無軌道な暴力を繰り返す少年たちは、まさにストリートギャング
BANGER!!! 編集部より、「『時計じかけのオレンジ』(1971年)について書いて」と言われちゃったんですが、正直困っちゃいまして。このBANGER!!!を見るような映画ファンからしたら当たり前の作品だろうし、いまさらオレごときが必死こいて書いたところで海中で屁をこくようなもの……。
とはいうものの、私『時計じかけのオレンジ』の大ファンであります。家の玄関にはポスターがドーンと貼ってあるし、主人公アレックスのフィギュアも各社取り揃えて飾ってある。かなりイタい話ですが、「雨に唄えば」を歌いながら丸めた布団を蹴って鬱憤を晴らしたアブナイ夜もあるし、もしこの先、気でも狂ってハロウィンにコスプレすることがあれば、周囲の残念な視線を浴びながらアレックスになるのもやぶさかでない予定。
そんなこんなで人生何度目かの『時計じかけのオレンジ』を観返したわけですが、いまさらながら改めて思ったのは、<ストリートギャングもの>でもあるんですよね。
『時計じかけのオレンジ』の冒頭は、15歳のアレックスら少年4人組“ドルーグ”の日常が描かれます。各々が独自のアレンジをしながらも似たような格好をし、敵対するグループ“ビリーボーイズ”と喧嘩したり、ドラッグがギンギンに仕込まれたミルクを飲んで、<ナッドサット言葉>と呼ばれる独自の言語感覚でおしゃべり。むやみに車を飛ばしたり、無軌道な暴力を繰り返す様はまさにストリートギャング! このあたりは後に、米ブロンクスを舞台に揃いのファッションに身を包んだ人種別若者チームを描いた青春映画『ワンダラーズ』(1979年)や、もっと暴力テイストが濃厚なウォルター・ヒル監督の『ウォリアーズ』(1979年)なんかに多分に影響を与えていることで知られております。
川崎にもいた! リアル“ドルーグ”の衝撃
というわけで、『時計じかけのオレンジ』から思い出す<ストリートギャングもの>でちゃちゃっと原稿でも書きあげてみようかしら、と思ったそのとき。ふいによぎったことが……。
あれは2000年代初頭のこと。当時ティーンだった私は、神奈川県は川崎市川崎区、川崎駅周辺に住んでおりました。当時の川崎といえば駅前の開発もまだ進んでおらず、どこもかしこも浮浪者の方々が溢れかえり、街全体から漂う小便の匂いが住民の鼻腔を刺激しまくっていた頃。駅前からのびる地下街アゼリアにはメリケンサックを使った凶悪カツアゲ犯が跋扈し、「金を渡さなかった奴が殴られて目ん玉ひとつ失って鬼太郎と化した」といった怖すぎる噂が立ったり、浮浪者のダンボールハウスに放火が相次いだり……とにかくここでは書けないことだらけの、なかなかなゴッサム・シティっぷりを発揮していたんですね。
そんな川崎駅から少し離れたところに、川崎駅周辺よりさらにアダルトでダーティな地区があります。どういうわけか、そこの危なっかしい空気感が好きで用もないのによくブラブラ散歩していたのですが、ある日、前から見慣れない謎の3人組が横並びで歩いてきました。彼らの姿はまさに異様。もう、パッと見で瞬時に身構えてしまうほど異様。なんせ彼らは一様に上下迷彩服。おまけに武器のような棍棒らしきものを腰からぶら下げ、言葉一つ交わさず黙々と歩いているだけ。鋭い目は常に周囲を気にし、目が合ったら速攻で殺されるんじゃないか? ってムードをビンビンに漂わせているんです。そんな彼らを一目見て思いましたね。「あ!『時計じかけのオレンジ』だ!」って。
『時計じかけのオレンジ』でアレックスが舐めてかかる仲間たちをボッコボコにしばいてリーダーとしての示しをつけるシーンがあるじゃないですか。そこに突入する直前、うつむいて歩くドルーグたちをスローで捉えたシーンがまさに現実に、目前に現れたんですよ。ほんとシビれちゃいましたね。
それからというもの、迷彩軍団のことを独自に調査する日々となったわけですが、なんせ高校生だったのでこれがまぁ難航。唯一わかったことは、怖い方達に雇われていた人たちで、毎日ほぼ同じルートをただただ歩き回るという任務についていた、ということのみ。『時計じかけのオレンジ』というより、京都の街を歩き回る新撰組に近かったわけですが、あまり深入りしないほうが良さそうだったので調査は自主的に打ち止めに……。
そんなことを思い出してしまった人生何度目かの『時計じかけのオレンジ』。今回もやっぱり最高でした。
文:市川力夫
『時計じかけのオレンジ』
“強姦と超暴力とベートーヴェン”を愛する15歳のアレックスが、人格矯正の治療を受け…。
制作年: | 1971 |
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特集:キューブリック没後20年
CS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年3月放送
【放送作品】日本初放送ドキュメンタリー「映画監督:スタンリー・キューブリック」、『時計じかけのオレンジ』、『フルメタル・ジャケット』