お笑い芸人、絵本作家、オンラインサロンのオーナーなど、幅広い分野で活躍するキングコング・西野亮廣さん。芸能界という枠を軽々と飛び越え多彩なコンテンツを送り出しています。「ディズニーに勝つ」とおっしゃる西野さんのロジックとは?(インタビュー全3回)
ライバルは『パイレーツ・オブ・カリビアン』
あんま、こういった類の(企画)で「『パイレーツ・オブ・カリビアン』オススメです」っていうの、なくないですか?(笑)。好きなんですよね~。単純にストーリーが面白かったっていうのもあるんですけど、なんかちょっと、こういった映画を観たときに一瞬マヒってしまうんですよ。
つまり、これは僕たちとは全く違う異次元の生き物が作ったもので、僕たちが作るサイズのものではないっていうモードに入りがちなんですけど、「いやいやそんなことない」と思って。やっぱ、おんなじ人間が作ってて、うまいことシステムを作って、うまいこと才能を集めて、むちゃくちゃ努力して、むちゃくちゃお金集めたら、これ僕らでも作れるはずだって。なんか戒めとして、基本的に『パイレーツ・オブ・カリビアン』は競争相手だぞっていうのは……ちょっとありますね。
どうしても、それこそ芸人で活動してたら「ライバルは誰なんですか?」って話になったら、例えば「NON STYLEです」とか「ウーマンラッシュアワーです」とかなっちゃうじゃないですか。そういう人たちは当然、切磋琢磨しなきゃいけない相手ではあるんですけど、同じように『パイレーツ・オブ・カリビアン』も当然、自分も何か2時間ぐらい人の時間を奪うような作品を作るわけじゃないですか。ってなったときに、比べる対象として「ここに負けてちゃだめだな」っていう。あと、このサイズのものを作れるようになっとかなきゃだめだな~と思って、その戒めとしてよく観てますね。
「すげーな!」と思うんですけど、一方で「ちょっと待って。僕が作ろうと思ったら、あとどの問題をクリアしなきゃいけないんだ?」っていう。「色々クリアしなきゃいけないことが多いぞ」と思って。それこそ日本だと、どうしても“アイデア勝負”になりがちじゃないですか。それもすごくいいんですけど、規模でもちゃんと太刀打ちできるようにしておきたいなって。たぶんそのためには色々、もうシステムから整えなきゃいけないんだろうなと。
例えば、いちタレントが映画を作りたいって言っても作れないんで。出資する会社がいて、製作会社みたいなのがあって、そんな枠の中で作るみたいなものになる。じゃなくて、この規模のものを作ろうと思ったら、まずは個人で大きいお金を動かすことができるようにしとかないと、この規模の映画を作る“切符”をもらえない。だからシステムから作らなきゃいけないんだろうなっていうのがあって。そういうことで、なんか“ライバル”になってますね。
ハリウッドやディズニー規模の作品を作るには“時間割り”が必要
『パイレーツ・オブ・カリビアン』はDVDだとメイキングがむちゃくちゃ面白くて。なので、それを観るたびに思いますね。この規模のものを受け手として、要はお客さんとして観るだけじゃなくて、ちゃんと自分たちも作れるようになっておこうっていう。そういうことを考えたときに、自分の仕事の仕方だとか、1年のスケジュールの切り方は変えていかなきゃいけないんだろうなって。極端な話、レギュラー番組で1週間埋めてしまったら絶対に作れないんで。
結局、規模の話になってきたら自分の時間割をちゃんとしないと到達できないんで。それは結構、思いましたね。仕事をちゃんと整理して、ここに届く、そして超えられる時間割をちゃんとしていこうっていうのは決めましたね。でもハリウッドとかディズニーとかも作ってる人がいるから、基本的に再現可能であると思っていて。まずシステムから作んないと作れないんだろうなとは思いますけど、だからこういう規模の作品が産めるシステムをちゃんと作っておこうっていうのは、すごく意識してますね。
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— 西野亮廣(キングコング) (@nishinoakihiro) December 22, 2020
―西野さんの発言にも「ディズニーに勝つ」というのがありますが。
なんか言っちゃってるんですよ、はい(笑)。ディズニー好きなんですよ? むちゃくちゃ好きなんですけど、やっぱそこは“神様”みたいなことではなくて、エンターテインメントを作ってる人間として、まあ端くれですけど、そこはライバル/競争相手に置いとかないと、自分のことを応援するお客さんが、まず夢を持てないなっていうのがあるので。「えっ、西野って応援しても結局ディズニーよりスケール小っちゃいもの作っちゃうの?」「だったらディズニー応援するよ」っていうことになっちゃうんで。「いやいや僕、超えるよ」っていうのは一応、狙ってますね。
三谷作品は大好きすぎて…僕が作ったことにならへんかな(笑)
三谷さんが本当に好きすぎるんで……(笑)。中でもやっぱ『ザ・マジックアワー』が一番面白かったっすね。お話も、もちろん圧倒的に面白かったですけど、やっぱあの世界が良かったです、美術と。
―種田陽平さんによるセットですね。
最高でしたね! どこだっけな……守加護! あの架空の港町が良かったんですよね。あと、V字の建物が、なんか良かったんですよね。
―『お熱いのがお好き』に通じるものが、かなりありますね。
やっぱりそういう世界感が好きですね。あと三谷さんの映画は舞台の匂いがしてすごい良いですね。もう、ほんとに色っぽいなっていう。舞台の人が作った映画っていう感じがしてて、なんかそれを悪く言う人がいるんですけど、全然そんなこと思わなくて。「いや、これで良いじゃん、板の匂いすんじゃん!」みたいなのが、むちゃくちゃ好きっすね。
―本作には「人生のマジックアワーってなんだろう?」というメッセージもあると思います。
「この主人公に光を当てるんだ!?」っていうのが、やっぱ希望でしたね。大スターばっかりじゃなくて、ずっと地道に地道に頑張ってきて……っていう人に最後にバッと光が当たって、しかもその頑張りを周りのスタッフさんはずっと見ていて、みんなで応援するみたいな感じは、なんかもう……泣きました! 楽しすぎて、嬉しすぎて。感動して泣くってあんまないので、なんか良いもの観たときとか「もう嬉しい!」ってなったときにポロってなっちゃうんですけど、『ザ・マジックアワー』は泣きましたね。
あと、最後に出てくる職人さんがカッコよかったですね。『ザ・マジックアワー』ほんとに大好き。自分が作ったことにしたいです(笑)。たまにあるんですよね、僕が作ったことにならへんかな? っていう、そんなやつの一つですね、ちょっと三谷さんに会ったら言っといてください、「何とかならんか?」って(笑)。
―影響を受けたりしましたか?
『ザ・マジックアワー』に限らず、三谷さんの作品にはずっと影響は受けています。なんか、年齢を重ねれば重ねるほど「楽しいって良いな」みたいなのが結構、強めに出てきましたね。三谷さんがいる時代に生まれて良かったっていうのは、ほんと思いますね。「この人がいる時代に生まれて良かったな」みたいなのは何人かいるんですけど、三谷さんもその一人です。
―西野さんは「はねるのトびら」で全国区になられたと思いますが、当時の喧騒をいま振り返ると?
「はねるのトびら」はハタチの時にスタートしたんですよ。デビューして1年経った時で、ほんとに右も左もわからないまま、いきなり番組の司会進行みたいなのを任されて。「参ったな~」とか思いながら、手探りで「テレビってこんなのかな?」って感じでやってて。
頑張って上に上がろう! って皆で言っていて、25歳の時にゴールデンに上がって。それで視聴率も毎週20パーセントとか取って、「あ、すごいことになってきたねー」みたいな感じだったんですけど、もうその時に「もうこれ限界きたな」って思って。生活も良くなったし、ちやほやされるようになったんですけど、「スターにはなってないな」って思って。つまり、その山を登ったらもうちょっと景色が広がるものだと思ってたけど、そこから見えたのは、たけしさんとかさんまさんとかタモリさんの背中であって、彼らのことを追い抜いていなかったし、一番の問題は“追い抜く気配”も無かった。
で、このまま5年やって10年やって「抜けるな」って思ってたら多分やってたと思うんですけど、その気配が見えなくて、もうここにいても「無いな」と思ったので、すぐに梶原くんとマネージャーとか色々な偉い人呼んで、「一旦、僕はテレビから軸足を抜く」って言ったのが25歳ですね。
二人とも"日本一"のキングコングhttps://t.co/Y7XaiXX8ra
— キンコン西野の『西野亮廣エンタメ研究所』 (@nishinosalon) December 21, 2020
―そこで芸能界というか、お笑いとの距離を考えるようになった?
このままやってても、何者にもならないまま終わる。要はなんとなく「テレビの世界にはいるんだろうな~」っていうのは想像ついたんですけど、とてもとても“世界をエンターテインメントでグワッて揺さぶってる奴”になってる想像はつかなかったので、「あ、ここじゃないんだな」と思って。そこから軸足抜きましたね、なんか。
―やりながらも、違う方向も見始めた?
そうですね、ちゃんと世界を見ようと思ったことがデカかったですね。「テレビから一回軸足抜く」って言って、まぁレギュラー番組はすぐにやめられないんですけど、かと言って新しく番組を取りにいくっていうことは一切せずに、ちょっとずつテレビを減らしていこうってなってて。25歳の時に、ただゲストで出ることはやめよう、ひな壇だとかグルメ番組とかは一切やめようって。
それですごく時間が空いたので、それまでできなかった映画を観倒すだとか、映画館通いまくるだとか、さっきの『お熱いのがお好き』を観たりだとか。その時にタモリさんに飲みに誘われて。そこで「お前、絵描け」ってタモリさんに言われて。特に他にやること決まってなかったんで、まぁちょっとやってみようかな? みたいな。そこでしたね。