誰にも訪れる“死”を全力で想う
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』が問いかけるのは、高齢化が進んだ現代社会に生きる我々すべてにとって他人事ではないテーマ、“生きる”ということだ。
病魔に冒されて自分の意思で動くことができなくなっていくリリー(スーザン・サランドン)は、医師である夫ポール(サム・ニール)が見守る中で目覚める。自分の意思で生活できなくなってしまう彼女は、「安楽死」することを決めている。リリーが家族と過ごす最後の週末、長女のジェニファー家族とパートナーを連れ添った次女アナ、親友リズが海辺の家に招かれる。
デンマーク映画『サイレント・ハート』(2014年)を原案にした本作は、家族8人が過ごす最後の3日間を静かに見つめていく。
“生きる”とは ― 明日あなたが直面するかも知れない、命を見つめる物語
もし自分の身体が動かなくなるとしたらどうするか。階段を降りることも、珈琲を淹れてふぅふぅと息を吹きかけて味わうことも、話すこともできなくなってしまう。病気が進行すると、食べることも、自力で呼吸することも、歩くことさえ叶わなくなり、やがて思考すら失われてしまう。そんな状態でも人は生きていると言えるのか。スーザン・サランドンが演じるリリーは、病魔に冒された当事者として“生きる”ことに向き合い、家族との最後の約束を果たそうとする。
一方、リリーとの最後の時間を過ごす家族や親友の思いは複雑に揺れる。誰もが「生きてさえいれば」と願いながらも、自分の意思で行動する当たり前のことができなければ、もはや生きていることにはならないではないかとも考える。母の決意を尊重すべきだと分かっている。でも、ただ生きていて欲しいという切なる願いが胸を締め付ける。
生か死か、正解のない自問自答の先にあること
母と共に過ごす家族に残された時間はあと僅かだ。自由に育ててくれた母の決意は固い。だからこそ彼女の意思を尊重すべきだと思う。病気は治る可能性があり、身体は回復するかも知れない。そう信じればもっと生きられるはずだ。
最後の時間だからこそ、何も言わずにそっと見守ろう。身体の変調は母にしか分からないことだから、少しでも微笑んでもらえるようにしよう。まだ死ぬってことがよく分からないけど、勇気があってカッコいいと思う、だから少しでも元気づけたい。言葉なんて要らない、今はただ妻の傍に居るだけでいい。海辺の家に集まった8人には、決して正解のない自問自答が続いていく。
女優たちのアンサンブルが心を揺さぶる
妻として、母として、女として生きてきたリリーを演じるスーザン・サランドンを軸に、勝ち気な長女ジェニファーに、『アンモナイトの目覚め』(2020年)で寡黙な女性を体現し新境地を開いたケイト・ウィンスレット、問題を抱えて家族と距離を置く次女アナのミア・ワシコウスカ、親友リズを演じるリンゼイ・ダンカン。4人の女性たちが織りなすアンサンブルが、サム・ニールら共演陣の献身的な演技と響き合って愛おしい時間を醸し出す。
解釈が大きく分かれるであろうラストシーンをどう受け止めるのか。今を生きるすべての人への問いかけが深い余韻を残す。
文:髙橋直樹
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』は2021年6月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』
ある週末、医師のポールとその妻リリーが暮らす瀟洒な海辺の家に娘たちが集まってくる。病が進行し、次第に体の自由が効かなくなっているリリーは安楽死する決意をしており、家族と最後の時間を一緒に過ごそうとしていた。長女ジェニファーは母の決意を受け入れているものの、やはりどこか落ち着かず、夫マイケルの行動に苛立ちがち。家族だけで過ごすはずの週末にリリーの親友リズがいることにも納得がいかない。詳しい事情を知らなかった15歳の息子ジョナサンも、この訪問の意味を知ることに。
長らく連絡が取れなかった次女アナも、くっついたり離れたりを繰り返している恋人クリスと共にやってくるが、姉と違い、母の決意を受け入れられておらず、ジェニファーと衝突を繰り返す。
大きな秘密を共有する家族がともに週末を過ごすなか、それぞれが抱えていた秘密も浮かびあがりジェニファーとアンナの想いは揺れ動き、リリーの決意を覆そうと試みる……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2021年6月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開