チャドウィック・ボーズマン最後の主演&プロデュース作
2020年に43歳の若さで世を去ったチャドウィック・ボーズマンは、病魔と闘いながら素晴らしい仕事を残していた。
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2020年のスパイク・リー監督作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(筆者の昨年ベストワンだ)、同じNetflixオリジナル作品『マ・レイニーのブラックボトム』ではゴールデン・グローブ主演男優賞(ドラマ部門)を受賞し、第93回アカデミー賞にもノミネートされている。
そして2021年4月9日(金)より公開される主演作『21ブリッジ』ではプロデュースも務めた。脚本に惚れ込んでのことだという。
マンハッタン封鎖! 復讐のためには手段を選ばない暴走刑事
MCUつながりでもあるルッソ兄弟も製作に名を連ねた本作でボーズマンが演じるのは、NYPDの刑事アンドレ。父は殉職した警官で、アンドレは過去に何人もの犯人を射殺している。すべて正当なものだという説明もされるが、イメージとしては“父の復讐のため悪を許さない暴走刑事”といったところだ。アンドレの同僚たちも、そう思っている。
これは大胆な設定だ。容赦なく犯人を殺すとなると、今はどうしても現実のアメリカ、BLM運動につながった警官たちの暴力を思い起こすことになる。しかしここでは、その警官が黒人なのだ。
アンドレが追うのは麻薬強奪犯2人組。逃走のために警官を次々と殺す。“警官殺し”はアンドレの天敵だ。迅速に対策を講じるアンドレは市にかけあい、マンハッタン島からつながる21の橋を封鎖する。
もちろん、アンドレの周囲の警官たちも黙ってはいない。何しろ同僚たちを殺されたのだ。あっという間に追い詰められていく犯人たち。しかし何かがおかしい。“暴走”するのは、むしろアンドレ以外の警官たちだ。
映画が進むにつれ、事件の背後にある謎が見えてくる。アンドレがただの“暴走刑事”ではないことも分かり、同時に彼は孤立していく。
あのルッソ兄弟が目指したのは、70年代NYの骨太な刑事ドラマ
アンソニー・ルッソは、この『21ブリッジ』について「子供の頃に夢中だったNYの刑事もの」の現代版だと語っている。NYの刑事もの=『フレンチ・コネクション』(1971年)であり『プリンス・オブ・シティ』(1981年)であり『セルピコ』(1973年)だ。本作もまた単なるアクション・サスペンスではなく、骨太な社会派という面を持っている。だからこそボーズマンも惚れ込んだのだろう。
その社会派の面が充分に掘り下げられていないという弱点はある。かわりに『21ブリッジ』はスピード感、タイトな構成が魅力だ。ウィリアム・フリードキンやシドニー・ルメットが“重量級”なら、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019年)などのドラマ演出で知られるブライアン・カーク監督は軽量級ボクサーのようなシャープさで勝負をかけた。
この路線で、ボーズマンの社会派娯楽作が何本も見られたらどんなによかったか。息苦しい時代に、どれだけ救いになったか。あらためてその才能を惜しみ、最大級の敬意を表したい。
文:橋本宗洋
『21ブリッジ』は2021年4月9日(金)より全国公開
『21ブリッジ』
8人の警官を殺した強盗犯を追跡するため、アンドレ刑事はNYマンハッタン島に架かる21の橋を全て封鎖する。だが、追跡を進めるうち、表向きの事件とはまったく別の陰謀があることを悟る。果たしてその真実とは――!?
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2021年4月9日(金)より全国公開