ザック・スナイダー、ひさしぶりのゾンビ映画
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(2021年6月25日ブルーレイ&4K UHD発売、5月26日よりデジタル先行配信)が話題を呼んでいるザック・スナイダー監督の最新作はNetflixオリジナル映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』です。
そのタイトルからもわかるように、本作はゾンビ物。え、ザック・スナイダー監督がホラー? と意外に思われるかもしれませんが、実は彼の映画監督としてのデビュー作は2004年に公開されたゾンビ映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』です。
どちらも“ザ・デッド”とついていますが、続編やリメイクではありません。デビューから17年目に再びザック・スナイダー監督がゾンビ映画を手掛けたというわけですが、ここでは2004年の『ドーン・オブ・ザ・デッド』についてご紹介しましょう。
ロメロの名作リメイクで長編デビュー
この『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、1978年に製作された『ゾンビ』のリメイクです(日本公開は1979年)。元々この『ゾンビ』の原題が『ドーン・オブ・ザ・デッド(Dawn of the Dead)』でした。まずこの1978年版について説明すると、1968年にジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』(“生ける屍たちの夜”という意味)というモノクロのホラー映画を発表し、たちまちカルト映画になります。いわゆるゾンビ映画の基礎を作った作品で、「世界中で死者が蘇り人を襲う(喰う)→噛まれた人間もゾンビになる→ゾンビを殺すには頭を撃ち抜くしかない」というお約束は、この映画から生まれました。ゾンビのことを、リビング・デッド(生きている死体)ないしデッド(死体)と呼称しています。
そしてロメロ監督は1978年に本作の続編を発表します。それが『ドーン・オブ・ザ・デッド』=邦題『ゾンビ』というわけです。“ドーン”とは夜明けの意味ですから、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』=生ける屍たちの「夜」から『ドーン・オブ・ザ・デッド』=死者たちの「夜明け」に進んだわけですね。ただ、この2作は共通の登場人物が出てくるわけではないし、ストーリー的にも完全に別個。そもそも『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は当時日本未公開だったので、日本人はいきなり『ゾンビ』から入ったわけです。
この『ゾンビ』が画期的だったのは、すでに映画が始まった時から、世界中でゾンビ・パニックが起こっている状況なのです。くどくどと墓場から死体が蘇るみたいなシーンはありません。そしてショッピング・モールに立てこもったSWAT隊を中心とする生存者の一行とゾンビ、さらにここに凶悪な暴走族が乱入してきて大バトル……という筋書きです。極めてアクション映画の要素が強いホラーでした。
そして、この作品がザック・スナイダーの手でリメイクされ、2004年版の『ドーン・オブ・ザ・デッド』となるわけです。ぶっちゃけゾンビ映画はいくらでもオリジナルで作れるのに、なぜわざわざ1978年の作品をリメイクしたのか? その理由は、78年版の“ショッピング・モールでゾンビと戦う”という設定を使いたかったからだと思います。そして先にも書いたように“アクション・ホラー”だったから。逆に言えば、78年版と04年版はこの2つの要素以外、ほとんど共通点はありません。
「世界中でゾンビ・パニックが始まった→生存者たちがショッピング・モールに逃げ込む」まで映画が始まってわずか16分強で語られ、後はひたすら生存者軍団VSゾンビ軍団の戦いです。
迫力ある見せ場とシンプルなストーリー
結果的に、これはとてもザック・スナイダー監督向きの素材でした。というのも話がわかりやすいぶん、あとはどれだけ迫力のある見せ場を用意できるかに注力すればいいわけです。スナイダー監督はとにかくかっこいいシーンを撮りたい、見せたいという人だと思われるので、これくらいストーリーがシンプルな方がいい。
例えば、彼の出世作『300<スリーハンドレット>』(2007年)も“たった300人で万単位の敵の軍勢を迎えつ”というワンシチュエーションの中で、ひたすらスタイリッシュな映像が炸裂しますよね。
4時間もある『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』もストーリーはわかりやすくて、「宇宙からやってくる脅威を迎え撃つためヒーロー6人が結集する」以上のものではありません。だからこそ見ている方はストーリーを追うことに労力を使う必要はなく、ヒーローたちのかっこいい活躍をただただ楽しめばいいわけです。
逆の例が『エンジェルウォーズ』(2011年)。あの作品は、ストーリーが複雑すぎて物語をちゃんと覚えている人ってあまりいないでしょう。けれど、セーラー服姿の女の子たちのバトル・シーンは本当にかっこよかったから、そこだけが印象に残っていますよね。
ザック・スナイダー×ジェームズ・ガンのサバイバル活劇
シンプルなストーリー×スタイリッシュな見せ場、というのがザック・スナイダー監督にとって一番いいわけで、デビュー作『ドーン・オブ・ザ・デッド』はまさにそういう作品だったのです。だから04年版『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、ホラーとしてはそんなに怖くないです(こういう言い方はホラー映画に対して失礼かもしれませんが)。けれどアクションは迫力があり、グロいのにスタイリッシュであり、サバイバル活劇としては一級の面白さなのです。
なお04年版『ドーン・オブ・ザ・デッド』の脚本は、あのジェームズ・ガン監督が手掛けています。のちにザック・スナイダーが『ジャスティス・リーグ』、ジェームズ・ガン監督が『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年8月13日公開予定)と、対照的なDCのチーム物を手掛けるというのは不思議なめぐりあわせですね。また『ドーン~』ではなぜか犬が活躍するのですが、これはガン監督が犬好きだからでしょう。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』の後に、様々な話題作・大作を経験してきたザック・スナイダー監督が、最新作『アーミー・オブ・ザ・デッド』でどんなかっこいいゾンビ映画を見せてくれるのか楽しみですが、その前に彼の原点である『ドーン~』をぜひ見直してみてください。
なお、この作品でスバル自動車かなんかの広告が流れますが、確かこれはザックがCM監督だった時代に作ったコマーシャルです。あ、そうだ!『ドーン~』の主人公アナのサラ・ポーリーは、この作品の前に『死ぬまでにしたい10のこと』(2003年)の主人公アン役を演じています。偶然とはいえ、この組み合わせは面白いですね。
文:杉山すぴ豊
『アーミー・オブ・ザ・デッド』はNetflixで2021年5月21日(金)より独占配信
『ドーン・オブ・ザ・デッド』はU-NEXTほか配信中
『ドーン・オブ・ザ・デッド』
その朝、アナと夫ルイスは静かに開く寝室のドアの音に目覚めた。そこにいるのは隣家の少女ヴィヴィアン。少女は突然、人間離れしたスピードでルイスに襲いかかり命を奪う。しかし次の瞬間、死んだはずのルイスが息を吹き返しアナに向かって襲いかかってきた!パニックに陥りながらも屋外に脱出したアナが目にしたものは、隣人同士が殺し合う無法地帯だった。アナは出会った4人の生存者と一緒に無人となった巨大ショッピングモールに忍び込むが、それは本当の悪夢の始まりにすぎなかった……。
制作年: | 2004 |
---|---|
監督: | |
出演: |