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デイヴィッド・バーン×スパイク・リーが贈る『アメリカン・ユートピア』は豊潤な音楽にメッセージも満載の「映画館で観るライブ」だ!

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ライター:#佐藤久理子
デイヴィッド・バーン×スパイク・リーが贈る『アメリカン・ユートピア』は豊潤な音楽にメッセージも満載の「映画館で観るライブ」だ!
『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

『ストップ・メイキング・センス』の衝撃ふたたび!

2017年に他界したジョナサン・デミ監督が、1984年に制作したトーキング・ヘッズのライブ・フィルム、『ストップ・メイキング・センス』は、音楽映画ファンのなかで語り継がれるほどのカルト作品になっている。

https://www.instagram.com/p/BetB6G5l6kE/

当時トーキング・ヘッズといえば、「ワンス・イン・ア・ライフタイム」や「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」などのヒット曲を連発した、ニューヨーク・ニュー・ウェイブを代表するインテリ・バンド。彼らのエッジの効いたステージを、デミ監督はエネルギッシュなライブ感を損なうことなく、巧みに切り取っている。とくにデイヴィッド・バーンの足元から始まる冒頭のシークエンスは、最高にクールだ。

こうしたライブ・フィルムが存在するだけに、まさかこれに勝るとも劣らない映画が今日、再び作られる日が来ようとは、まったく思ってもいなかった。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

デイヴィッド・バーン×スパイク・リー

新作『アメリカン・ユートピア』は、元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンが11人のバックバンドを率いておこなった同名アルバムのワールドツアーを、その後ブロードウェイで再演したものを、スパイク・リーがフィルムに収めたものだ。映画化のアイディアをバーンが自らリーに相談したのがきっかけだという。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

じつは、わたしはこのワールドツアーがパリにやってきたときに生で鑑賞しているのだが、客席が総立ちになり、とにかく盛り上がった。ショーというより「演劇的なライブ」と言った方がしっくりくるかもしれない。メンバー全員が同じスーツを着て裸足で登場し、キーボードもドラムもギターもすべてコードレスの手持ちで、縦横無尽に動き回るダンサブルな内容。バーン自ら「みなさん、今日はわたしたちと一緒に踊り、楽しんでください」と観客にスタンディングを促したので、観る方も心置きなく立ち上がって踊ることができたのである。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

冒頭、「Here」のイントロとともに舞台の照明が点くと、歌詞に合わせるように、テーブルに置かれた大きなプラスティックの脳をバーンが手にとって歌い出す。曲が終わると、「こんな記事を読んで驚きました。赤ん坊の脳内には、神経細胞間のつながりが大人より多く存在するそうです。人間は成長するにつれ、バカになるのでしょうか?」と観客に語りかける。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

MCがほとんどなく、飛ばしまくっていたトーキング・ヘッズ時代に比べると、今回のショーはかなりMCも含まれている。それはこのツアーが、アメリカの大統領選を控えていた2018~2019年だったということもある。もともと「アメリカン・ユートピア」というアルバム名からもわかるように、バーンはトランプ大統領時代のもとで増長した人種差別、ヘイトクライムに包まれた社会に警鐘を鳴らしているのだ。MCで選挙投票の大切さを語っているのも印象的だ。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

「僕たちがいるのはユートピアではないが、それを実現できる可能性についても伝えたい」

そうしたコンセプトのもと、今回はバンド自体もさまざまな国籍の人々が集められている。大所帯の彼らが自在に動き回りながら演奏するだけでも圧巻だが、素晴らしいのは、まるでミュージカルのようにひとりひとりの動きがきちんと統制され、全体として見事なステージングになっている点だ。ここまで完璧なパフォーマンスを統率したバーンは、見事という他はない。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

さらにこのライブ・フィルムを観れば、バーンがなぜスパイク・リーに監督を依頼したのかがわかるはずだ。正直、最初にこの組み合わせを聞いたときは、意外な気がしなくもなかった。バーンの出自はパンク、ニュー・ウェイヴ、一方リーの映画といえばやはりラップ、ファンクのイメージが強いからだ。だが、リーはリズム感抜群の監督である、と同時に、なんといっても今回のテーマへの共鳴があったからだろう。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

ショーのクライマックスでバーンは、ジャネール・モネイのプロテスト・ソング「Hell You Talmbout」をカバーし、アメリカで警官に殺された黒人の犠牲者たちを次々にバックスクリーンに映し出していく。ここまでダイレクトなメッセージ性は、かつてのステージにはなかった。バーンは今回のツアーについて、「これまでのものとは異なり、いま世界で起きていることを表現したかった。ミュージシャンとして、これまでより責任のある行動に出たかったんだ。僕たちがいるのはユートピアではないが、それを実現できる可能性についても伝えたいと思った。言葉で語るのではなく、それを見ることができるように」と語っている。

こんな貴重な体験を誰もが味わえる機会を作ってくれたバーンとリーに、感謝の念を抱かずにはいられない。

『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

文:佐藤久理子

『アメリカン・ユートピア』は2021年5月7日(金)より全国公開

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『アメリカン・ユートピア』

映画の原案となったのは、2018年に発表されたアルバム「アメリカン・ユートピア」。この作品のワールドツアー後、2019年秋にスタートしたブロードウェイのショーが大評判となった。2020年世界的コロナ禍のため再演を熱望されながら幻となった伝説のショーはグレーの揃いのスーツに裸足、配線をなくし、自由自在にミュージシャンが動き回る、極限までシンプルでワイルドな舞台構成。マーチングバンド形式による圧倒的な演奏とダンス・パフォーマンス――元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと11人の仲間たちが、驚きのチームワークで混迷と分断の時代に悩む現代人を“ユートピア”へと誘う。

この喜びと幸福に満ちたステージを、『ブラック・クランズマン』でオスカーを受賞し、常に問題作を作り続ける鬼才・スパイク・リーが完全映画化。80年代の傑作『ストップ・メイキング・センス』から36年。アメリカ全土を巻き込んだ熱狂が今、日本に緊急上陸! かつて誰も見たことのない、全く新しいライヴ映画が誕生した。これは、更なる進化を続けるデイヴィッド・バーンからの、迷える今を生きる私たちの意識を揺さぶる物語であり、熱烈な人生賛歌である。

制作年: 2020
監督:
音楽:
出演: