あなたの人生で“一番ひどいウソ”は?
こんな言い方をすればアレなのだが、私はよくウソをつく。しょっちゅうウソをつく。これは事実だからしかたがない。思い起こせば、子供の頃からよく嘘をついていたし、周りの人間もたくさんウソをついているのを見てきた。世の中とは、たくさんのウソが存在しているものだと思う。
そんなウソにもいくつかの種類があって、私がこの世で一番多いと思うウソが、誰かに怒られない様につくウソ。このウソは子供の頃から大人になっても、怒られる対象が親や先生から先輩や上司、目上の人と変わっていくだけで、誰もがついた事のある一番多いウソだろう。
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このパターンのウソは私も沢山ついてきたが、他人がついた、人生で一番ひどいクオリティーのウソを今でも覚えている。それは小学校3年生の頃、同級生のWくん。彼は先生から「なんで算数の宿題をやってこなかったのだ?」と聞かれ、「やろうと思ったんですが……夜で部屋が暗かったので……」。酷いクオリティのウソだ。もうちょっと他の言い訳が無かったのか? クラス全員の気持ちを代弁して先生が言った。「電気をつけろ!」と。子供のウソとは言え、人生でこれ程ひどいクオリティのウソには出会ったことがない。
次によくあるウソが、自分をよく見せようとする見栄のウソ。友達の前や女の子の前で、カッコつけるウソが代表的だろう。このウソがどんどん酷くなると、周りからは虚言癖と言われだす。いまだに忘れられないのが、これも小学生の頃、友達のYくん。みんなの前で、当時子供たちに大人気だった、ねりけし(練り消しゴム。いろんな匂い付きの物が人気だった)をあろうことか、コーラの香りのねりけしが家に5キロあるとウソをつく。ねりけし5キロといえば相当な量である。そんなにある訳がない。しかしそこは子供、クラスのみんなは羨ましがり、見せて欲しいとお願いする。そしてみんなでYくんの家について行ってはみるが、一度家に入って、出てきたYくんはこう言う。「お兄ちゃんが学校に持っていってて、いま無いわ」
Yくんのお兄ちゃんは当時高校生。高校生が学校にねりけしを5キロも持っていくはずがない。しかしYくんは、毎回こう言って僕らの追及を逃れていた。その後も「ファミコンを10台持っている」とか、「家にラジコンが100台ある」とかウソをつく。しかし毎回、お兄さんが持って出ていると言い訳をするのだ。そのおかげで小学校を卒業する前には、立派な虚言癖のレッテルを貼られるようになっていた。
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ただ、この年まで私が一番ついてきたウソは、お笑い芸人として、職業的に面白くするウソ。例えば、後輩芸人に“お侍ちゃん”という芸人がいる。彼の髪型は本物の丁髷スタイル。頭のてっぺんを剃っている、マジの丁髷なのだ。普段着も着物で、彼と一緒に真夜中にタクシーに乗った時、運転手さんがルームミラーを見て悲鳴を上げたとか、ファミレスでお侍ちゃんだけが毎回水を出されないとか、そんなウソをたくさんついてきた。しかし、そこは芸人のサガ、すぐ人が笑ってくれそうなウソをついてしまう。
よくギャグで、「芸人の話は8割がウソで、残りの2割が大ウソ!」なんてことも言ったりするが、あながち間違っていない。もちろんウソは良くないが、人に笑ってもらえるウソは、これからもつき続けていくと思う。
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元グレチキ渡辺啓監督作『3人の信長』
そんなウソの話から今回のオススメ戦国映画は、2019年公開の『3人の信長』。この作品の監督が、元お笑いコンビ“グレートチキンパワーズ”の渡辺啓さん。お笑いコンビを解散なさって、その後に脚本家や漫画原作などもなさっている。
――物語は1570年(元亀元年)。織田信長は越前の浅倉義景を攻めた際、妹のお市の方が嫁いで同盟関係にあった近江の浅井長政が裏切り、背後から攻められた金ヶ崎の戦いの撤退戦から話は始まる。
信長は越前・金ヶ崎から琵琶湖の東部の朽木村を通って京都に逃げようとしていた途中、10年前に桶狭間の戦いで破った今川家の残党に捕まってしまう。山間の旧今川家臣のアジトの集落で首をはねられそうになった時、別の今川の残党が「信長を捕まえた」と飛び込んで来た。そしてさらにもう一人、別の残党が「信長を捕縛した」と報告に来る。こうしてアジトには“3人の信長”が揃ってしまい、旧今川家臣たちはどの首を刎ねていいものやら……と、かなりコメディ的な感じで始まるオリジナルストーリーだ。
3人の信長のうち1人目は、EXILE TAKAHIROさん演じる“頭の切れる”信長。2人目は、市原隼人さん演じる“人の上に立つ迫力を持つ”信長。そして3人目は、岡田義徳さん演じる“何を考えているのか全く読めない”信長。それぞれがそれぞれの言い分で、「自分が信長だ」と主張する。一体、誰が本物の信長で、誰がウソついている影武者なのか? 観ているこちら側も全くわからない。
