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稲垣吾郎が実在の死刑執行人を熱演! 舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 ~劇場が再開されるその時まで、歩みを止めない~

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ライター:#石津文子
稲垣吾郎が実在の死刑執行人を熱演! 舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 ~劇場が再開されるその時まで、歩みを止めない~
『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』

裏「ベルばら」な激動の物語!

フランス革命に揺れる18世紀末のパリで、国王ルイ16世、マリー・アントワネット、ロベスピエールら3000もの首を刎ねたのは、たった一人の死刑執行人だった――。

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』

稲垣吾郎主演の舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』。稲垣が演じるのは“ムッシュー・ド・パリ”と呼ばれた、実在の死刑執行人シャルル=アンリ・サンソン(1739−1806)。世襲制である処刑人の家に生まれたが、優秀な医師でもあり、敬虔なカソリック教徒で死刑廃止論者でもあったサンソン。敬愛する国王をギロチンにかける自分の宿命に苦悩しつつも、法の下の平等を重んじ、誇りを失わぬ男だ。

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 撮影:田中亜紀

サンソンが15歳で父(榎木孝明)の後継者となった頃、痛みの少ない斬首刑は貴族の特権だった。やがて、平等で人道的な苦痛の無い方法として、ルイ16世(中村橋之助)の支援もあり、ギヨタン教授(田山涼成)の発案でギロチンが開発された。それに一役買うサンソンだが、結果的に死刑が容易になってしまうという矛盾に苛まれる。また彼は色男でもあり、青年時代の愛人はルイ15世の寵姫となるデュ・バリー夫人(智順)だったが、その首も刎ねることにもなってしまう。革命の嵐の中、国王や王妃の処刑に人々は熱狂する。一方、革命派のロベスピエール(榎木孝明、二役)やサン=ジュスト(藤原季節)も、断頭台に上ることになっていく。

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 撮影:田中亜紀

いわば裏「ベルサイユのばら」とも言うべき激動の物語を、プロジェクションマッピングを生かしたセット、華麗な衣装と共に、陰影豊かに演出するのは白井晃。白井と、脚本の中島かずき(劇団☆新感線)、音楽の三宅純は、稲垣がベートーヴェン役で再再演を重ねた『No.9 ─不滅の旋律─』と同じチームだ。

サンソンの生きた時代はベートーヴェンとも重なり、二人とも軍人であるナポレオンと関わることも興味深い。サンソンは「軍人と死刑執行人に違いはあるのか」と問う。国のために人を殺しているのだから立場は同じなのに、軍人は尊敬され、死刑執行人は蔑まれる。それは『チャップリンの殺人狂時代』(1947年)のセリフを思わせる。「戦争はビジネスだ。一人殺せば犯罪者、百万人なら英雄になる。数が殺人を神聖化するのだ」と言うのは、死刑囚を演じるチャップリンだ。人類はいつも同じ矛盾に苛まれている。

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』

「死刑執行人“サンソン”は、ぜひ演じてみたいと思っていた人物」(稲垣)

原作はフランス文学者である安達正勝の「死刑執行人サンソン」(集英社新書刊)。サンソンは坂本眞一の人気漫画「イノサン」のモデルであり、稲垣が坂本と「ゴロウ・デラックス」(TBS)で対談したことから、この舞台が生まれたという。稲垣自ら発信した企画であり、新たな代表作となった。

フランス革命期に実在した死刑執行人“サンソン”は、僕がぜひ演じてみたいと思っていた人物でもあります。重い時代の中でも、社会を良くするために職務に忠実に生きた、サンソンという人物を精一杯演じたいと思います。(稲垣吾郎)

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 撮影:田中亜紀

初日前日の公開ゲネプロ(本番と全く同様に行う最終リハーサル)を観たが、冒頭、稲垣が群衆の中からマント姿で現れた瞬間から、観る者は18世紀の血生ぐさいパリへと誘われる。見事な導入だ。いくつもの矛盾に葛藤しながらも、裁きの代行者としての冷静さ、気高さ、そして人間としての純粋な痛みを、稲垣は繊細に表現する。激情型のベートーヴェンが赤だとしたら、サンソンの稲垣はまるで青のグラデーションを見るようだ。空色からロイヤルブルー、そして紺碧まで、どんどん深まっていく。ルイ16世役の中村橋之助も、浮世離れしつつ慈悲深い国王がはまり役だ。

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 撮影:田中亜紀

舞台は2021年4月23日に東京で開幕したが、緊急事態宣言を受けて、28日から15公演の中止を決定。しかし稲垣も、共演者もスタッフもその歩みを止めてはいなかった。休演中も舞台稽古を行い、さらにメッセージ動画を制作した。

https://www.youtube.com/watch?v=EUStqBPboI0

舞台の中心には、稲垣演じる目を閉じたままのサンソン。その姿は、休演を余儀なくされた劇場の象徴だ。そこへ、中村橋之助、榎木孝明をはじめとしたキャストたちが入れ替わり立ち替わり現れ、メッセージを届ける。最後は目を開いた稲垣が「劇場が再開される時まで、止まらず歩み続けます。また、必ず劇場でお会いしましょう」と語る。動画の台本は演出の白井晃が自ら執筆、演劇やエンタテインメントへの想いを熱く伝えている。

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』 撮影:田中亜紀

『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』はこの後、2021年5月21日(金)から24日(月)まで大阪・オリックス劇場、6月11日(金)から13日(日)まで福岡・久留米シティプラザ、24日(木)から27日(日)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場にて上演される。大阪、福岡、神奈川公演が無事行われることを祈ろう。

※緊急事態宣言の延長に伴い、大阪公演の中止が決定。詳しくは公式サイトにて。

取材・文:石津文子

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『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』

彼の名はシャルル-アンリ・サンソン。パリで唯一の死刑執行人であり、国の裁きの代行者として“ムッシュー・ド・パリ”と呼ばれる誇り高い男だ。パリで最も忌むべき死刑執行人と知らずに、騙されて一緒に食事をしたと、さる貴婦人から訴えられた裁判で、シャルルは処刑人という職業の重要性と意義を、自らの誇りを懸けて裁判長や判事、聴衆に説き、弁護人もつかずたった一人で裁判の勝利を手にする。このときには父・バチストも処刑人の名誉を守ったと勝利を祝う。

だが、ルイ15世の死とルイ16世の即位により、フランスは大きく揺れはじめ、シャルルの前には次々と罪人が送り込まれてくる。将軍、貴族、平民。日々鬱憤を募らせる大衆にとって、処刑見物は、庶民の娯楽でもあった。

己の内に慈悲の精神を持つシャルルは、処刑の残虐性と罪を裁く職務の間で、自身の仕事の在り方に疑問を募らせていく。

そこに、蹄鉄工の息子ジャン-ルイによる父親殺し事件が起こる。実際は彼の恋人エレーヌへの、父親の横恋慕がもつれた事故なのだが。彼を助けるべく友人たち、チェンバロ職人のトビアス、後に革命家となるサン-ジュストらが動き、シャルルはそこでさらに、この国の法律と罰則について深く考えることになる。

さらに若きナポレオン、医師のギヨタンら時代を動かす人々と出会い、心揺さぶられるシャルルがたどり着く境地とは……。

制作年: 2021
出演: