火災現場から発見された謎のビデオ
古くはターザンやジャングル・ブック、仮面ライダーアマゾン、最近では「鬼滅の刃」で猪の頭にマッチョボディの嘴平伊之助など、“獣に育てられた子供”は多くのフィクション作品で題材にされてきた。原題『feral』(「野生」という意味)をインパクト抜群の邦題『野良人間 獣に育てられた子どもたち』として世に放たれる本作も、そんな「野生児(feral child)」を題材にした作品だ。
舞台はメキシコのオアハカ。といえば、ピクサー作品『リメンバー・ミー』(2017年)の舞台モデルにもなった美しい街。そこからかなり離れた郊外、人里離れた山奥の一軒家で火災が発生した。身元不明の大人1人、子供3人が死亡、火事の原因は不明……という謎に包まれた火災事故から30年が経った現在。過去の未解決事件を扱うテレビ番組取材班は、事件を追うなかで火災現場で撮影された謎のビデオを発見する。そこに映っていたのは、檻の中でうずくまる、獣のような子供だった……。
元聖職者の男が野生児に教育を施していた……!?
ファウンド・フッテージ形式で、火災事件の鍵を握る男・ファンに迫る本作。ファンが撮影していたヤバめの映像と、彼を知る人物たちのインタビューから、ファンの狂気が次第に明らかになってゆく。その語り口はかなり重厚で、修道院生活を送っていた元聖職者のファンが、とあるキッカケで修道院を追い出される過程などは「野良人間、早く出てこいよ!」なんて思うことなく見入ってしまう。
そして、長きにわたって禁欲生活を送っている者が、真逆の野生生活を送ってきた子供と出会うことから奇妙な新生活がスタート。ファンは野生児に教育を施し文明を仕込んでゆく。霧深く美しい森のなか、何も知らない野生児を川に浸水させて洗礼をするシーンがなんとも不穏で禍々しい。
本作のテーマである「宗教」と大いに関係する植民地化を連想させる、この流れ。映画の舞台であるメキシコもアステカ、マヤ文明が栄えていたが、16世紀以降はスペインの植民地であった。ちなみに本作ではメキシコ先住民も出演している。
ジットリ後効きの恐怖! 完成度の高いフェイク・ドキュメンタリー
というわけで、この映画、邦題のインパクトから「人里離れた森の中に暮らす野生児が現代人を襲いまくるホラー」だと思い込んじゃうと肩透かしをくらうかもしれない。しかし、単純明快ではないぶん後でジットリ効いてくる恐怖というのもある。本人は神か何かに導かれているようで、側から見れば完全に見失っている姿というのは怖いものだ。
ファンと野生児の暮らしっぷりを描くだけで終わらず、後半に用意されたもう一捻りのハッタリが、さらに作品の不穏さを増す完成度の高いフェイク・ドキュメンタリー。それこそ子供になんか見せたら絶対に信じちゃうほどのリアルな作りなので、取り扱い要注意だ。
文:市川力夫
『野良人間 獣に育てられた子どもたち』は2021年5月21日(金)より全国公開
https://www.youtube.com/watch?v=-uOBAPyHw-I&feature=emb_title
『野良人間 獣に育てられた子どもたち』
1987年、南西部の都市オアハカ郊外の人里離れた山岳地帯の民家で火災が発生し、家屋は全焼、焼け跡から1本のビデオテープが発見される。その後紛失するが、2017年に見つかり、約30年ぶりに真相が明らかになる。ビデオに映っていたのはまるで野獣のように野生化した子どもたちだった!
30年前、そこで一体何が行われ、何が起きたのか? なぜ、子どもたちは野生化し、どうやって獣のように生きてきたのか? 彼らは被害者なのか? それとも……?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
2021年5月21日(金)より全国公開