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この物語、前半はテンポのいいコメディータッチの作品なのだが、中盤からは一変してシリアスな展開となり、所々でジーンとくるシーンもある。また脇を固める俳優陣が素晴らしく、今川の残党で旧今川家の家臣、蒲生氏徳役に“高嶋のお兄ちゃん”こと高嶋政宏さん。この方のあご髭ををたっぷり生やしたお顔は、現代人にも関わらずスクリーンを通してもしっかりとした戦国時代の人に見えるお顔立ちで、別の作品で柴田勝家を演じている時は、完璧に戦国の人に思えた。そしてもう一人、同じく旧臣の瀬名信輝を演じる相島一之さん。この方は東京サンシャインボーイズで、三谷イズムの申し子。数々のドラマや映画、舞台でいろんな役を演じて来られた名俳優。このお二人が凄いのは、コメディもシリアスも両方完璧に演じられるところだろう。この作品の中でも、笑いも取るが一変してシリアスな強面になるシーンがたまらなくいい。
そして物語のクライマックス、まさかの大どんでん返し! このストーリー展開がめちゃくちゃ面白い!! これは皆さんも是非ご覧になって、本物の信長を当てにいくことをオススメする。
きっと知らない!? 影武者にまつわる雑学あれこれ
そんな“影武者”が出てくる映画ということで、以前にも黒澤明監督の『影武者』(1980年)を紹介したことがあるが、今回はその際に書けなかった影武者の雑学を紹介しよう。実は、戦国時代には“影武者”とは呼んでいなかった。当時は影法師(かげぼうし)とか影名代(かげみょうだい)と言っていたのだ。
そして影武者は本当にいたのか? という疑問だが、もちろん存在していた。有名なところでは、甲斐の虎・武田信玄。彼の影武者は弟の武田信廉(たけだのぶかど)。彼は容姿が信玄によく似ていたため兄の影武者を務めていて、信玄の側近たちですら見分けがつかなかったと言われている。そして織田領に侵攻した西上作戦の途中で信玄が病気で亡くなる間際、自分の死を「3年は隠せ」と遺言を残したので、信廉は信玄に成りすまして武田軍団を無事に甲斐まで帰還させた。その後、信玄の死を探りに来た北条方の使者・板部岡江雪斎(いたべおかこうせつさい)に信玄として対応し、まんまと信玄は生きていると信じ込ませる。写真のない時代とはいえ、信廉は信玄の影武者を完璧に演じきったのだ。
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他に有名なのが、徳川家康の影武者・世良田次郎三郎。こちらも諸説あって本当のところはわからないが、ある時を境に本物の家康が死に、世良田と入れ替わったという説がある。入れ替わった時期にもいくつか説があって、一つ目は桶狭間の戦いの数年後、まだ家康が元康と名乗っていた頃に家臣に殺され、世良田と入れ替わった説。次が1600年の関ヶ原の戦いの時で、家康は本陣で刺客に襲われ絶命したが、このタイミングで世良田が家康になりすまし見事に勝ち戦に導いたという説。3つ目が大阪夏の陣で、真田幸村の軍勢に攻め立てられ討死にしたが、その死を隠し影武者が成りすましてなんとか誤魔化した説などがある。しかし、どれも決定的な証拠には乏しいので、本当のところはわからない。
最後に、「元の木阿弥(もくあみ)」という諺をご存知だろうか。これは“ふたたび元のつまらない状態に戻ること”を意味する諺なのだが、これも影武者に由来するのだ。
戦国時代、大和国(現在の奈良県)に筒井順昭(つついじゅんしょう)という戦国大名がいた。この順昭が死の間際に、まだ幼かった我が子の順慶(じゅんけい)が成人するまで、敵を欺くために自分とよく似ていた僧侶の木阿弥を影武者に立てて、自分の死を隠せと命じた。影武者となった木阿弥は、それから数年間は大名として贅沢な暮らしができたのだが、息子の順慶が成長したことでお役御免となり、ただの僧に逆戻り。このことから「元の木阿弥」と言う諺が生まれたのだ。
戦国時代には間違いなく影武者は存在したが、もしかすると現代でも、世界のどこかの指導者などには影武者が存在するかもしれない。
文:桐畑トール(ほたるゲンジ)
『3人の信長』はAmazon Prime Videoほか配信中
『3人の信長』
ときは永禄13年。金ヶ崎の戦いにより敗走中の織田信長の首を狙って廃村に潜んでいた元今川軍の蒲原氏徳たち。復讐心に燃えた元今川軍がついに捕らえたのは、なんと3人の信長!? 万が一、影武者の首を打ち取ってしまっては、今川家はいい笑いものになってしまう。3人のうち2人は影武者に間違いないが、今川家の威信にかけて、蒲原たちはあの手この手で本物をあぶりだそうとする。しかし真の信長を守るため、3人の信長たちも「我こそが信長」と猛アピール!!
制作年: | 2019 |
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監督: | |
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