格闘アクションの名作群のDNA
新時代のマスターピースとなる映画というものがある。アクション映画の世界では常に新しい才能が意欲的な作品を発表し、その作品が後に続く新たな才能を刺激して歴史が常に更新され続けている。
かつてはブルース・リーの『燃えよドラゴン』(1973年)があり、ジャッキー・チェンの『ドランクモンキー/酔拳』(1978年)、ジェット・リーの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ(1991年ほか)、トニー・ジャーの『マッハ!』(2003年)、ドニー・イェンの『SPL/狼よ静かに死ね』(2005年)、イコ・ウワイスの『ザ・レイド』(2011年)といった作品群が、エポックメイキングなアクションで後続に多大なる影響を与えてきた。
こうした作品やクリエーターのDNAを受け継ぎ、それを発展させて唯一無二の、まさにマスターピースとなった作品がチャド・スタエルスキ監督、キアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』(2014年)である。
格闘家でもあるチャド・スタエルスキ監督とブランドン・リーの交流
スタエルスキは少年時代からブルース・リーの大ファン。ブルース・リーの盟友であり、リーの創始したジークンドーを伝えるダン・イノサント師のイノサント・アカデミーで武術を学んだスタエルスキは、イノサント・アカデミーの高弟である中村頼永師がUSA修斗の代表であったこともあり、プロシューティングでMMA選手としても活動していた経歴を持つ、本物の格闘家だ。
同じくイノサント・アカデミーで武術を学んでいたブルース・リーの遺児ブランドン・リーと仲が良く、その縁でスタントマンとして映画界入りすることになる。ブランドン・リーの遺作である『クロウ/飛翔伝説』(1994年)で、撮影中のアクシデントによって主演のブランドンが死去してしまった際には、悲しみを乗り越えてスタエルスキがブランドンの代役を務め、残りの撮影を行って作品を完成させている。
そしてスタントマンとしての腕を買われて参加した『マトリックス』(1999年)では、主人公ネオを演じたキアヌ・リーヴスのスタントダブルを担当。また『マトリックス』は香港映画に造詣が深いウォシャウスキー姉妹が監督を務めたこともあり、香港から『酔拳』『ワンチャイ』の武術指導家ユエン・ウーピンと彼のスタントチーム袁家班が参加し、ウーピンのアクション設計と常にチームとして効率的にスタントをこなす袁家班のスタイルは、スタエルスキに多大なる影響を与えることになる。
イノサント・アカデミー時代の友人で、スタントマン仲間でもあるデヴィッド・リーチ(『アトミック・ブロンド』[2017年]『デッドプール2』[2018年]の監督)と共に、すでにスタントチーム<87イレブン・アクション・デザイン>を設立していたスタエルスキは、『マトリックス』での経験からチームをさらに発展。『エクスペンダブルズ2』(2012年)や『ハンガーゲーム』シリーズ(2012年ほか)の第2班監督として現場での経験を積み、ついに『マトリックス』以来親交のあったキアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』で監督デビューを果たしたのであった。
キアヌ再々ブレイクのきっかけとなった傑作『ジョン・ウィック』
『ジョン・ウィック』は、まさにアクション馬鹿であるスタエルスキ監督の集大成的な作品。銃と格闘を組み合わせた超近接戦闘アクションを「ガン・フー」と名付けて大々的に展開して無敵の殺し屋ジョン・ウィックの戦いにリアリティを与え、さらにガンアクションやカーアクションも尋常でないテンションで連発。息をつくヒマもないとはまさにこのことである。また本作に向けて、徹底的に銃と柔道のトレーニングを行ったキアヌの流れるようなアクションも素晴らしく(マガジンチェンジの動作は完璧!)、キアヌが3回目のブレイクを果たすきっかけとなっている。
『ジョン・ウィック』以降、アクション映画の潮流は明らかに変わった。そんなエピックな作品『ジョン・ウィック』が、CS映画専門チャンネル ムービープラスの「副音声でムービー・トーク!」で放送される。映画木っ端微塵クルー(多田遠志氏、てらさわホーク氏と、わたくし高橋ターヤン)が副音声で与太話満載な解説をする番組は2021年4月19日(月)放送。是非ご覧頂きたい。
文:高橋ターヤン
『ジョン・ウィック』
裏社会にその名を轟かせた伝説の殺し屋ジョン・ウィックは愛に目覚めて引退し、妻と共に平穏な日々を送っていた。だが妻が死亡し、その忘れ形見までもロシアン・マフィアの手によって散ってしまう。愛するものすべてを失ったジョンは怒りに身を任せ、たった1人で復讐に立ち上がる!
※映画雑誌やイベントで活躍の人気ライター多田遠志、てらさわホーク、 高橋ターヤンの3名による副音声解説が楽しめます!
制作年: | 2014 |
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監督: | |
出演: |
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