを案内している間も、頭に浮かぶのは大学時代の4人の親友たちと自分の人生の比較ばかり。というのも、ニックはハリウッドの大物、ジェイソンはヘッジファンドの創設者、ビリーはハイテク企業の起業家、そして、クレイグは政界の情報通でベストセラー作家と華々しいキャリアを築いているからだ。

ブラッドは、彼らの裕福で魅力的な生活を想像し、居心地の良い中流家庭が自分の行き着く最高のものなのかと思いを巡らせる。しかし、旧友たちと再び連絡を取るようになり、次第にブラッドはある疑問を抱き始める―自分は本当に負け組なのか、それとも、友人たちの輝かしい姿の裏には本質的な欠陥があるのか―。

制作年: 2017
監督:
出演: