じっくり染みる『ザック・スナイダーカット』
まず最初に、噂の『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(以下『スナイダーカット』)は、本当に素晴らしい作品でした。けれど僕は劇場版の、つまりジョス・ウェドンが完成させた劇場版『ジャスティス・リーグ』(2017年:以下『劇場版』)も好きです。従って『劇場版』は✕、『スナイダーカット』は〇ではありません。そもそも両者を比べて優劣をつけることはできないでしょう。
ジョス・ウェドンは、とにかくあの状況の中で“短く・明るい”ものにして欲しいという映画会社のオーダーによく応えたと思います。2時間でうまくまとめました。一方、スナイダー版は配信だから4時間という尺が可能になった。条件と状況が違う中で、それぞれが最適な『ジャスティス・リーグ』を作って楽しませてくれた、と思っています。あえて言うなら『劇場版』はテンポの良いヒーロー・エンタテインメントであり、『スナイダーカット』はじっくり染みるヒーロー・エピックです。
4時間の超大作、だけどストーリーはとてもシンプル!
ストーリーは『劇場版』とそんなには変わりません。はるかな昔、宇宙から魔人とその軍隊がやってきて地球を襲います。その時はワンダーウーマンの母たちアマゾン族、アクアマンの先祖アトランティス、そして人間たちの連合が神や太古のグリーン・ランタンらの助成もあって、なんとか撃退しました。その際、魔人はマザーボックスという恐るべきパワーを秘めた3つの箱(型のデバイス)を地球に置いてきてしまいます。そしてアマゾン族、アトランティス国、人間がそれぞれ箱を分担して預かり守り(隠し)通すという誓いを立てます。
時は流れ現代、その魔人が再び地球を襲う。マザーボックスを取り返すために。宇宙からの脅威に気づいていたブルース・ウェインことバットマンは、この地球上にいる超人(ヒーロー)たちを集め、魔人を迎え撃つべく奔走します。そうしてバットマンのもとに集まったのは、ワンダーウーマン、フラッシュ、アクアマン、サイボーグ。しかし、こういう時に一番いて欲しいスーパーマンは死んでいる。魔人との戦いにスーパーマンがいてくれたら……と思うバットマンたちは、ある計画を立てます。それはマザーボックスでスーパーマンを蘇らせることでした。
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4時間ありますが、ストーリー自体はこのようにとてもシンプル。その違いは、まず『劇場版』の“魔人”はステッペンウルフでしたが、『スナイダーカット』ではかつて地球を襲ったのはダークサイドというヴィランであり、その手下のステッペンウルフが現代の地球に来ようとしています。つまりボスキャラがいるわけです。なお、中ボスとなったステッペンウルフの造形はより凶暴でゴージャスになっています(彼を覆う鎧がすごいことになっていて、メタリックなデビルマンのようです!)
そして各ヒーローの出番が長い。例えばフラッシュは『劇場版』では丸々カットされた、後に彼の恋人となるアイリスとのドラマチックな出会いが描かれるし、ワンダーウーマンも銀行を襲ったテロリストを退治した際、人質だった女の子との心のふれあいまでが描かれます。そして劇的に出番が増えたのがサイボーグ。有望なアメフト選手だったビクター・ストーンは、事故で瀕死の重傷を負います。科学者であり偶然にもマザーボックスを研究していた彼の父は、その力を使って息子を生き返らせます。そうして機械人間サイボーグが生まれる。つまり、今回のヒーローの中でマザーボックスと直接関わっているのがサイボーグであり、彼がマザーボックスの力で蘇ったという設定がスーパーマン復活計画につながる大きな伏線となります。
僕は、この物語の事実上の主役はサイボーグなのだと思いました。ビジュアル的にもさらにCGに手を加えたみたいで、マシーン人間としてのすご味がUPしています!
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『300』『ウォッチメン』のスナイダー節が炸裂!
繰り返しになりますが、わかりやすいストーリー(前作『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』[2016年]より話は単純)を、かっこいいシーンで綴っていくという印象です。もともとこういう方がザック・スナイダー監督にはピッタリ。彼の大傑作『300 <スリーハンドレッド>』(2007年)も300名のスパルタ兵がペルシア軍を迎え撃つ、というワンシチュエーション的な設定があって、後はひたすらCOOLで燃える場面の連続でしたよね。
また、アクションについて『劇場版』よりキレがあるのはR指定だからでしょう。例えばワンダーウーマンはヒーローというより戦士で、“敵を倒す”というより“敵を殺す”という感じです。またスーパーマンも『劇場版』より怖い印象。だから彼を本当に蘇らせて良かったのか? というのが重要なポイントになっています。『ザ・ボーイズ』(2019年~)のホームランダーに通じる不気味さを持っていますね。
『劇場版』にあった、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を意識したと思われる、ちょっと笑えるシーンやヒーロー同士の微笑ましい絡みは皆無です。これらのシーンが『スナイダーカット』にないということは、ジョス・ウェドンが付け足した場面だったからでしょうね。つまりジョス・ウェドンはMCU的なヒーローの人間味を『ジャスティス・リーグ』に持ち込もうとしていたのだと思います。
けれど『スナイダーカット』は、つまりザック・スナイダーはそういう緩さをあえて否定した。トーンとしては、彼の撮った集団ヒーロー物『ウォッチメン』(2009年)に近い。例えて言うなら、ジョス・ウェドンが『ジャスティス・リーグ』を『アベンジャーズ』的に仕上げたのが『劇場版』、ザック・スナイダーが『ジャスティス・リーグ』を『ウォッチメン』的に仕上げたのが『スナイダーカット』、ということでしょうか。
大人の男たちではなく、女性と若い世代が世界を救う
興味深かったのは、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマン、アクアマンは大人、フラッシュ、サイボーグは小僧なわけですが、『スナイダーカット』ではフラッシュ&サイボーグ組が、クライマックスで極めて重要な役割を果たします(この最後の展開は『劇場版』と全然違います)。
また、一番戦っている印象があるのがワンダーウーマン。つまり大人の男たちではなく“女性と若い世代が世界を救う”というところが新鮮でした。最後は、ファン狂喜の“もう一人のヒーロー”が登場します!
あっというまの4時間。けれど、もっと観たいと思わせる240分。とにかくじっくり、たっぷりDCヒーロー世界の醍醐味を味わえる、それが『スナイダーカット』です。
最後に。改めてベン・アフレックのバットマンはかっこいいと思いました。本作で再評価され、アフレック版『バットマン』を是非また作って欲しいです!
文:杉山すぴ豊
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』は2021年初夏、デジタル配信&ブルーレイリリース
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
2017年に公開され、全米NO.1大ヒットを記録した『ジャスティス・リーグ』の製作中に降板したザック・スナイダー監督が、初期構想に基づき追加撮影・再編集の上で製作。ジャレッド・レト演じるジョーカーの登場シーンが追加されるなど、約4時間の超大作に仕上がっている。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年初夏、デジタル配信&ブルーレイリリース