かつてフィリピン映画に『牢獄処刑人』(2013年)という傑作があったが、韓国映画『ザ・バッド・ガイズ』を言い換えると「牢獄捜査官」とでもなるだろうか。凶悪犯を捕まえるため、警察側が減刑を見返りに服役中の囚人を集めて<特殊犯罪捜査課>を組織する、というお話である。以前、本サイトでも紹介されたように、我らが“マブリー”ことマ・ドンソク兄貴が「伝説の拳」と恐れられるヤクザ者パク・ウンチョルに扮し、仲間と共に大暴れするクライム・アクション・エンターテインメントだ。
悪人来たりて鬼畜を討つ!
実は本作は、2014年の韓国ドラマ『バッドガイズ -悪い奴ら-』が下敷きになっている。ドラマでは、「狂犬」と呼ばれる中年刑事オ・グタク(キム・サンジュン)がリーダーとなり、ウンチョルら3人の服役囚が実行部隊として動く、というストーリーが展開した。この映画版ではグタク刑事とウンチョルは続投するが他メンバーは選手交代、犯人逮捕時に相手を死なせてしまい過失致死の罪で服役中の元熱血刑事コ・ユソン(チャン・ギヨン)と、名うての女詐欺師クァク・ノスン(キム・アジュン)が新たに加わる。
今回彼らが追うのは、何者かに襲撃された囚人護送バスから逃走した凶悪犯3人。サイコキラーのパク・ソンテ、脱獄をくり返すキム・チャンミン、そしてヤクザのチュソク組元組長ノ・サンシクという顔ぶれだ。襲撃は組員たちによるサンシク奪取が目的と思われたが、なぜか命を狙われていると感じたサンシクは現場から逃亡。ユソンはこの護送バスに乗り合わせ、襲撃者を目撃していた。またノスンもバスと併走するパトカーで護送されていて、事件後に逃げだそうとしたのだが結局捕えられ捜査課メンバーに加わることになる。
一方ウンチョルは同じ頃、親友だったヤクザのミンチョルが臓器を奪われた遺体で見つかったことから、犯人はサンシクでは? と疑っていた。こうして因縁のある3人がグタク刑事のもとに集い、「大物なら減刑5年、小物なら減刑3年」という条件のもと、凶悪犯逮捕に動き出す。グタク刑事に特殊犯罪捜査課の再結成を命じたのは警察のナンバー2であるオム次長だったが、その裏には大きな陰謀が隠されていて……。
鼻血レベルの「マブリーしぐさ」に悶絶!
主要キャラクターが結構多いので人物相関図がほしいところだが、人間関係がわかっていなくても、アクションと笑いで十分に楽しめる。アクションは、ウンチョルが大暴れする場面がいい頃合いで次々と登場し、鉄拳植木鉢割りや鉄扉引きちぎり、海老反り◯◯砕きなど、マ・ドンソクの腕力と魅力が炸裂する。そのうえ今回は、1シーンだけだがアクションの見せ場を盛り上げてくれる強い味方が登場。ウンチョルの弟分で「幽霊の足」と呼ばれている(その理由は見てのお楽しみ)その男、跳び蹴り、回し蹴りのキレはトニー・ジャー並みだ。
それもそのはず「幽霊の足」を演じているのは、『群盗』(2014年)や『生き残るための3つの取引』(2010年)で武術監督を務めたアクションチームのカン・ヨンムクだという。そのほか、チャン・ギヨンとキム・アジュンもがんばってアクションをこなし、敵の本拠地で繰り広げられるクライマックスは見応え満点に仕上がっている。
さらに楽しいのは、大ワザ小ワザの笑える場面がてんこ盛りなことで、そのほとんどを担っているのがマ・ドンソクときては、目からハートマークも飛ばしたくなろうというもの。何せウンチョルの初登場シーンからして、刑務所の片隅でミシンの直線縫い(!)の練習をしている場面である。しかも、花の刺繍があしらわれたピンクの指なし手袋を装着しているのだからたまらない。この手袋にも曰く因縁があって、そのエピソードも効いているのだが、とにかくこんなギャグがスッスッと差し挟まれていて大笑いできる。
#映画バッドガイズ 注目ポイント
— マ・ドンソク主演 映画『ザ・バッド・ガイズ』公式 (@THEBADGUYS49) March 29, 2021
【ユーモア😎🧨ウンチョル編】
刑務所では新たな趣味に精を出し、ピンクの装具もお似合い!
元手下達への聞き込みの圧には思わずニヤリ。もちろん乱暴な手は使わない......はず?
”マブリー”さで百烈張り手な名シーンの数々、お見逃しなく💕 pic.twitter.com/VfxYemtuQN
しかし一番の爆笑ギャグが、クライマックス中のクライマックス、ラスボスとの対決シーンで登場する、というのはいかがなものか。敵はもちろん身内も震え上がる極悪非道なボスを前に、ウンチョルは日本語でこういい放つのである――「○○○○は抜きでお願いします」。この“○○○○”にはある野菜の名前が入るのだが、一体ボスとの対決にどんな関係が???
他にも「昔からよく言うだろ」で始まるテキトーことわざギャグや、気を失ったユソンを助けようとして○○○○するウンチョル(ここで流れる歌はユン・ジョンシンの「Rebirth」という1996年の曲らしい)等々、笑いのツボが押しまくられる。
世界へ羽ばたけ! マ・ドンソク渾身の握り拳!!
こんな充実のアクションと笑いを仕掛けたのは、ソン・ヨンホ監督と脚本のハン・ジョンフン。ハン・ジョンフンはテレビドラマ版『バッドガイズ』でも脚本を担当し、またソン・ヨンホ監督はかつて『鬼はさまよう』(2015年)という特異なスリラー作品を撮っているが、本作はその二人の才能が豊かに混じり合った佳作と言っていいだろう。
2019年の韓国映画観客動員数で、マ・ドンソク主演の『悪人伝』は第7位、そして『ザ・バッド・ガイズ』が第5位だったのも、本作がより幅広い観客層に支持されたことを示している。
それにしてもマ・ドンソク、本当に魅力的な俳優である。本作に続き『白頭山大噴火』(2019年)も今夏日本公開予定だし、初のハリウッド出演作『エターナルズ(原題)』も2021年10月29日に公開が予定されている。世界へ羽ばたくマ・ドンソク・イヤーの皮切りとして、『ザ・バッド・ガイズ』は必見だ。
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文:松岡 環
『ザ・バッド・ガイズ』は2021年4月9日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開
『ザ・バッド・ガイズ』
囚人たちを乗せた護送車が武装集団に突如襲撃され、凶悪な犯罪者たちが脱走してしまった。この史上最悪の事件を解決するため、警察組織の上層部は元警察官のオ・グタクに指令を出し、重罪で刑務所に収監中の服役囚たちを集めた極秘プロジェクト、“特殊犯罪捜査課”を始動させる。
オ・グタクは“伝説の拳”と呼ばれて恐れられているパク・ウンチョル、どこか信用できないが頭は切れる詐欺師のクァク・ノスン、過失致死罪に問われた無鉄砲な元エリート刑事のコ・ユソンをメンバーとした最凶チームを結成。減刑を条件として、時に協力し合い、時に衝突しながらも凶悪犯たちを追い詰めていく。しかし、今回の事件の背後には国家を揺るがす巨大な陰謀が見え隠れし、謎の組織が暗躍していた。
制作年: | 2019 |
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出演: |
2021年4月9日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開